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21、再生の光

誤解

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 背後からアデライードを抱えていた恭親王の腕に、ふと力が籠る。男の顎が肩に乗り、耳元に口を寄せて囁いた。

「まだ体が辛いか?」
 
 アデライードがこくりと頷くと、恭親王が少し戸惑ったようにして、言った。

「すまなかった。……あまりにあなたが愛おしすぎて、歯止めが効かなくて……。でも辛いのは最初だけだ、今夜からは痛くない……」

 そう言いながら、大きな掌でアデライードの頬を覆い、顔の向きを変えさせて、唇に唇を寄せてくる。

(今夜からって……?!)

 アデライードの混乱をまるで意に介さず、恭親王は口づけを求めて来る。さっきまで側に貼りついていたメイローズは、さすがに昨夜の完徹に欠伸が止まず、仮眠を取りに船室に降りていた。

 昨夜、あの不思議な場所で、当然の権利のごとく恭親王は彼女を組み敷いた。何があっても受け入れると覚悟はしていたが、アデライードは厳密には何があるのかを知らない。ただ、以前に一度、恭親王の寝室であられもない場所を暴かれた経験があるだけである。だがあの時ですら、全裸にはされなかった。単衣を剥ぎ取ろうとする恭親王が恐ろしく、どうしていいかわからなかった。それでも優しく口づけを落とされながら耳元で囁かれた、乱暴はしない、痛くはしない、無茶はしない、の三つの約束に絆されて、体を明け渡した。――どの一つとして守られなかったけれど。

 結局、アデライードは四度も彼に犯されたらしいのだが、実は最後の一回については記憶がほとんどない。おそらく意識も朦朧としていたのであろう。ただ、恭親王の肩口から、あのドーム状の岩壁を埋め尽くした光苔をずっと眺めていた。男の荒い息遣いと、汗と、精の匂い。圧し掛かられる体重の重み、硬く滑らかな肉体。繰り返し紡がれる愛の言葉。身体のあらゆる場所に刻まれた刻印のような口づけ。男の楔に貫かれる痛みと、その後に荒れ狂う果てのない快楽。

 二人の間を激流のように行き交い、交じり合う〈王気〉が、それだけで堪らない快楽を与える。甘い〈王気〉が脳髄を侵し、全身を融かす。愛されている。そして、愛している。離れたくない、離れられない、ただ一人の人。

 今は夫となった男の腕に抱き込まれ、アデライードは溜息をつく。
 アデライードの中に罪悪感が渦巻いている。〈シウリン〉を裏切ってしまった。そのことが苦しい。

 〈シウリン〉を愛して、違う男に抱かれたことが苦しいのではない。
 〈シウリン〉以外を愛して、その男に抱かれてしまったことが苦しい。

「アデライード?」

 後ろから、男がアデライードの内面の迷いを見透かしたように声をかける。
 
「アデライード、あなたはもう、私のものだ。……あなたが、誰を愛していても」

 アデライードが翡翠色の瞳を見開いて肩越しに振り返って恭親王を見る。と、男の顔が近づいてきて、唇を塞がれた。
 角度を変えて、深く、深く口づけは続く。後ろで、アンジェリカが咳払いをするのを無視して、まだ続いた。

 アデライードは、恭親王が重大な誤解をしていることに、気づかなかった。
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