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15、陣容を整える
女騎士アリナ
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恭親王が切れ長の瞳を見開く前で、アリナと呼ばれた女騎士は優雅に一礼した。女にしては背が高く、黒く長い髪をひとまとめにし、背中に垂らしている。
「アリナと申します。司隷の州騎士団の団長をしております、マイセンの四女です。わたくしも及ばずながら、女騎士として神殿警備の任にあたっておりました」
帝都を含む司隷の州騎士団は、代々十二貴嬪家の一つ、ゲセル家が団長を務めている。その末娘とはいえ、女騎士とは珍しい。
「本来ならば二年前に結婚する予定が、俺のケガやら父の喪やらで延び延びになっていたところに、今回も赴任が決まりまして。一人で来るつもりだったのですが、これ以上婚期が遅れるのは嫌だと泣かれてしまいました……」
「どうせならと、俺が証人になって、ダルバンダルの太陽神殿で式を上げさせたのだ。そうでもしないと、この朴念仁のことだから、一生婚約状態のままだからな」
照れて頭を掻くゾーイを、詒郡王が茶化す。
「そうだったのか、ダヤンに証人役を取られたのは不満だが、めでたいことに文句を言ってはいけないな。アリナ……と言ったか。ゾーイともども、幾久しく頼む」
にっこりと美麗な笑みを浮かべて歓迎の意を表す恭親王を、アリナとゾーイは顔を見合わせ、恥ずかしそうに頷いた。
「アリナは女だてらに一流の武芸者です。女ですので巡検には参加いたしませんが、母親譲りの魔力があります。殿下の奥方の護衛に使っていただければ、こんな栄誉なことはありません」
アリナの母、つまりゲセル家の正室は今上帝の公主の一人である。公主も微弱ながら〈王気〉を纏い、その所生の娘は強い魔力を受け継ぐ。アリナの長姉は十二貴嬪家筆頭のブライエ家に嫁ぎ、娘を生んでおり、次世代の皇后につくことが期待されている。こうして女系にも強い魔力が伝えられていくのである。
「そうか。つまり……アリナは私の姪になるのか。もしかして……魔力も使えるのか?」
恭親王の返答に、アリナがはにかみながらも、きりっとしたお辞儀をする。
「畏れ多いことにございます。魔力については、騎士団に勤める兄たちとともに鍛錬を積みました」
恭親王はアリナの男らしいお辞儀を見て、天の助けだと感じた。
「その……アデライード姫に、魔力制御の指南をしてもらいたいのだ。どうも半端な魔力封じがかかっていて、余剰魔力が停滞して体調も悪い。まずは体力づくりから始めないといけないと思うのだが……」
恭親王の申し出に、ゾーイが眉を顰める。
「……その、ご〈聖婚〉の姫君に、でございますか? それはアリナには、些か荷が重いのでは……」
「失礼ね!あたしだって、二十歳になるまで毎日鍛錬を続けてきたわ! お姫様にご指南するくらい……」
「いや、神殿の女騎士など、拝殿前の飾りのような仕事に過ぎぬ。もし指南が必要であれば、俺が……」
夫婦で言い争うのに、恭親王が一喝する。
「男にそんなもの頼めるわけがなかろう!……ほんの基礎的なことからでいい、アリナに頼みたい」
アリナの顔が悦びに輝いた。
「はい!非才の身に替えて、精一杯務めさせていただきます!」
「ついては一両日中にも、聖地に向かってもらうことになるな……この際だから、ゾラも交替させるか」
「それがよろしいかもしれません。ゾラは少々、調子に乗りすぎております」
ゲルも頷いた。
挨拶が一通り済むと、恭親王はゾーイが持ってきた辞令を改める。この正式な書類により、ゲルは正傅に昇進し、ゾーイが副傅に、エンロンは侍従文官となった。ゲルとゾーイ、そしてエンロンに正式な任官手続きのための署名をさせ、恭親王が花押を書き入れる。そしてそれをエンロンに渡して総督府側の手続きを行うように命じた。
「今夜は久しぶりにぱっとやるか。厨房には腕を振るうよう言っておいてくれ」
懸案事項も解決し、恭親王は腹心の部下との久々の再会を喜んだ。
「アリナと申します。司隷の州騎士団の団長をしております、マイセンの四女です。わたくしも及ばずながら、女騎士として神殿警備の任にあたっておりました」
帝都を含む司隷の州騎士団は、代々十二貴嬪家の一つ、ゲセル家が団長を務めている。その末娘とはいえ、女騎士とは珍しい。
「本来ならば二年前に結婚する予定が、俺のケガやら父の喪やらで延び延びになっていたところに、今回も赴任が決まりまして。一人で来るつもりだったのですが、これ以上婚期が遅れるのは嫌だと泣かれてしまいました……」
「どうせならと、俺が証人になって、ダルバンダルの太陽神殿で式を上げさせたのだ。そうでもしないと、この朴念仁のことだから、一生婚約状態のままだからな」
照れて頭を掻くゾーイを、詒郡王が茶化す。
「そうだったのか、ダヤンに証人役を取られたのは不満だが、めでたいことに文句を言ってはいけないな。アリナ……と言ったか。ゾーイともども、幾久しく頼む」
にっこりと美麗な笑みを浮かべて歓迎の意を表す恭親王を、アリナとゾーイは顔を見合わせ、恥ずかしそうに頷いた。
「アリナは女だてらに一流の武芸者です。女ですので巡検には参加いたしませんが、母親譲りの魔力があります。殿下の奥方の護衛に使っていただければ、こんな栄誉なことはありません」
アリナの母、つまりゲセル家の正室は今上帝の公主の一人である。公主も微弱ながら〈王気〉を纏い、その所生の娘は強い魔力を受け継ぐ。アリナの長姉は十二貴嬪家筆頭のブライエ家に嫁ぎ、娘を生んでおり、次世代の皇后につくことが期待されている。こうして女系にも強い魔力が伝えられていくのである。
「そうか。つまり……アリナは私の姪になるのか。もしかして……魔力も使えるのか?」
恭親王の返答に、アリナがはにかみながらも、きりっとしたお辞儀をする。
「畏れ多いことにございます。魔力については、騎士団に勤める兄たちとともに鍛錬を積みました」
恭親王はアリナの男らしいお辞儀を見て、天の助けだと感じた。
「その……アデライード姫に、魔力制御の指南をしてもらいたいのだ。どうも半端な魔力封じがかかっていて、余剰魔力が停滞して体調も悪い。まずは体力づくりから始めないといけないと思うのだが……」
恭親王の申し出に、ゾーイが眉を顰める。
「……その、ご〈聖婚〉の姫君に、でございますか? それはアリナには、些か荷が重いのでは……」
「失礼ね!あたしだって、二十歳になるまで毎日鍛錬を続けてきたわ! お姫様にご指南するくらい……」
「いや、神殿の女騎士など、拝殿前の飾りのような仕事に過ぎぬ。もし指南が必要であれば、俺が……」
夫婦で言い争うのに、恭親王が一喝する。
「男にそんなもの頼めるわけがなかろう!……ほんの基礎的なことからでいい、アリナに頼みたい」
アリナの顔が悦びに輝いた。
「はい!非才の身に替えて、精一杯務めさせていただきます!」
「ついては一両日中にも、聖地に向かってもらうことになるな……この際だから、ゾラも交替させるか」
「それがよろしいかもしれません。ゾラは少々、調子に乗りすぎております」
ゲルも頷いた。
挨拶が一通り済むと、恭親王はゾーイが持ってきた辞令を改める。この正式な書類により、ゲルは正傅に昇進し、ゾーイが副傅に、エンロンは侍従文官となった。ゲルとゾーイ、そしてエンロンに正式な任官手続きのための署名をさせ、恭親王が花押を書き入れる。そしてそれをエンロンに渡して総督府側の手続きを行うように命じた。
「今夜は久しぶりにぱっとやるか。厨房には腕を振るうよう言っておいてくれ」
懸案事項も解決し、恭親王は腹心の部下との久々の再会を喜んだ。
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