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29.母親
しおりを挟む森を抜け、酒屋に入るとルカ様が待っていた。
「ルネア!!」
ルカ様は私の姿を見るとすぐに駆け寄ってきて、私をぎゅっと抱きしめた。
「すみません、ルカ様。心配をおかけしました。」
「何を言ってるんだ。ルネアが無事で・・・本当に良かった。義父さん・・・ルネアを救ってくれて、本当にありがとうございます。」
「いいえ。ルカ様も無事逃げられて何よりです。」
お、義父さん・・・?!
ルカ様が師匠に対して敬語を使っている・・・!
「ルカ様、この服に着替えて早くこの場所を離れましょう。いつ追手がくるかわかりませんから。」
そう言って、師匠はルカ様に小袋を渡す。酒屋でルカ様の服は高貴すぎて、この場所では目立ってしまう。
「分かった。問題はどこに逃げるかだが・・・。内部に裏切り者がいると分かった以上、城に戻るわけにはいかないしな・・・。」
「ひとまず、私の隠れ家に来てください。汚いところですが・・・そこに気づかれることはないでしょう。」
師匠の言葉に、ルカ様は大きく頷いた。
それから、師匠に連れられて表通りとは少し離れた下町に向かった。華やかな表通りとは違い、古びた町並みが広がる。
「ここです。」
案内された師匠の家は、こじんまりとしているが、暖かみのある木造の家だった。
「義父さん。話したい事、というのは・・・?」
テーブルにつくとすぐに、ルカ様が師匠に尋ねた。いつの間に"おとうさん"と呼ぶようになっていたのか。ルカ様が師匠を呼ぶ度、少し嬉しくなる。
"偽の婚約者"の体裁を、師匠の前でも保ってくれるなんて・・・。しかも師匠は私の本当の父ではない。
もう城を出た以上、婚約者のふりをする必要はないのに・・・ああ、だめだ。やっぱり嬉しい。
「そうでした。今からお話することは、ルカ様だけでなく・・・ルネアの過去にも関係することです。」
真剣な表情の師匠。はっとして、私は顔をあげた。
「私の過去・・・なにか分かったのですか?」
「ああ。まだ全てが分かった訳ではないがな。王妃ミラノリにスパイの容疑をかけられなければ、もっと動きやすかったんだが・・・まあ、ルネアの過去の手がかりはいくつか手に入ったんだ。」
私の過去・・・。ルカ様と関係があるの・・・?
「教えてください。」
ルカ様がぎゅっと私の手を握った。
師匠は私とルカ様を交互に見たあと、ゆっくりと話し始めた。
「17年前、ルネアが倒れていた西ノ森。その森は一軒の大きなお屋敷がありました。そこに住んでいらっしゃったのは、当時皇太子であったガーラン様の元婚約者ラミナ様です。」
「元婚約者・・・。」
「はい。ラミナ様は正式な婚約者でしたが、不貞を疑われ西ノ森の屋敷に幽閉されていました。ラミナ様は屋敷から出ることはできず、彼女をお世話するのは一人の使用人だけでした。」
ラミナ様・・・。聞いたことが無い名前だ。少なくともその事実は公になっているものではない。
「ある日、西ノ森に火事が起き、屋敷は全て焼け落ちてしまったそうです。」
そう言って、師匠は私をじっと見つめた。
「そして、ちょうどその火事が起こった日なんだよ。ルネア。
私がお前を拾ったのは。思えば、あの日のルネアの服は少し焼けていた。きっとあの日、お前は火事から逃げてあの場所に倒れていたんだ。」
「火事に巻き込まれて皆亡くなってしまったのですか・・・?」
もしかして、私の両親も・・・?
師匠は小さく首を振った。
「いいや。少なくとも、使用人の女性がいき残っていることはわかっている。使用人の女性は今も西ノ森に時々戻り、消えてしまった娘の行方を探しているらしいのだ。」
「消えてしまった・・・娘・・・?」
上手く息が吸えない。
「ああ。西ノ森に隣接する村の老人は言っていた。その人は、ルネアお前と同じ青い瞳を持っていて、衣服店を営んでいるらしいのだ。」
「衣服店・・・だと?」
ルカ様が身を乗り出した。
師匠は、ルカ様の方に向きを変えた。
「ルカ様にお話したかったのは、そのことなのです。都で衣服店を営む女性・・・彼女の名前はアリア。貴方の育ての親をしていた人です。」
「アリアが・・・!」
「ルカ様は、アリアの行方を知っていますか?私はなんとしてもアリアにルネアを会わせてあげたいのです。」
そう言って、師匠は大きく頭を下げた。
ずっと・・・諦めていた。
きっと、私の両親はすでに死んでしまったんだと。
でも・・・お母さんに会えるかもしれないのーーー??
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