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だから彼女と結ばれた(4)
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「お待たせして申し訳ありません。カメロン・キフトです」
そう言ったカメロンは使用人に目配せをした。彼女は一礼して、黙って部屋を出ていく。
「まさか、サディアス殿下自ら、こちらに来てくださるとは思ってもおりませんでした」
サディアスが名乗る前から、彼はサディアスがサディアスであると見抜いたようだ。
「そんな不審な目でみないでください。金色の髪と葡萄色の瞳。レオンクル王国の王太子殿下と同じですよね。それに、侍従を連れてまでこんな辺鄙な田舎にくるとなれば、その王太子殿下の弟であるサディアス殿下である可能性が高いと、そう考えただけです」
「そうですか。では、何も隠す必要はなさそうですね。あらためて自己紹介をさせてください。僕はサディアス・レオンクルです」
カメロンは微かに口元をゆるめている。だが、その目は笑っていない。サディアスを警戒しているのだろう。
「それで、サディアス殿下はなぜこちらに? わざわざそのように身分を隠してまで。まぁ、こちらとしては、そうやって隠れるかのように足を運んでくださって、助かりますけどね」
言葉の節節に棘を感じる。
「えぇ、今回の訪問は非公式ですから」
「なるほど。いや、以前。神殿から神官たちがやってきましてね。そのときは、村全体が大変な騒ぎになったものですから」
そこでカメロンは苦笑した。神官たちの訪問を快く思っていなかったのが、その様子から感じ取れた。
サディアスが目の前のカップに手を伸ばす。
「田舎のお茶ですから、サディアス殿下のお口に合うかどうかはわかりませんが」
「いただきます」
使っている白磁のカップも悪くない。縁には金の刺繍が施され、ゆるやかに湾曲した取っ手は、手に馴染む。
一口飲んで、カップをテーブルの上に戻す。
「なかなか、癖になりそうな味ですね」
「牛糞で作ったお茶です」
カメロンは笑いつつそう言った
後ろに控えていた侍従が身体を強張らせたが、サディアスはそれを制した。
「あぁ。言葉足らずで申し訳ありません。牛糞を堆肥にしたという意味です。牛糞を堆肥にして、茶葉を育てます。まぁ、茶葉はこの村では作っていないのですが、牛糞の堆肥をおろしているので。このお茶は隣の町の特産品です」
「なるほど……」
だが、アイニスにすすめられた隣国のアストロ国のお茶よりは好みかもしれない。
もう一度カップに手を伸ばして、一口飲む。
その様子をカメロンにじっくりと見られた。サディアスの訪問を快く思っていない。それだけはひしひしと感じた。
サディアスがカップを戻すのを見届けてから、カメロンは口を開く。
「話が逸れてしまいました。サディアス様はどういったご用件でこの村に?」
カメロンがサディアスを試しているようにも見える。
「聖女であったラティアーナ様は、テハーラの村の出身であるとお聞きしたのです。ラティアーナ様にお会いできないでしょうか?」
カメロンの右目がひくっと動いた。
「ラティアーナという者は、この村にはおりません」
「ですが、ラティアーナ様はこちらの村の方だと。今の聖女のアイニス様が、ラティアーナ様本人から聞いたようです。それに、先ほどもあなたは、数年前に神官がこの村を訪れたと、そうおっしゃいましたよね」
「なるほど。ですが、今の聖女はアイニス様とおっしゃるのでしょう? なぜ前の聖女を探しているのです?」
そう尋ねたカメロンの眼は、笑っていない。
「ラティアーナ様にお伝えしたいことがあるのです」
サディアスは、少しだけ視線を下げた。ラティアーナに伝えたいことはたくさんある。キンバリーのこと、アイニスのこと、神殿のこと、竜のこと。そして、孤児院のこと。
「それは、どういった?」
カメロンの眼が鋭くなった。
そう言ったカメロンは使用人に目配せをした。彼女は一礼して、黙って部屋を出ていく。
「まさか、サディアス殿下自ら、こちらに来てくださるとは思ってもおりませんでした」
サディアスが名乗る前から、彼はサディアスがサディアスであると見抜いたようだ。
「そんな不審な目でみないでください。金色の髪と葡萄色の瞳。レオンクル王国の王太子殿下と同じですよね。それに、侍従を連れてまでこんな辺鄙な田舎にくるとなれば、その王太子殿下の弟であるサディアス殿下である可能性が高いと、そう考えただけです」
「そうですか。では、何も隠す必要はなさそうですね。あらためて自己紹介をさせてください。僕はサディアス・レオンクルです」
カメロンは微かに口元をゆるめている。だが、その目は笑っていない。サディアスを警戒しているのだろう。
「それで、サディアス殿下はなぜこちらに? わざわざそのように身分を隠してまで。まぁ、こちらとしては、そうやって隠れるかのように足を運んでくださって、助かりますけどね」
言葉の節節に棘を感じる。
「えぇ、今回の訪問は非公式ですから」
「なるほど。いや、以前。神殿から神官たちがやってきましてね。そのときは、村全体が大変な騒ぎになったものですから」
そこでカメロンは苦笑した。神官たちの訪問を快く思っていなかったのが、その様子から感じ取れた。
サディアスが目の前のカップに手を伸ばす。
「田舎のお茶ですから、サディアス殿下のお口に合うかどうかはわかりませんが」
「いただきます」
使っている白磁のカップも悪くない。縁には金の刺繍が施され、ゆるやかに湾曲した取っ手は、手に馴染む。
一口飲んで、カップをテーブルの上に戻す。
「なかなか、癖になりそうな味ですね」
「牛糞で作ったお茶です」
カメロンは笑いつつそう言った
後ろに控えていた侍従が身体を強張らせたが、サディアスはそれを制した。
「あぁ。言葉足らずで申し訳ありません。牛糞を堆肥にしたという意味です。牛糞を堆肥にして、茶葉を育てます。まぁ、茶葉はこの村では作っていないのですが、牛糞の堆肥をおろしているので。このお茶は隣の町の特産品です」
「なるほど……」
だが、アイニスにすすめられた隣国のアストロ国のお茶よりは好みかもしれない。
もう一度カップに手を伸ばして、一口飲む。
その様子をカメロンにじっくりと見られた。サディアスの訪問を快く思っていない。それだけはひしひしと感じた。
サディアスがカップを戻すのを見届けてから、カメロンは口を開く。
「話が逸れてしまいました。サディアス様はどういったご用件でこの村に?」
カメロンがサディアスを試しているようにも見える。
「聖女であったラティアーナ様は、テハーラの村の出身であるとお聞きしたのです。ラティアーナ様にお会いできないでしょうか?」
カメロンの右目がひくっと動いた。
「ラティアーナという者は、この村にはおりません」
「ですが、ラティアーナ様はこちらの村の方だと。今の聖女のアイニス様が、ラティアーナ様本人から聞いたようです。それに、先ほどもあなたは、数年前に神官がこの村を訪れたと、そうおっしゃいましたよね」
「なるほど。ですが、今の聖女はアイニス様とおっしゃるのでしょう? なぜ前の聖女を探しているのです?」
そう尋ねたカメロンの眼は、笑っていない。
「ラティアーナ様にお伝えしたいことがあるのです」
サディアスは、少しだけ視線を下げた。ラティアーナに伝えたいことはたくさんある。キンバリーのこと、アイニスのこと、神殿のこと、竜のこと。そして、孤児院のこと。
「それは、どういった?」
カメロンの眼が鋭くなった。
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