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「ねぇ、レクス。オレ、レクスの奥さんとしてやるべきことがあると思うんだ」

 ランは夕食の際に思い切ってレクスに切り出してみた。

「どうしたいきなり」
「いや、その……」

 真っ正面からそう切り替えされてランは思わず口ごもる。こんなんじゃだめだ、とランは心の中で思った。こうやって素直になれないからいままでこじれてきたのだ。変な意地を張っている場合ではない。

「その、オレもレクスを手伝いたい……役に立ちたいって思ったんだ」

 言っている途中から恥ずかしくなって頬がかっかとしてくるのを感じる。

「駄目かな……」

 そう上目遣いにレクスを見ると、レクスは複雑そうな顔をしていた。

「無理をして表に出なくたっていい」
「でも……お、お妃としてやるべきことがあるんじゃないの」
「ラン……?」
「オレ、聞いたんだ。そういう批判が高まってるって」

 ランがそう言うと、レクスは少し驚いたような顔をした後、不機嫌そうに眉を寄せた。

「どこからそんなことを聞いた。……アレンか?」
「う、うん……まあ」
「余計な声は聞かなくていい」
「でも!」

 ランはテーブルを思わず叩いた。

「でも、オレは良くてもレクスがその声を受け止める事になるじゃないか。オレはそこまで厚かましくなれないよ」
「心配なんだ。俺が完全に守れないって思うと」
「オレはそれより、レクスの側を一緒に歩きたい。……だって家族じゃないか」

 ランはじっとレクスを見つめた。その真っ直ぐな視線を受けて、レクスはぐっと唇を噛んだ。
 その時、レクスの横に控えて居たロランドが口を開いた。

「レクス様、ランさんもこうおっしゃってますし、よろしいのでは?」
「……勝手にしろ」

 レクスはロランドをじろりと睨むと、席を立って自室に引っ込んでしまった。

「レクス!」

 言い方が悪かったのだろうか、とランはため息をついた。

「はぁ……まったくもう」

 そんなランに、ロランドは苦笑しながら声をかけた。

「ランさん、ああ言ってくださって助かりました」
「ロランドさん……」
「正直、毎回毎回言い訳を駆使するのも限界がありますしね。まあ後は私におまかせください」

 あのお披露目のパーティに出席したから、レクスがああいった態度をとるのも分からないでもない。
 自分ではどうしようもないオメガであることを口さがなく批判してくる連中からレクスはきっとランを守りたいのだ。
 しかし守ろうとすればするほどランをここに閉じ込めることになる。

「そんなこと、ずっと続けられるはずもないし」

 ランは半分も進まなかった皿の端にフォークとナイフを置いて、席を立った。
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