ストレステスト

「貴方は私の庭の生け垣に唾を吐きました。だから貴方を殺します」と書いた小さな紙片が、郵便受けに入っていた。いたずらだと思ったけれど、何故か桔梗は気になった。
 来島桔梗は二十五歳の公務員。北陸から千葉へ出てきた男性だった。家の近くには墓地があり、その墓地を隠すための高い塀がある。所々に出入り口があり時々参拝客と鉢合わせる。桔梗は誰かの気配を感じ、出入り口の手前で立ち止まった。
 案の定、白髪の老人が出てきた。桔梗は老人を一旦やり過ごし、それから速度を上げて追い抜いた。その瞬間それまで感じなかったもう一つの気配を感じた。老人の後ろからサングラスの女性が走り出てくる。手にナイフを持って桔梗に切り付けてくる。
 ナイフが頬を掠めすぐに老人が「大丈夫ですか」と駆け寄ってきた。幸い傷は浅く、その日桔梗は仕事を休んで、自分が唾を吐いた生け垣のある家へ向かった。そこで大きな屋敷と、その向かいの鉄筋二階建ての二軒の家に〈真柄〉という表札が掛かっていることを知る。
 鉄筋の家に誰かの気配を感じ桔梗は謝ろうと家中に入る。しかし仕掛けられた罠にまんまとはまりこんで散々な目に会う。(生け垣に唾を吐いたくらいでこんな酷いことをするのは、女性の過去に何か辛いことでもあるからだろうか‥?)と桔梗は思う。
 女性の情報を得ようと、桔梗は屋敷の近くへ出かけた。そのとき、墓場で会った白髪の老人と出会う。そして老人から、女性が五百億の財産を持つ、名家・真柄家の娘であることを知る。女性は父娘の二人暮らしで、父親から虐待を受けているらしい。それだからか好意を持つ男性をナイフで切り付けるという変わった性癖があるらしい。

 残業で帰宅が真夜中になった桔梗は墓場の前でまた老人と出会う。近道を教えてくれるという老人の後を付いていくと、女性が現れてナイフで切り付けてくる。逃げようとしたが誰かに殴られ桔梗は意識を失った。
 気が付くとそこは広いリビングで、ナイフを持った女性と老人がいる。白髪の老人こそが、真柄家の当主であり名前を小林。そしてナイフの娘は糸井というのだった。
 糸井には障害があり言葉が話せないという。それは自分のせいだと小林は涙ぐむ。小林が桔梗に「ストレステストを受けて頂きます」という。糸井が持つナイフは特別性で、一ミリ以上は深く切れない安全なナイフなのだという。これまで四人にテストを行ったが不合格だったという。このストレステストに合格した人物を、糸井の婿養子として真柄家に迎えるのだという。
 そして桔梗は、見事このストレステストに合格した。
 めでたく結婚式が終わると、桔梗は、小林から「真柄家の跡継ぎとして行わなければならない行為を教える」と言われる…
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