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Side世良 お前が好き
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璃央が好き。
それに気付いたのはいつだったんだろう。分からない。
だけど璃央が好きなのは『先輩』で、璃央は俺のことなんて良くてセフレ、悪けりゃ無理やりヤッてくるクズ野郎としか思ってないだろう。
いくら可愛いって言ったって、ヤリ終わったらすぐ帰っちまうし。
どうしたら俺のことちゃんと見てくれんだよ。
そんな風に悩んでいたある日、俺は沖田と真柴に誘われてバーに行った。
沖田が今度彼女と行きたいから、下調べのために一緒に行ってくれって言うからさ、ちょっと飲みたい気分だったのもあって、タクシーを使うことにして、俺も飲んだ。
「すげぇ、チョコミントみてぇ」
グラスホッパーというカクテルを飲んだ沖田が、感動してカクテルのグラスを見つめる姿を見ながら、ほろ酔いになった俺は真柴につい、こぼした。
「なあ、心、落とすのってどうしたらいいんだよ」
真柴だけじゃなくて沖田も「え、なになに面白そうな話!」と食い付いて来た。
酔ってた俺はつい、璃央の名前以外のことをありのままに話した。
「体は完全に落ちてんだよなあ。けど、心だけガードが固ぇんだよ」
話を聞いた二人は爆笑した。
「お前、最低最悪のクズじゃん」
「ほんとマジ、ゴミだなゴミ。そりゃその子、先輩の方がいいに決まってるわ」
そう言われるとぐうの音も出なくなって、「う~~」と唸っていたら、散々笑ったあと沖田が言った。
「いやそもそもさぁ、お前その子に好きだって言ったわけ?付き合ってくださいとかさ」
「可愛いとは言ってる」
そう言うと真柴がまた笑い出す。
「それ、エッチしてる最中に言ってる、いっちばん信用できないやつだろーが。しかもさ、トイレってシチュエーションがそもそも最悪なんだけど」
「それな!」
沖田と真柴はまた爆笑して他の客から睨まれ、二人は慌てて声を潜めた。
「けどさ、マジな話、そもそも最初から最悪なんだから、誠心誠意、優しく尽くさなきゃ万に一つも可能性ねぇぞ、それ」
真柴が言うと、沖田も相槌を打つ。
「そうそう。とにかく今までが最悪なんだからさ、1秒に1回くらい好きです、愛してます、って言わなきゃダメなレベルじゃねえ?あともうトイレでヤるのは絶対やめろな」
「・・・そうだよな。分かった。とにかく次会った時からはそうする」
そう言うと真柴は、
「はぁ~、やっとお前もホントに好きなやつ出来たんだな。まあ今までの所業がクズ過ぎて可能性薄いけど、頑張れよ」
とぐっと親指を突き出して来た。
「・・・それ、応援してなくね?」
「あはは、バレたか~!」
「クソ。マジ勘弁しろよ。けっこう俺、キてんだから」
頭を抱えると、沖田が驚いた声を上げた。
「お前がそんな風になってんの、初めて見るわ。マジでその子のこと好きなんだな」
そして、続けて言う。
「でもさ、その子もホントにお前のことが大嫌いだったらエッチなんかしないと思うよ。だからまあ、可能性は薄いけどさ、ひょっとしたらうまく行くかもしれないから、頑張れよな」
「微妙に応援してないんだよなぁ・・・」
そう言うと二人は笑った。
そんなことがあった翌日だった。
昼、璃央を探して学食に行ったら松原と話しているのを見つけた。
よし、優しく、誠心誠意だな・・・
何か妙に緊張する。
近くに行くと、
「え?今日、俺のバ先で飲み会やんの?」
璃央がそう言ってるのが聞こえた。
どうやら今日サークルの飲み会を、璃央が働いている居酒屋でやるらしい。
ってことは、あの例の先輩もいるんだよな・・・ちょっと、気になる。飲み会の案内は来ていたものの、どうせ璃央もいないしと思って一回断ったけど、やっぱ出ようかな。
璃央の肩に手を置いたら、振り返った璃央はぎょっとしてイヤそうな顔をしていた。
大体俺が声掛けるとこんな顔すんだよな。
いつもは気にならないのに、今日は何だか少し落ち込んだ。
とりあえず松原に飲み会に参加することを伝えて、璃央にバイトしてるお前見るの楽しみ、って言ったんだけど、璃央は強張った顔で
「お、おい、絶対、先輩に余計なこと言うなよ・・・」
なんて不安そうにしている。
また先輩のこと気にしてんのか。そんなに俺とのことがバレるのが嫌なのかよ。
そう思うとムカついて、
「余計なことって?あ~、俺と璃央クンが『仲良く』してることとかかな?」
つい、そんな風に言ってしまったら、隅に連れて行かれて、波風立てるつもりかよ、と言われた。
やっぱりまだ先輩と別れる気はねぇんだ。
クソ。
面白くなかったけど、これはチャンスかもなとも思った。あれ以来俺の家に来ようとしない璃央を、先輩のことネタにしてちょっと無理やりにでも泊まらせて、その間誠心誠意尽くせば璃央の気持ちも変わるかも・・・
だから俺は、こんな強引なことすんのもこれが最後だから、と思いながら
「さあな?けどさ、お前が俺んち泊まりに来るなら、お前の先輩には全部黙っておいてやってもいいぜ」
そう言った。
「お、お前・・・ほんっと、クソクズだな!この・・・!」
さすがに璃央もムカついたみたいで声を荒げていたけど、最後には同意してくれた。
よし。
今夜が勝負だ。
俺は心の中でぐっと気合を入れた。
璃央の働いている居酒屋に入ると、すぐに璃央が出て来て、皆からドリンクのオーダーを取り始めた。
・・・制服姿、可愛すぎだろ。
俺の視線に気付いたのか璃央がこっちをじっと見て、それだけで隣にへばりついているうるせー女たちのことも一瞬忘れられた。
店内を見回すと、若い店員ばかりだ。
その中に、目立つ、茶髪のイケメンがいた。何となくピンと来る。もしかしてあいつが陸人先輩じゃねぇ?
だからトイレ行くっつって璃央に案内してもらった時に、カマ掛けてみたら、アホ可愛い璃央は見事に引っ掛かって、やっぱりあれが陸人先輩なんだって分かった。
「あいつといつもヤッてんだ。へーえ、そーかー」
考えたって気分悪くなるだけなのに、あいつが璃央を組み敷いて腰振ってるとこをつい想像して、そんな言葉が出てしまった。
璃央は仕事に早く戻ろうとして、あんまり聞いてなかったけどな。
そのあとは周りに集まってる女の話に適当に付き合ってたけど、ドリンクを作ってる『先輩』と嬉しそうな顔で話す璃央を見ると、どうしようもなくもやもやした。
・・・帰ろ。
「ごめん、俺抜けるから」
そう言うと、周りにいた女たちから
「じゃあさ、ウチらみんなで抜けて、カラオケとか行かない?」
「い~じゃん、さんせーい」
なんて声が上がったけど、
「悪いけどさ、これからデートだから」
と言うと、しんと静かになった。その隙に店を出たら、後ろで「え~やっぱ彼女いたんだぁ」「え~ん、ショックぅ」なんて声が聞こえて来たけど、これでもうちょっかい掛けて来ることねぇだろ。
帰る途中でコンビニに寄って、水買うついでにゴムも買っておいた。
店員の男が一瞬、『こいつこんなにヤんのかよ!?』みたいな顔で俺のこと盗み見したのはウケたな。
そして俺はバイトの終わった璃央を迎えに行って、今度こそ誠心誠意、優しく、尽くそうと努力した。
だけど俺は今まで誰かとちゃんと付き合ったことなんかない。いつも一回、良くて数回の、しかも体だけの関係しか持ったことなかったから、どうしたらいいのか、何が正解なのか分からない。
「はーぁ、お前って純愛なんかしたことねーんだろうな」
車の中で璃央に言われた。
可愛いこと言うな、と思いながら思わず茶化してしまったら、
「普通にあるだろ純愛!この人のことがめちゃくちゃ好きで、いつでも一緒にいたくて、その人のこと考えるだけで胸がきゅうっとして疼くとか、顔見るとぎゅってしたくなるとかさ!」
ムキになった璃央の言葉に、思う。
それ、今の俺じゃん。
俺が、璃央に感じることじゃん。
でもすぐにそんな言葉が出て来るってことは、璃央はあのセンパイのこと、そう思ってんだろうな。
そう思うと気持ちが少し沈んだ。
だけど「じゃあお前、そういうのあの先輩に感じるんだ」そう言った俺の言葉に、璃央はなぜだか言葉を濁して、躊躇って、ハッキリそうだと言わなかった。
今まではこういうこと言うと、すぐにそうだよ、とか俺が好きなのは先輩だ、とか返って来たのに。
ほんの少し、もしかしたら、って気持ちが芽生える。
焼肉を奢ったら璃央はもの凄く喜んでくれて、上機嫌で俺も嬉しくなった。
車に乗せたら、梅酒一杯しか飲んでないのに、酔って気持ち良くなったのかうとうとしていて、それも可愛かった。
「璃央、俺・・・お前のこと、好きなんだ」
そう言ってみたけど、横を見たら完全に寝てた。
「聞いてないか・・・」
♢♢♢♢
逸る気持ちを押さえて部屋に入ったら、璃央は風呂に入りたいと言った。一緒に入って洗ってやると言ってみたら、酔ってるからなのか無抵抗だった。
おまけに「ベッドに行こう」と言ったら「抱いて連れてけよ」なんて・・・
―――ぅぐっ、なんだよ、この可愛いの?
一気に完勃ちしてしまった。
璃央も酔ってるせいか、いつもより素直で、可愛くて・・・
ベッドに下ろしたらもう我慢出来なくて覆い被さると、璃央も無意識なのか俺の背中に手を回して来て、ますます昂った。
だけど大事にしたくて、
「抱いていい?優しくするから」
って言ったら、璃央は呆れた声を出した。
「なんだよ、最初からそのつもりなくせに、確認なんか取ってさ。お前がそのつもりなの分かってんだから、ヤればいいだろ」
「お前の口から、いいって言って貰いたいんだよ」
懇願するように言ったら、璃央は目を丸くしていたけど、ふっと笑って・・・
「いいよ。抱いて。俺のこと、いっぱい気持ち良くして、イかせてよ」
その言葉に理性の糸が切れた。
もう何が何だか分からなくなって、頭がどうにかなってしまったみたいだった。
「璃央、好き、好きだっ、すきっ」
夢中で思わず、真柴の言う『いっちばん信用できないセックスの最中』に、何度も好きと言ってしまった。
ああ、こんなんじゃ、またまともに受け取ってもらえねぇ。
終わると璃央は疲れ果ててすぐ眠ってしまったから、何としても翌日挽回しようと思ってたのに、璃央が起きて来たのは夕方で。
しかも「バイトに遅れる!」と慌てふためいていて、告白する流れじゃなくて。
やっと落ち着いた車中で、今しかない、と俺はやっとの思いでそれを口にした。
「璃央、俺、お前のこと好きだよ」
それを聞いた璃央は、信じられない、みたいな驚いた声を上げて思いっきり戸惑っていたから、念押しで二回言った。
でも、
「んなこと言ってもお前・・・すっげぇ遊んでんだろ?そういうこと、全員に言ってんじゃねーの?いまいち信用できねーんだよな、お前のこと」
そんな風に言われてしまって、今さら後悔したって仕方ないけど、過去の自分がやったことはどうしようもなくて、俺は黙り込むしかなかった。
でも過去は変えられなくても、これからのことは変えられる。
俺はもう前みたいなことはしない。璃央が嫌がることも一切しない。
「・・・どうしたら信じてくれる?」
そう聞いたら、
「え、ええ~?そんなの・・・分かんねーよ・・・」
璃央は戸惑いながらぼそっと呟いた。
「でも、俺がお前のこと好きなのは本当だから。部屋に連れて来たのだって、お前が初めてだから」
そう言ったら璃央は「ふーん・・・」と言って黙り込んだけど、この場で「そんなのあり得ねーよ」とか「俺が好きなのは先輩だから」って言われなかったんだから、まだマシだ。
璃央が先輩を好きだっていい。
これから、どんなに時間が掛かっても、俺は璃央に好きだって言葉でも態度でも表し続けるし、こいつを好きで居続ける。
俺はそう思って、ハンドルをぎゅっと握り直した。
それに気付いたのはいつだったんだろう。分からない。
だけど璃央が好きなのは『先輩』で、璃央は俺のことなんて良くてセフレ、悪けりゃ無理やりヤッてくるクズ野郎としか思ってないだろう。
いくら可愛いって言ったって、ヤリ終わったらすぐ帰っちまうし。
どうしたら俺のことちゃんと見てくれんだよ。
そんな風に悩んでいたある日、俺は沖田と真柴に誘われてバーに行った。
沖田が今度彼女と行きたいから、下調べのために一緒に行ってくれって言うからさ、ちょっと飲みたい気分だったのもあって、タクシーを使うことにして、俺も飲んだ。
「すげぇ、チョコミントみてぇ」
グラスホッパーというカクテルを飲んだ沖田が、感動してカクテルのグラスを見つめる姿を見ながら、ほろ酔いになった俺は真柴につい、こぼした。
「なあ、心、落とすのってどうしたらいいんだよ」
真柴だけじゃなくて沖田も「え、なになに面白そうな話!」と食い付いて来た。
酔ってた俺はつい、璃央の名前以外のことをありのままに話した。
「体は完全に落ちてんだよなあ。けど、心だけガードが固ぇんだよ」
話を聞いた二人は爆笑した。
「お前、最低最悪のクズじゃん」
「ほんとマジ、ゴミだなゴミ。そりゃその子、先輩の方がいいに決まってるわ」
そう言われるとぐうの音も出なくなって、「う~~」と唸っていたら、散々笑ったあと沖田が言った。
「いやそもそもさぁ、お前その子に好きだって言ったわけ?付き合ってくださいとかさ」
「可愛いとは言ってる」
そう言うと真柴がまた笑い出す。
「それ、エッチしてる最中に言ってる、いっちばん信用できないやつだろーが。しかもさ、トイレってシチュエーションがそもそも最悪なんだけど」
「それな!」
沖田と真柴はまた爆笑して他の客から睨まれ、二人は慌てて声を潜めた。
「けどさ、マジな話、そもそも最初から最悪なんだから、誠心誠意、優しく尽くさなきゃ万に一つも可能性ねぇぞ、それ」
真柴が言うと、沖田も相槌を打つ。
「そうそう。とにかく今までが最悪なんだからさ、1秒に1回くらい好きです、愛してます、って言わなきゃダメなレベルじゃねえ?あともうトイレでヤるのは絶対やめろな」
「・・・そうだよな。分かった。とにかく次会った時からはそうする」
そう言うと真柴は、
「はぁ~、やっとお前もホントに好きなやつ出来たんだな。まあ今までの所業がクズ過ぎて可能性薄いけど、頑張れよ」
とぐっと親指を突き出して来た。
「・・・それ、応援してなくね?」
「あはは、バレたか~!」
「クソ。マジ勘弁しろよ。けっこう俺、キてんだから」
頭を抱えると、沖田が驚いた声を上げた。
「お前がそんな風になってんの、初めて見るわ。マジでその子のこと好きなんだな」
そして、続けて言う。
「でもさ、その子もホントにお前のことが大嫌いだったらエッチなんかしないと思うよ。だからまあ、可能性は薄いけどさ、ひょっとしたらうまく行くかもしれないから、頑張れよな」
「微妙に応援してないんだよなぁ・・・」
そう言うと二人は笑った。
そんなことがあった翌日だった。
昼、璃央を探して学食に行ったら松原と話しているのを見つけた。
よし、優しく、誠心誠意だな・・・
何か妙に緊張する。
近くに行くと、
「え?今日、俺のバ先で飲み会やんの?」
璃央がそう言ってるのが聞こえた。
どうやら今日サークルの飲み会を、璃央が働いている居酒屋でやるらしい。
ってことは、あの例の先輩もいるんだよな・・・ちょっと、気になる。飲み会の案内は来ていたものの、どうせ璃央もいないしと思って一回断ったけど、やっぱ出ようかな。
璃央の肩に手を置いたら、振り返った璃央はぎょっとしてイヤそうな顔をしていた。
大体俺が声掛けるとこんな顔すんだよな。
いつもは気にならないのに、今日は何だか少し落ち込んだ。
とりあえず松原に飲み会に参加することを伝えて、璃央にバイトしてるお前見るの楽しみ、って言ったんだけど、璃央は強張った顔で
「お、おい、絶対、先輩に余計なこと言うなよ・・・」
なんて不安そうにしている。
また先輩のこと気にしてんのか。そんなに俺とのことがバレるのが嫌なのかよ。
そう思うとムカついて、
「余計なことって?あ~、俺と璃央クンが『仲良く』してることとかかな?」
つい、そんな風に言ってしまったら、隅に連れて行かれて、波風立てるつもりかよ、と言われた。
やっぱりまだ先輩と別れる気はねぇんだ。
クソ。
面白くなかったけど、これはチャンスかもなとも思った。あれ以来俺の家に来ようとしない璃央を、先輩のことネタにしてちょっと無理やりにでも泊まらせて、その間誠心誠意尽くせば璃央の気持ちも変わるかも・・・
だから俺は、こんな強引なことすんのもこれが最後だから、と思いながら
「さあな?けどさ、お前が俺んち泊まりに来るなら、お前の先輩には全部黙っておいてやってもいいぜ」
そう言った。
「お、お前・・・ほんっと、クソクズだな!この・・・!」
さすがに璃央もムカついたみたいで声を荒げていたけど、最後には同意してくれた。
よし。
今夜が勝負だ。
俺は心の中でぐっと気合を入れた。
璃央の働いている居酒屋に入ると、すぐに璃央が出て来て、皆からドリンクのオーダーを取り始めた。
・・・制服姿、可愛すぎだろ。
俺の視線に気付いたのか璃央がこっちをじっと見て、それだけで隣にへばりついているうるせー女たちのことも一瞬忘れられた。
店内を見回すと、若い店員ばかりだ。
その中に、目立つ、茶髪のイケメンがいた。何となくピンと来る。もしかしてあいつが陸人先輩じゃねぇ?
だからトイレ行くっつって璃央に案内してもらった時に、カマ掛けてみたら、アホ可愛い璃央は見事に引っ掛かって、やっぱりあれが陸人先輩なんだって分かった。
「あいつといつもヤッてんだ。へーえ、そーかー」
考えたって気分悪くなるだけなのに、あいつが璃央を組み敷いて腰振ってるとこをつい想像して、そんな言葉が出てしまった。
璃央は仕事に早く戻ろうとして、あんまり聞いてなかったけどな。
そのあとは周りに集まってる女の話に適当に付き合ってたけど、ドリンクを作ってる『先輩』と嬉しそうな顔で話す璃央を見ると、どうしようもなくもやもやした。
・・・帰ろ。
「ごめん、俺抜けるから」
そう言うと、周りにいた女たちから
「じゃあさ、ウチらみんなで抜けて、カラオケとか行かない?」
「い~じゃん、さんせーい」
なんて声が上がったけど、
「悪いけどさ、これからデートだから」
と言うと、しんと静かになった。その隙に店を出たら、後ろで「え~やっぱ彼女いたんだぁ」「え~ん、ショックぅ」なんて声が聞こえて来たけど、これでもうちょっかい掛けて来ることねぇだろ。
帰る途中でコンビニに寄って、水買うついでにゴムも買っておいた。
店員の男が一瞬、『こいつこんなにヤんのかよ!?』みたいな顔で俺のこと盗み見したのはウケたな。
そして俺はバイトの終わった璃央を迎えに行って、今度こそ誠心誠意、優しく、尽くそうと努力した。
だけど俺は今まで誰かとちゃんと付き合ったことなんかない。いつも一回、良くて数回の、しかも体だけの関係しか持ったことなかったから、どうしたらいいのか、何が正解なのか分からない。
「はーぁ、お前って純愛なんかしたことねーんだろうな」
車の中で璃央に言われた。
可愛いこと言うな、と思いながら思わず茶化してしまったら、
「普通にあるだろ純愛!この人のことがめちゃくちゃ好きで、いつでも一緒にいたくて、その人のこと考えるだけで胸がきゅうっとして疼くとか、顔見るとぎゅってしたくなるとかさ!」
ムキになった璃央の言葉に、思う。
それ、今の俺じゃん。
俺が、璃央に感じることじゃん。
でもすぐにそんな言葉が出て来るってことは、璃央はあのセンパイのこと、そう思ってんだろうな。
そう思うと気持ちが少し沈んだ。
だけど「じゃあお前、そういうのあの先輩に感じるんだ」そう言った俺の言葉に、璃央はなぜだか言葉を濁して、躊躇って、ハッキリそうだと言わなかった。
今まではこういうこと言うと、すぐにそうだよ、とか俺が好きなのは先輩だ、とか返って来たのに。
ほんの少し、もしかしたら、って気持ちが芽生える。
焼肉を奢ったら璃央はもの凄く喜んでくれて、上機嫌で俺も嬉しくなった。
車に乗せたら、梅酒一杯しか飲んでないのに、酔って気持ち良くなったのかうとうとしていて、それも可愛かった。
「璃央、俺・・・お前のこと、好きなんだ」
そう言ってみたけど、横を見たら完全に寝てた。
「聞いてないか・・・」
♢♢♢♢
逸る気持ちを押さえて部屋に入ったら、璃央は風呂に入りたいと言った。一緒に入って洗ってやると言ってみたら、酔ってるからなのか無抵抗だった。
おまけに「ベッドに行こう」と言ったら「抱いて連れてけよ」なんて・・・
―――ぅぐっ、なんだよ、この可愛いの?
一気に完勃ちしてしまった。
璃央も酔ってるせいか、いつもより素直で、可愛くて・・・
ベッドに下ろしたらもう我慢出来なくて覆い被さると、璃央も無意識なのか俺の背中に手を回して来て、ますます昂った。
だけど大事にしたくて、
「抱いていい?優しくするから」
って言ったら、璃央は呆れた声を出した。
「なんだよ、最初からそのつもりなくせに、確認なんか取ってさ。お前がそのつもりなの分かってんだから、ヤればいいだろ」
「お前の口から、いいって言って貰いたいんだよ」
懇願するように言ったら、璃央は目を丸くしていたけど、ふっと笑って・・・
「いいよ。抱いて。俺のこと、いっぱい気持ち良くして、イかせてよ」
その言葉に理性の糸が切れた。
もう何が何だか分からなくなって、頭がどうにかなってしまったみたいだった。
「璃央、好き、好きだっ、すきっ」
夢中で思わず、真柴の言う『いっちばん信用できないセックスの最中』に、何度も好きと言ってしまった。
ああ、こんなんじゃ、またまともに受け取ってもらえねぇ。
終わると璃央は疲れ果ててすぐ眠ってしまったから、何としても翌日挽回しようと思ってたのに、璃央が起きて来たのは夕方で。
しかも「バイトに遅れる!」と慌てふためいていて、告白する流れじゃなくて。
やっと落ち着いた車中で、今しかない、と俺はやっとの思いでそれを口にした。
「璃央、俺、お前のこと好きだよ」
それを聞いた璃央は、信じられない、みたいな驚いた声を上げて思いっきり戸惑っていたから、念押しで二回言った。
でも、
「んなこと言ってもお前・・・すっげぇ遊んでんだろ?そういうこと、全員に言ってんじゃねーの?いまいち信用できねーんだよな、お前のこと」
そんな風に言われてしまって、今さら後悔したって仕方ないけど、過去の自分がやったことはどうしようもなくて、俺は黙り込むしかなかった。
でも過去は変えられなくても、これからのことは変えられる。
俺はもう前みたいなことはしない。璃央が嫌がることも一切しない。
「・・・どうしたら信じてくれる?」
そう聞いたら、
「え、ええ~?そんなの・・・分かんねーよ・・・」
璃央は戸惑いながらぼそっと呟いた。
「でも、俺がお前のこと好きなのは本当だから。部屋に連れて来たのだって、お前が初めてだから」
そう言ったら璃央は「ふーん・・・」と言って黙り込んだけど、この場で「そんなのあり得ねーよ」とか「俺が好きなのは先輩だから」って言われなかったんだから、まだマシだ。
璃央が先輩を好きだっていい。
これから、どんなに時間が掛かっても、俺は璃央に好きだって言葉でも態度でも表し続けるし、こいつを好きで居続ける。
俺はそう思って、ハンドルをぎゅっと握り直した。
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