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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第762話 ペピーノ姉ちゃんにも気に入られたみたい

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 クコさんはオベルジーネ王子の耳を引っ張っていた手を離すと。

「そんな訳で…。
 体の隅から隅まで旦那様に見られちゃいました。
 でも、その時の私は、ホント、ネンネでしたから。
 お貴族様に親切にされて恐縮するばかりで。 
 旦那様の下心には全く気付かなかったのです。」

 って言ったクコさん。
 冷静に考えたらお嫁に行けなくなっちゃうような事をされていたと、後になって気付いたんだって。
 そんなクコさんに対して。

「あの時は、大変結構なモノを拝見させて戴きました。」

 と言って、オベルジーネ王子は悪びれる様子もなく合掌していたよ。
 そんなチャラ王子をクコさんは軽く小突いて、「少しは反省してください。」とお小言を言ってた。

「こいつ、とんだマセガキだったのね…。」

 二人の会話を聞いて呆れた様子のアルトに。

「驚くのはまだ早いわ。
 こいつが本領を発揮するのはその後ですもの。」

 既に匙を投げたって雰囲気でリュウキンカさんが答えたの。

「その後って?」

 おいらがクコさんに水を向けると。

「はい、湯浴みを終えると着替えが用意して有り。
 旦那様が服を着せてくださいました。」

 おいら、クッころさんから貴族は自分で服の脱ぎ着はしないと聞いてたから、クコさんのこのセリフをスルーしちゃったんだけど。

「それ、おかしいでしょう!
 このチャラ王子、下心丸出しじゃないの!」

 アルトはまたツッコミを入れてたよ。

「何でダメなの?
 貴族は自分で脱ぎ着はしないって、クッころさん言ってたよ。」

 おいら、クッころさんの着替えをさせられて、貴族って自分じゃ着替えないものだと思ってたもん。

「そうなんです。私も自分で着ると言ったのですが…。
 旦那様は、レディーにそんなことはさせられないと言いまして…。」

「例えそうでも、年頃の娘の着替えを男がする訳無いでしょう。
 それは側に仕える侍女がする仕事。
 間違っても一国の王子がすることじゃないわ。」

「ですよねぇ。」

 チャラ王子に騙されてたことをアルトから指摘されて、クコさんはその通りだと頷いていたよ。
 でも、オランが王宮で暮らしていた時は、ネーブル姉ちゃんが上から下まで着替えさせてくれたと聞いたけど。
 オランの着替えを、一国の王女がするのは変じゃないんだ?

「私も、常々おかしいとは思っていたのですが…。
 それ以来、私の着替えは常に旦那様がしてくださったものですから。
 いつしか、当たり前のことになってしまいました。」

 出会ったその日以降、一緒に過ごす時は常にチャラ王子が脱ぎ着されてくれるらしい。
 チャラ王子、そんなところはマメなんだね。

「別におかしなことじゃ無いしぃ。
 可愛い女の子のパンツを上げ下ろしするは、男のロマンじゃん。」

 自分の行いは正当なことだと、胸を張って主張するチャラ王子。
 
「そうなの?」

 おいらの隣に座るオランに尋ねると…。

「そんな訳無いのじゃ。
 こ奴の嗜好は全く理解できないのじゃ。」

 オランは躊躇なく全否定してたよ。
 どうやら、『男』のロマンでは無く、目の前のチャラ王子『特有』のロマンみたい。

        **********

「着替えが終わると旦那様は言いました。
 今日はもう遅いから泊って行けと。」

「そうそう、ボクちん、紳士だから。
 クコちゃん、若くて可愛い女の子なんだしぃ。
 物騒な夜道を一人で帰らせる訳にはいかないじゃん。」

 何か、引っ掛かる言い方だね。
 それじゃ、『若くて可愛い女の子』でなければ、平気で夜道を帰らせるように聞こえるよ。
 と言うより、本当の紳士なら家まで送り届けると思うのはおいらだけかな?

「帰らないと両親が心配すると思いましたが。
 確かに、また襲われるかもしれないと思うと…。
 暗い夜道を帰るのは怖くなっていましたし。
 貴族様に送って欲しいなどと図々しいお願いも出来ず。
 その日は旦那様のご好意に甘えることにしたのです。」

 やっぱり、おいらは思うんだ。
 クコさんの気持ちを察して送り届けてあげるのが、本当の紳士じゃないかと。
 平民のクコさんからは、送って欲しいなんて言い出し難いと思うもん。

 それはともかく、クコさんが承諾するとオベルジーネ王子は食事を用意させたんだって。
 二人きりだとクコさんも緊張して食事が喉を通らないのではと、王子は気遣いしてくれたそうで。
 その場にペピーノ姉ちゃんも呼んで、三人で食事をすることにしたらしいの。

 呼ばれてオベルジーネ王子の部屋にやって来たペピーノ姉ちゃんはと言うと…。

「お兄様、とうとう仕出かしてしまいましたね。
 ご存じありませんか、我が国では重罪ですよ。
 権力を振りかざして、平民の娘さんを無理やり手籠めにするのは。
 ちょん切られて、身分剥奪のうえ島流しです。」

 部屋に居たクコさんを見て、開口一番、チャラ王子を糾弾したんだって。

「酷いよね~。
 その時、良く分かったよ。
 普段、ペピーノがボクちんをどんな目で見ているかって。」

 たぶん、それは普段からの行いだって。どうせ、日頃からペピーノ姉ちゃんの着替えでも覗いてたんでしょう。

 そこはこれまでの経緯を説明すると、ペピーノ姉ちゃんも納得したらしいけどね。
 チャラ王子に対するペピーノ姉ちゃんの疑念が晴れたところで食事になったそうだけど。

「ところで、クコちゃんは何で夜の街道なんて歩いていたの?
 ハッキリ言って、とても無謀だと思うわ。」

 食事の最中に、ペピーノ姉ちゃんから尋ねられて。

「はい、実は毎日、図書館で本を読むために王都へ通っているのですが。
 今日は、つい、没頭してしまい、気付いたら夕暮れ時だったのです。
 慌てて帰路についたものの、途中でとっぷり陽が沈んでしまい…。」

 クコさんのその答えにペピーノ姉ちゃんの目が輝いたんだって。

「へえ、平民の娘さんが図書館通いなんて珍しいわね…。
 クコちゃん、今幾つなの?」

「はい、先日、十三になりました。」

「あら、私と同い歳でしたのね。
 また、どうして図書館に通っているのかしら?
 本を読むのが好きなの?」

「図書館へ通うようになって、本を読むのが好きになりましたが。
 元々の切っ掛けは、病弱な兄が下級官吏に採用されたことでして。」

 クコさんは、おいら達にしたのと変わらぬ内容で、図書館通いを始めた動機を話したそうなの。
 すると、ペピーノ姉ちゃんはクコさんにますます関心を持った様子で、食事そっちのけで矢継ぎ早に質問をしてきたんだって。
 今までどんな本を読んだのかとか、どんな分野に興味があるのかに始まって。
 今まで読んだ本に、ペピーノ姉ちゃんと被っているものがあると、その内容について質問をされたりしたそうだよ。

 やがて、饗された夕食がすっかり冷めてしまった頃…。

「お兄様、この子、逸材ですわ。 
 手放しちゃダメです。
 何なら、今晩にでもお召し上がりになれば良いですわ。」

 目を輝かせてオベルジーネ王子にそう提言したペピーノ姉ちゃん。
 この人はいったい何を言っているのだろうと、クコさんが首を傾げていると。
 今度は、クコさんにググッと迫ってきたんだって。

「クコちゃん、しばらくここに住みませんか。
 毎日村から通うのは大変でしょうし。
 また今日みたいに遅くなったら物騒ですから。
 部屋は沢山余っていますし、食事も提供しますよ。」

 ペピーノ姉ちゃんの提案はまさに青天の霹靂で、一瞬何を言っているのか理解できなかったそうだけど。
 流石にそんなうまい話がある訳無いと、直ぐに思ったみたい。
 
「とても有り難いお誘いですが。
 私、何もお返し出来ることはございませんし。
 そこまでして戴くなんて畏れ多いです。」

 クコさんは、ペピーノ姉ちゃんの機嫌を損ねないように遠回しにお断りしたんだって。

 すると。

「そんなことございませんわ。
 私の話し相手になってくださるだけで十分です。
 貴族のご令嬢達とは興味の所在が異なるみたいでして…。
 クコちゃんのように私の話について来て下さる方は居ませんのよ。」

 貴族のご令嬢の関心事と言えば流行のファッションとか有名なお菓子屋のスウィーツとかで。
 何事にもそつのないペピーノ姉ちゃんは、そんなご令嬢方にも上手く話を合わせているらしいけど。
 その実、何時でもとても退屈しているみたいなの。
 ペピーノ姉ちゃんの興味がある分野でちゃんと受け答えが出来たのは、クコさんくらいなんだって。

「ペピーノ様は是が非でも私を引き留めたかった様子でして…。
 衣食住に加え、ノートやペンも支給して下さると仰いました。
 そのご好意を無碍にも出来ず…。」

 結局、毎日一緒に図書館へ通い、帰宅後はペピーノ姉ちゃんの私室で話し相手になるってことで一緒に住むことになったらしい。
 そこが王宮だとも知らずに…。

        **********

 クコさんは、ペピーノ姉ちゃんの誘いを受けて、王宮へ留まることになった訳だけど。

「そうと決まれば、今日はこの部屋で休めば良いよ。
 これから空き部屋を用意するとなると、夜遅くなってしまうからね。」

 オベルジーネ王子は自分の部屋に泊まるよう誘ったんだって。
 クコさんは、流石に嫁入り前の娘が殿方の部屋に泊まるのは拙いと思ったらしいよ。
 空き部屋の用意が間に合わないのなら、せめてペピーノ姉ちゃんの部屋にお邪魔できないかと言おうとしたら。

「そうしなさいな。
 お兄様のベッドで一緒に休むと良いわ。
 慣れない部屋で眠るのは落ち着かないでしょうし。
 暴漢に襲われたりした後は、急に恐怖を感じたりするそうですわ。
 他にも、悪夢にうなされたり、不安で眠れなくなったり。
 酷い場合には、恐怖のあまり錯乱する方も居るようですし。
 その点、お兄様の胸の中に居れば安心できるのではなくて。」

 言い出す前に、ペピーノ姉ちゃんから梯子を外されたそうだよ。

「うん、クコちゃんがうなされてたら、僕が優しく抱きしめてあげるから。
 安心して眠ると良いよ。」

 如何にも人畜無害って顔でオベルジーネ王子が言うものだから、クコさんは頷いちゃったらしい。

 その時、クコさんは失念していたんだって。
 『今晩にでもお召し上がりになれば良いですわ。』と言ったペピーノ姉ちゃんの言葉を。 
 
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