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だから彼女と結ばれた(5)
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「ラティアーナ様に、兄――キンバリー殿下から伝言がございます。また、ラティアーナ様が足を運んでいた孤児院の子たちから、手紙を預かってきました」
カメロンの表情がふと緩む。
「ですが、この村にラティアーナという者はおりません。残念ですが、その手紙を渡せる相手がいないのです」
先ほどよりも穏やかな口調だ。サディアスに対して、少しは心を開いてくれたのだろうか。
「そうですか……ラティアーナ様はこちらの出身と聞いておりまして。てっきり、聖女を辞められたあとはこちらに戻ってくるものと思っていたのですが……」
行き場を失った手紙が、テーブルの上にぽつんと置かれている。子どもたちの拙い字で、ラティアーナの名前が封筒にしっかりと書かれていた。
「もし、ラティアーナ様がこちらにお戻りになられて、お会いするようなことがあれば、こちらを渡していただいてもよろしいでしょうか?」
「サディアス殿下もなかなか強情な方ですね。残念ながら、こちらにはラティアーナという者に心当たりがないのです。ですから、そちらは殿下のほうから、その方にきちんとお渡しすべきでは?」
「そう、ですか。わかりました。僕がラティアーナ様に出会ったら、お渡しします」
サディアスは手紙をしまった。
てっきりラティアーナはこの村に戻ってきていると思ったのに、いないと言う。
神殿にもいない、孤児院にもいない、王都にはいない。だから彼女の生まれ育った故郷へとやってきた。
それでもここにもいない。
彼女はどこに行ってしまったのか。
「ところで、サディアス殿下。今日、御泊りの場所は決まっておりますか?」
カメロンに指摘され、宿泊については何も考えていなかったことに気づく。ラティアーナに会いたい一心で、ここであれば彼女に会えるだろうと、そんな逸る気持ちでこの地を訪れたからだ。
「……いえ。それは、これから」
「では、ここにお泊りください。すぐに部屋を用意させます。王都からですと、航路で来られたのですか」
「あ、はい。そうですね」
「長旅でお疲れでしょう?」
カメロンは呼び鈴を鳴らして使用人に部屋の用意をするようにと言いつける。
彼がなぜ、これほどまで態度を軟化させたのかがわからない。
しばらくカメロンとお茶を飲みながら、話をする。主にテハーラ村の現状である。
最近は、畜産業が軌道にのっているため、貧しい思いをする者もいない。むしろ、忙しすぎて人手が足りないくらいだと。
「このような小さな田舎の村で、こうやって穏やかに暮らせるのがなによりです」
カメロンの言葉がサディアスの心にズキンと突き刺さった。
きっとそういった生活を壊すようなことをしてはならないのだ。
数年前に神官がこの村に来たことをカメロンはよく思っていない。それは言葉の節々から感じ取れた。
だから、カメロンがサディアスを警戒していたのは、今までの生活をがらっと変えてしまうような、何かが起こると思っていたからかもしれない。
「サディアス殿下。部屋の準備が整ったようです。案内します」
応接間を出て、ホールからサルーンへと入る。すると、どこから歌が聞こえてきた。
「……?!」
サディアスが反応すると、カメロンは「中庭に子どもたちがいるので」と答える。
「お子さんが、いらっしゃるのですか?」
「いえ。村の子を預かっているのです。子をみながら仕事をするというのは、なかなか大変でしてね。特に子どもは目を離すと何をしでかすかわからない。ですから、昼間に両親が働いている間、その子をこちらで預かっているのです」
「そうなのですね。素晴らしい取り組みですね。ところで、この歌……」
サディアスが気になったのは、先ほどから聞こえている歌である。
「あぁ。この村に昔から伝わる子守歌のようなものですよ。幼い頃から聞かせられているから、何気に歌ってしまうんですよね」
「あの。中庭を案内してもらうことはできますか?」
「ええ、かまいませんよ。先に、部屋に荷物を置いてからのほうがいいでしょう」
いくら少ない荷物であっても、それを手にしたまま屋敷をうろうろとするのは、見栄えもよくないだろう。
カメロンの表情がふと緩む。
「ですが、この村にラティアーナという者はおりません。残念ですが、その手紙を渡せる相手がいないのです」
先ほどよりも穏やかな口調だ。サディアスに対して、少しは心を開いてくれたのだろうか。
「そうですか……ラティアーナ様はこちらの出身と聞いておりまして。てっきり、聖女を辞められたあとはこちらに戻ってくるものと思っていたのですが……」
行き場を失った手紙が、テーブルの上にぽつんと置かれている。子どもたちの拙い字で、ラティアーナの名前が封筒にしっかりと書かれていた。
「もし、ラティアーナ様がこちらにお戻りになられて、お会いするようなことがあれば、こちらを渡していただいてもよろしいでしょうか?」
「サディアス殿下もなかなか強情な方ですね。残念ながら、こちらにはラティアーナという者に心当たりがないのです。ですから、そちらは殿下のほうから、その方にきちんとお渡しすべきでは?」
「そう、ですか。わかりました。僕がラティアーナ様に出会ったら、お渡しします」
サディアスは手紙をしまった。
てっきりラティアーナはこの村に戻ってきていると思ったのに、いないと言う。
神殿にもいない、孤児院にもいない、王都にはいない。だから彼女の生まれ育った故郷へとやってきた。
それでもここにもいない。
彼女はどこに行ってしまったのか。
「ところで、サディアス殿下。今日、御泊りの場所は決まっておりますか?」
カメロンに指摘され、宿泊については何も考えていなかったことに気づく。ラティアーナに会いたい一心で、ここであれば彼女に会えるだろうと、そんな逸る気持ちでこの地を訪れたからだ。
「……いえ。それは、これから」
「では、ここにお泊りください。すぐに部屋を用意させます。王都からですと、航路で来られたのですか」
「あ、はい。そうですね」
「長旅でお疲れでしょう?」
カメロンは呼び鈴を鳴らして使用人に部屋の用意をするようにと言いつける。
彼がなぜ、これほどまで態度を軟化させたのかがわからない。
しばらくカメロンとお茶を飲みながら、話をする。主にテハーラ村の現状である。
最近は、畜産業が軌道にのっているため、貧しい思いをする者もいない。むしろ、忙しすぎて人手が足りないくらいだと。
「このような小さな田舎の村で、こうやって穏やかに暮らせるのがなによりです」
カメロンの言葉がサディアスの心にズキンと突き刺さった。
きっとそういった生活を壊すようなことをしてはならないのだ。
数年前に神官がこの村に来たことをカメロンはよく思っていない。それは言葉の節々から感じ取れた。
だから、カメロンがサディアスを警戒していたのは、今までの生活をがらっと変えてしまうような、何かが起こると思っていたからかもしれない。
「サディアス殿下。部屋の準備が整ったようです。案内します」
応接間を出て、ホールからサルーンへと入る。すると、どこから歌が聞こえてきた。
「……?!」
サディアスが反応すると、カメロンは「中庭に子どもたちがいるので」と答える。
「お子さんが、いらっしゃるのですか?」
「いえ。村の子を預かっているのです。子をみながら仕事をするというのは、なかなか大変でしてね。特に子どもは目を離すと何をしでかすかわからない。ですから、昼間に両親が働いている間、その子をこちらで預かっているのです」
「そうなのですね。素晴らしい取り組みですね。ところで、この歌……」
サディアスが気になったのは、先ほどから聞こえている歌である。
「あぁ。この村に昔から伝わる子守歌のようなものですよ。幼い頃から聞かせられているから、何気に歌ってしまうんですよね」
「あの。中庭を案内してもらうことはできますか?」
「ええ、かまいませんよ。先に、部屋に荷物を置いてからのほうがいいでしょう」
いくら少ない荷物であっても、それを手にしたまま屋敷をうろうろとするのは、見栄えもよくないだろう。
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