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番外編
化けちゃった(1)
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「おい、メメル」
本業を終えて、片付けて、そろそろ部屋で休もうかと思っていた時に、この薬師の部屋へと入ってきた人物がいる。
「あら、事務官長。どうされました?」
メメルに事務官長と呼ばれた人物は、漆黒騎士団の団長を務めるガレットであるが、この時間は裏向きの顔である事務官長であるはず。
「悪いが、化粧を頼みたい」
「化粧? あら、もしかしてこれからお見合いですか?」
「なぜ、そのような流れになる」
「今は男性でも化粧をされている方が多くなっているらしいですからね。だから、もしかしてお見合いのために、こう、きりっと格好よくして欲しいのかと思いまして」
「違う。女装のほうだ」
「女装……」
このガレットの女装。メメルは何度か目にしたことがあるが、そのときもメメルが化粧を施した。だが、この女装という言葉が意味するところは。
「任務、ですか?」
「違う」
任務ではない、となれば。
「もしかして、そういう御趣味に目覚めてしまった?」
「それも違う」
任務でもない、趣味でもない。
にもかかわらず、この団長であるガレットが女装をするというのはどのような状況なのか。
「シャンテルを迎えにいくためだ」
「シャンを?」
「君も聞いただろう? 彼女の失態を」
シャンテルの失態。もちろんメメルも知っている。
「あぁ。行きずりの男性に処女を捧げてしまった、ということですね。残念でしたね、団長。シャンのそれを狙っていたのでしょう?」
うふふ、と笑いながら、ガレットを椅子に座らせる。
このガレットの良いところは、着替えのためにきちんと前にボタンがあるシャツを着ているところだろう。
事務官長としての制服ではあるのだが、ここでかぶりのシャツであったなら、せっかくのメメル様特製のお化粧が崩れてしまう。
「なぜ、そうなっている?」
「え、何がですか?」
「なぜ、私がシャンテルの処女を狙っていた、とそういう話になっている?」
「え、違うんですか?」
「違う。君は何か誤解をしているようだが、私はシャンテルの保護者代わりだ。仮に彼女が売れ残ったら、五番目の妻として娶ってやろうという気持ちだ」
「五番目って。他に四人の女性とそのようなご予定があるのでしょうか」
「なひっ」
メメルが容赦なく、ガレットの顔に下地を塗りつけているため「ない」と言いたかったのに、そんな情けない言葉になってしまった。
「でしたら、一番目の妻にシャンを娶ってあげたらいかがですか?」
「売れ残ったらな。だが、ローガンがいるだろう」
「そうですよね。てっきりあの二人、と思っていたのですが。まさか行きずりの男性がシャンの相手だなんて」
メメルは言いながらガレットの眉を整える。
「まあ、過ぎてしまった事は仕方ない。彼女の子供は彼女の優秀な遺伝子を受け継ぐわけだから、万が一の場合は、その子をこの漆黒で育てようと思った」
「あら。エリート教育ですね」
「そうだ」
「ですが。シャンの相手がどうにもならないロクデナシの男で、そちらの方の遺伝子の方が強かったら、シャンのような子にはならないのではないですか?」
メメルはガレットの睫毛を整える。くるりん、と上向きに。
この男、女性のメメルから見てもうらやましいくらいに睫毛が長い。相手がガレットでなければ、嫉妬でその睫毛を引っこ抜いているところだ。
「そのためのエリート教育だ」
それって洗脳では、とメメルは思ったのだが口にはしなかった。
ただ、あのシャンテルの相手がどのような男であるのかという興味はある。
「では、口紅を塗りますから。ちょっと黙っていてくださいね」
メメルが筆でガレットの唇に紅を塗る。
「はい、完成」
手鏡をガレットに渡したメメルは、心の中で自画自賛。
「相変わらず、君の腕は素晴らしいな」
元がいいからです、と言いたいメメル。悔しいくらいに麗しい美女が出来上がってしまった。
「団長、着替えのほうは?」
「その鞄に入っている」
だから、この部屋に入ってきたときに大きな鞄を手にしていたのか。
メメルが鞄を開けると、皺にならないように丁寧に畳まれていたワンピースが入っていた。
ガレットの身長でも着ることのできるサイズの女性もののワンピース。もちろん、特注である。
本業を終えて、片付けて、そろそろ部屋で休もうかと思っていた時に、この薬師の部屋へと入ってきた人物がいる。
「あら、事務官長。どうされました?」
メメルに事務官長と呼ばれた人物は、漆黒騎士団の団長を務めるガレットであるが、この時間は裏向きの顔である事務官長であるはず。
「悪いが、化粧を頼みたい」
「化粧? あら、もしかしてこれからお見合いですか?」
「なぜ、そのような流れになる」
「今は男性でも化粧をされている方が多くなっているらしいですからね。だから、もしかしてお見合いのために、こう、きりっと格好よくして欲しいのかと思いまして」
「違う。女装のほうだ」
「女装……」
このガレットの女装。メメルは何度か目にしたことがあるが、そのときもメメルが化粧を施した。だが、この女装という言葉が意味するところは。
「任務、ですか?」
「違う」
任務ではない、となれば。
「もしかして、そういう御趣味に目覚めてしまった?」
「それも違う」
任務でもない、趣味でもない。
にもかかわらず、この団長であるガレットが女装をするというのはどのような状況なのか。
「シャンテルを迎えにいくためだ」
「シャンを?」
「君も聞いただろう? 彼女の失態を」
シャンテルの失態。もちろんメメルも知っている。
「あぁ。行きずりの男性に処女を捧げてしまった、ということですね。残念でしたね、団長。シャンのそれを狙っていたのでしょう?」
うふふ、と笑いながら、ガレットを椅子に座らせる。
このガレットの良いところは、着替えのためにきちんと前にボタンがあるシャツを着ているところだろう。
事務官長としての制服ではあるのだが、ここでかぶりのシャツであったなら、せっかくのメメル様特製のお化粧が崩れてしまう。
「なぜ、そうなっている?」
「え、何がですか?」
「なぜ、私がシャンテルの処女を狙っていた、とそういう話になっている?」
「え、違うんですか?」
「違う。君は何か誤解をしているようだが、私はシャンテルの保護者代わりだ。仮に彼女が売れ残ったら、五番目の妻として娶ってやろうという気持ちだ」
「五番目って。他に四人の女性とそのようなご予定があるのでしょうか」
「なひっ」
メメルが容赦なく、ガレットの顔に下地を塗りつけているため「ない」と言いたかったのに、そんな情けない言葉になってしまった。
「でしたら、一番目の妻にシャンを娶ってあげたらいかがですか?」
「売れ残ったらな。だが、ローガンがいるだろう」
「そうですよね。てっきりあの二人、と思っていたのですが。まさか行きずりの男性がシャンの相手だなんて」
メメルは言いながらガレットの眉を整える。
「まあ、過ぎてしまった事は仕方ない。彼女の子供は彼女の優秀な遺伝子を受け継ぐわけだから、万が一の場合は、その子をこの漆黒で育てようと思った」
「あら。エリート教育ですね」
「そうだ」
「ですが。シャンの相手がどうにもならないロクデナシの男で、そちらの方の遺伝子の方が強かったら、シャンのような子にはならないのではないですか?」
メメルはガレットの睫毛を整える。くるりん、と上向きに。
この男、女性のメメルから見てもうらやましいくらいに睫毛が長い。相手がガレットでなければ、嫉妬でその睫毛を引っこ抜いているところだ。
「そのためのエリート教育だ」
それって洗脳では、とメメルは思ったのだが口にはしなかった。
ただ、あのシャンテルの相手がどのような男であるのかという興味はある。
「では、口紅を塗りますから。ちょっと黙っていてくださいね」
メメルが筆でガレットの唇に紅を塗る。
「はい、完成」
手鏡をガレットに渡したメメルは、心の中で自画自賛。
「相変わらず、君の腕は素晴らしいな」
元がいいからです、と言いたいメメル。悔しいくらいに麗しい美女が出来上がってしまった。
「団長、着替えのほうは?」
「その鞄に入っている」
だから、この部屋に入ってきたときに大きな鞄を手にしていたのか。
メメルが鞄を開けると、皺にならないように丁寧に畳まれていたワンピースが入っていた。
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