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だから彼女と別れた(4)
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「なるほど」
アイニスは、もとは男爵家の娘であった。それももっとさかのぼれば商売人の娘だ。一代で財を築き商売を成功させた彼女の父が、爵位をもらった。
その後、十五歳になったアイニスは、ウィンガ侯爵家の養女となった。その理由も、傾きかけた侯爵家に金の援助を言い出したのが男爵であると噂されている。いや、それは噂ではなくもはや事実だろう。
その過程はどうであれ、最終的にアイニスは、未来の王太子妃の座を手に入れたのだ。
「つまり、アイニス様では力不足だと?」
「みなまで言わすな」
キンバリーは顔をあげない。どうやら図星のようだ。
「そういえば、アイニス様のお姿が見えませんね。彼女はどうされたのですか?」
キンバリーと婚約する前は彼にまとわりついていた彼女も、婚約してからというもの姿を見る機会が減ったように感じる。
「今は、王太子妃となる教育を受けている。侯爵令嬢というのも名ばかりだからな。張りぼての令嬢だったのだよ」
「ですが、ラティアーナ様を捨て、アイニス様を選んだのは兄上でしょう?」
「だから、あの張りぼてに騙されたのだ」
ため息をつきたくなったサディアスは、それを堪えた。これ以上キンバリーを責めても、問題は解決しない。むしろ、彼を追い詰めるだけ。
「兄上、一度休みましょう。僕でよければ話を聞きますから」
サディアスの明るい口調で、やっとキンバリーが顔をあげた。
「サディアス……」
キンバリーは机の上の呼び鈴を鳴らして侍従を呼びつけると、二人分のお茶を準備するように言いつける。
言われた通りお茶とお菓子を準備した侍従は、控えの間へと下がる。
二人はソファ席に移動した。お茶とお菓子が置かれているテーブルを挟んで、向かい合って座る。
「それで、兄上はどうしてラティアーナ様との婚約を解消されたのですか?」
紅茶のカップに手を伸ばそうとしていたキンバリーは、一瞬、その手を止めた。だが、すぐにカップを手にすると、一口飲む。
その動作がひどくもどかしく感じる。
「身体が、貧相だからだ……」
やはりそれが理由だったのか。
何をどう言葉にしたらいいのか、サディアスは悩んだ。口元を押さえてみたり、視線を外してみたり、そうやって意味のない動きをした挙句、やはり白磁のカップに手を伸ばした。
あたたかな液体が喉を通り過ぎていく感覚に、頭の中もすっきりとしていく。
「まぁ、兄上も僕も男ですから。そういった女性の容姿に関心を持つのはわからなくもないですが……。ですが、ラティアーナ様の身体が貧相というのは、どういった意味で言っているのですか?」
キンバリーはこめかみを震わせる。
「お前は、あれを見て何も思わなかったのか? あの身体では本当に子が望めるのかと不安になるだろう? 他の女性と比べても、細すぎるだろう? それに、いつも顔色が悪かった……」
てっきり女性の象徴の大きさや柔らかさを強調されるのかと思っていた。だが、キンバリーは違うことを言いたいらしい。
「食事はきちんととっているのか。夜はきちんと休めているのか。神殿ではどのような扱いを受けているのか。それを彼女に聞いたのだ」
わりとまともなことを口にしている彼に、サディアスは驚愕する。だが、それを表情には出さない。
「お前は知っていたか? 神殿でラティアーナがどのように扱われていたか」
彼女と共にした時間が少ないサディアスが、そういった踏み込んだ内容を知るはずもない。
いいえ、と小さく首を横に振る。
「私は、ラティアーナに聞いたのだ。神殿ではどのような物を食べているのかと。彼女はここで出したお茶菓子をけして口にはしなかった」
そう言ったキンバリーの視線は、目の前の焼き菓子を捕らえている。きっと、同じようなものをラティアーナにも出したのだろう。
アイニスは、もとは男爵家の娘であった。それももっとさかのぼれば商売人の娘だ。一代で財を築き商売を成功させた彼女の父が、爵位をもらった。
その後、十五歳になったアイニスは、ウィンガ侯爵家の養女となった。その理由も、傾きかけた侯爵家に金の援助を言い出したのが男爵であると噂されている。いや、それは噂ではなくもはや事実だろう。
その過程はどうであれ、最終的にアイニスは、未来の王太子妃の座を手に入れたのだ。
「つまり、アイニス様では力不足だと?」
「みなまで言わすな」
キンバリーは顔をあげない。どうやら図星のようだ。
「そういえば、アイニス様のお姿が見えませんね。彼女はどうされたのですか?」
キンバリーと婚約する前は彼にまとわりついていた彼女も、婚約してからというもの姿を見る機会が減ったように感じる。
「今は、王太子妃となる教育を受けている。侯爵令嬢というのも名ばかりだからな。張りぼての令嬢だったのだよ」
「ですが、ラティアーナ様を捨て、アイニス様を選んだのは兄上でしょう?」
「だから、あの張りぼてに騙されたのだ」
ため息をつきたくなったサディアスは、それを堪えた。これ以上キンバリーを責めても、問題は解決しない。むしろ、彼を追い詰めるだけ。
「兄上、一度休みましょう。僕でよければ話を聞きますから」
サディアスの明るい口調で、やっとキンバリーが顔をあげた。
「サディアス……」
キンバリーは机の上の呼び鈴を鳴らして侍従を呼びつけると、二人分のお茶を準備するように言いつける。
言われた通りお茶とお菓子を準備した侍従は、控えの間へと下がる。
二人はソファ席に移動した。お茶とお菓子が置かれているテーブルを挟んで、向かい合って座る。
「それで、兄上はどうしてラティアーナ様との婚約を解消されたのですか?」
紅茶のカップに手を伸ばそうとしていたキンバリーは、一瞬、その手を止めた。だが、すぐにカップを手にすると、一口飲む。
その動作がひどくもどかしく感じる。
「身体が、貧相だからだ……」
やはりそれが理由だったのか。
何をどう言葉にしたらいいのか、サディアスは悩んだ。口元を押さえてみたり、視線を外してみたり、そうやって意味のない動きをした挙句、やはり白磁のカップに手を伸ばした。
あたたかな液体が喉を通り過ぎていく感覚に、頭の中もすっきりとしていく。
「まぁ、兄上も僕も男ですから。そういった女性の容姿に関心を持つのはわからなくもないですが……。ですが、ラティアーナ様の身体が貧相というのは、どういった意味で言っているのですか?」
キンバリーはこめかみを震わせる。
「お前は、あれを見て何も思わなかったのか? あの身体では本当に子が望めるのかと不安になるだろう? 他の女性と比べても、細すぎるだろう? それに、いつも顔色が悪かった……」
てっきり女性の象徴の大きさや柔らかさを強調されるのかと思っていた。だが、キンバリーは違うことを言いたいらしい。
「食事はきちんととっているのか。夜はきちんと休めているのか。神殿ではどのような扱いを受けているのか。それを彼女に聞いたのだ」
わりとまともなことを口にしている彼に、サディアスは驚愕する。だが、それを表情には出さない。
「お前は知っていたか? 神殿でラティアーナがどのように扱われていたか」
彼女と共にした時間が少ないサディアスが、そういった踏み込んだ内容を知るはずもない。
いいえ、と小さく首を横に振る。
「私は、ラティアーナに聞いたのだ。神殿ではどのような物を食べているのかと。彼女はここで出したお茶菓子をけして口にはしなかった」
そう言ったキンバリーの視線は、目の前の焼き菓子を捕らえている。きっと、同じようなものをラティアーナにも出したのだろう。
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