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婚約破棄をするのは決まったことだ!

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「ね、触って!

 今動いたよ!」



私は大きなお腹に手を当てて、

婚約者のシモンズに言った。


初夏の爽やかな朝。



私は妊娠8ヶ月だった。


私の名前はユメ・トライデント。

貴族トライデント家の長女である。



一年前に、

幼馴染であるシモンズと 

婚約をした。



「お!!


 ほんとだ!」


シモンズもしゃがみこんで、


私のお腹に触れた。


シモンズ・デュークは

デューク家の長男。


親同士の仲がよく、

身分も完全に釣り合っている。


私達の結婚に何の障害も無かった。



「もう少しで、

 赤ちゃんに会えるんだねぇ。」



大好きなシモンズの子供が産めるなんて

夢みたいだ。



 
「幸せだなぁ、ユメ。」


シモンズは、

私の手を握って、

そう呟いた。




その二ヶ月後、

私はシモンズの子供を産み、

アサという名前をつけた。



だが、そのさらに二ヶ月後

私は自分の子供を奪われることになった。



私の父が汚職によって

大臣の職を失った。


さらに貴族として

身分を取り上げられたトライデント家は

罪人として都を追われることに

なったのだ。




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「お願い、、、、!


 私の子供を返して、、、!



 ねぇ!!」


私はデューク家の玄関を

ドンドンと叩いた。



屋敷の中から

私の赤ちゃんの

泣き声が聞こえる。



「ねぇ!!


 私のことを呼んでるのよ!!


 お願い。」


扉を叩く拳から

血が滲んでくる。



アサを取り上げられてから、

一週間、

この家に通っている。


だが、

一度もアサに会わせてもらっていない。



ガチャリ。


扉が空いた。


「シモンズ!!


 ねぇ、お願い!!」



シモンズは、

淀んだ目で私を見た。



「帰ってくれ。」

シモンズは冷たい声で私に言った。



「どうして?!


 私達愛し合ってるのよ?!


 それにアサは


 私の子供なのに!!!」



シモンズ、

もうあなたしか、

頼れる人がいないの。




「ユメ、

 仕方ないだろう。


 僕たちが婚約破棄するのは


 もう決まったことなんだから。」


そう言ってシモンズは

バタンと扉を閉めた。



子供を取り上げられることに、

納得できる理由なんて

あるのかしら?



しかし、それ以上どんなに叫んでも

扉が開くことは無かった。
 



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ガシャッン!!


デューク家

アサの寝室の窓ガラスが割られた。



「私の、


 大切な赤ちゃん。」



物音に気がついた使用人が

駆けつけた時には、

アサは連れ去られていた。



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「助けて、、。」




アサを、

どこか安全な場所に、、。



頭がぽーっとする。


目が回る。


アサを抱きしめて、

夢中で逃げ、


逃げ込める場所を探した。


だが、泥だらけで、

一銭のお金も持っていない私を

受け入れてくれる宿は無かった。



家族は皆、

もうすでに都を離れていた。


家族が住む、隣国まで行けば、、。


そう思って、必死で歩くも、

もう体力が尽きようとしていた。



アサはおりこうに、

すやすやと眠っている。



「おい、だいじょうぶか?」

誰かが、

私に声をかけた。



貴方はだれ?

わからないけど、


「アサを助けて、、」


そう言って、

アサを手渡すと、

私はその場に倒れ込んだ。




「どうしましたか?!


 コンドル王子!!」


隣国のコンドル王子は

首をかしげた。



「うーん。

 わからないけど、、。」



コンドル王子はにっこりと笑った。



「僕の前に、


 幸福の天使が


 現れたのかもね。」



偶然、

ユメが倒れた道を通りかかったのは、

隣国ユグノ国の王子コンドルだった。




コンドルは、

子供ができない体質で、

長い間跡継ぎの問題に

苦しめられていた。




「ねぇ、赤ちゃん。

 僕が君を助けたら、


 僕を父と思ってくれるかな?」


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「僕がアサの


 父親代わりになるよ。」


ユメを保護したコンドルは、

アサを自分の子供のように

可愛がってくれた。




「コンドル様、、。


 なんとお礼を言ったらいいのか、、。」




「いいや。


 僕こそ、父親になる夢を


 叶えられたようだよ。」



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「ユメッ。


 コンドル様のおかげで


 ユグノ国で職を得られたよ!!」


父は私を抱きしめて、

涙ながらに語った。


無実の罪を押し付けられた父は

新しい仕事を得られて嬉しそうだった。



そして、その一年後

私はコンドル様と結婚した。



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「ね、ユメ。」


コンドル様は、

眠ったアサの寝顔を眺めながら

言った。



「全部、君のおかげだ。


 君のおかげで、


 僕の願いは


 全部かなったよ。」



私は、

コンドル様の肩にもたれかかった。



「それは、


 私のセリフですよ。


 コンドル様。


 愛しております。」



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その後、

強国であるユグノ国は、

私の母国であるカイナル国を

侵略した。



カイナル国の国力では

ユグノ国に全く歯が立たなかった。


あっけなくカイナル国は敗れ、 

国は崩壊した。



その戦いの中で、

シモンズは命を落としたらしいと

父が教えてくれた。



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