【R18】陰陽の聖婚Ⅰ:聖なる婚姻

無憂

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16、致命的な失敗

総督の寝台

 恭親王はアデライードの手を引き、彼女を別邸にある総督の私室に連れ込んだ。

 メイローズが別邸にいれば全力で止めたに違いないが、今、別邸には恭親王に逆らえる人物はいない。四阿あずまやを遠くから監視していたアリナは、二人が口づけを交わす場面を目にして、少しの間視線を外したのである。ふと目をあげれば、二人は手を取り合って四阿を後にしており、そのまま間を置いて追いかけ、二人がある部屋に入ったのは確認したが、別邸の構造を把握していないために、そこが総督の寝室だと気づかなかったのである。

 慌てて、邸内を巡回していたゾーイとゾラにその件を報告すると、ゾラがばしっと自分の頭に手を置いた。

「あちゃー!殿下、メイローズがいない隙を狙って攻勢に出ちゃったっすよ! いきなりベッドに連れ込むとか、さすがっす!」

 それを聞いてアリナは青くなったが、ここが総督の別邸で、彼がやしきあるじである以上、どうにもならない。どう見ても、姫君は何の抵抗もせず、大人しくついていったのだから。

 ゾーイの方は、二人は正式な婚約者なのだから、深い関係になっても別に構わないだろうと思っている。東の貴族階級は、その辺りの倫理がややゆるい。ゾラに至っては、常日頃恭親王が欲求不満を溜め込んでいるのを知っているので、むしろ応援目線であった。

「アンジェリカには言わない方がいいっす。あの女は、空気読まないでドア蹴破けやぶるくらいするっすよ。アリナさんは、あの二人をうまーく誤魔化してくださいよ、……殿下と姫君は俺たちが護衛するっすから」

 そう言って、ゾラはアリナをアンジェリカたちの元にやって、彼女たちの注意を姫君から逸らし、二人の時間を作ってやったのだ。




 ほとんど使われていない、総督の寝台は広く、白い紗幕に覆われていた。
 恭親王はまだ事態を認識できずに周囲を見回しているアデライードの腰を抱くと、抱き上げて紗幕をめくり上げ、寝台の上に座らせた。それでもぽかんとしているアデライードの無防備さに少々呆れながらも、恭親王は笑顔を崩さずにアデライードの足元にひざまずき、白い革のサンダルを脱がす。白く華奢な素足は、最近はアンジェリカとリリアに綺麗に手入れされ、爪も磨かれている。その親指の先に軽く口づけると、初めてアデライードはびくりとして身を固くした。

 両脚を丁寧に持ち上げて、アデライードを寝台の中央に乗せる。肩衣を留めている金のピンを外し、濃い青色の肩衣をするりと取り去る。細い肩と、折れそうな腕が露わになる。
 恭親王が自分で黒革の長靴を脱ぎ、黒い上着を脱ぐ隙に、アデライードはおそらく本能的な恐怖で、じりじりと脚と尻で後ろに下がり、白い枕をいくつも重ねた、寝台の頭の部分に小さくなった。

 夕暮れの光が窓から差し込み、紗幕を通して寝台の中を薄赤く染めている。恭親王は枕に埋もれて小さくなるアデライードの隣に、やはり枕にもたれるように座り、長い脚を投げ出した。

「安心していい。約束する。最後までは奪わない」
「さい……ご……?」

 最後までも途中までも何もわからないアデライードは、翡翠色の瞳を不安げに揺らす。その様子を恭親王は悪戯っぽい微笑を浮かべて見ていたが、アデライードの頬に手を触れて、軽くついばむように口づけする。ちゅっちゅっと口づけを繰り返し、アデライードの力が少し抜けたあたりを見計らい、両脇の下に手を入れて持ち上げ、彼の膝の上に向かい合って座らせた。それからもしばらく口づけを続けアデライードの両目が少しトロンとしてきた頃に、恭親王はアデライードの唇を解放した。

「今日はあなたに、男女の身体の違いを教えようと思っている……自分の身体は見た事があっても、男の身体は見たことないだろう?」

 膝の上に脚を開いてまたがっているアデライードは、安定しない身体を支えるために、恭親王の両肩に掴まっていた。恭親王の黒い瞳を見つめ、ぱちぱちと瞬きする。

「私の、服を脱がせてごらん」

 白い麻のシャツを指して恭親王が言うと、アデライードは吃驚びっくりしたように目を見開いた。立て襟の、のどぼとけのすぐ下の所に、飾り結びのボタンがある。アデライードは恐る恐るその釦を外す。次いで手を滑らせ、その下の釦、次の釦と、震える手で釦を外していった。

 恭親王は両手でアデライードの細い腰を支え、自分の釦を外していくアデライードの繊細な手つきを、じっと食い入るように見つめている。ときおり、微かに肌に触れる指先がくすぐったい。何より、真剣な眼差しでアデライードが自身の服を脱がせているのだと思うだけで、ものすごく興奮していた。

「脱がせて……」

 釦が全て外されると、恭親王がアデライードの耳元に口を寄せて喘ぐように言った。一瞬、息を飲むが、アデライードが麻のシャツをはだけて、恭親王の逞しい胸と締まった腹筋、筋肉のついた肩とすらりとした二の腕とを露出していく。

 そこに現れたのは、細身だが鍛えられた無駄のない身体。日を浴びることはないので色は白いが、けしてひ弱にはみえない。特に腹は中央が割れて筋肉の形がはっきりと浮き出し、アデライードは無意識にその線を指で辿っていた。

「ははは、くすぐったいよ、アデライード」

 くすくすと笑いながら咎められ、はっとして恭親王の顔を見る。黒い瞳が、はっきりと情欲を湛えてアデライードを見ていた。

「あなたの身体とはずいぶん違うだろう? 触りたい?」

 そう聞かれ、羞恥で顔を赤らめて慌てて首を振る。

「そう? 私はあなたに触りたい……」

 恭親王は両腕にひっかかっていたシャツを脱ぎ捨てると、身体を少しアデライードの方に倒して、その肩を抱きしめ、唇を奪う。耳朶や首筋に口づけを落とし、大きな手で背中や腰をねっとりと撫でていく。触れられたところから、情欲を隠さない恭親王の〈王気〉が流れ込み、アデライードは身体中が逆上のぼせたように熱く、鼓動は早鐘を打つように早くなり、呼吸が荒くなった。

「本当はあなたの身体を見たいけれど……きっと歯止めが効かなくなってしまう……」

 そんなことを囁いて、恭親王はアデライードの身体のあちこちに、長衣の上から唇を這わせていく。布越しに口づけられる度に流れ込む恭親王の〈王気〉が、アデライードの全身を巡ってアデライードを蕩かしていく。柔らかな胸の膨らみを優しく揉んで、恭親王がせつない溜息を漏らす。

「きっとここに直に触れたら、理性が飛んでしまうな……ああ……本当に可愛い……」

 膝の上で優しく抱きしめられ、掌と指と唇で愛撫されて、アデライードは夢見心地で恭親王の肩に顔を持たせかけ、うっとりと目を閉じる。両腕は彼の筋肉質の背中に回る。直接触れる肌は滑らかで、少し汗ばんでいた。

「ひとつだけ、聞いても……?」
「何?」

 アデライードの質問に、長衣の上から柔らかな双丘を食むように口づけながら、恭親王が促す。

「あなたは、本当に、……〈シウリン〉ではないの?」
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