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叙爵 編

あのバカ!

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「哲也君、今度パトラさんに迫られたら僕、我慢できそうにないよ」

「俺もだよ」

「う~ん、実は僕もだよ不味いね。豊君からのSMSショートメッセージでこの国の事を教えてもらっていたから上手く躱していたけれど……その後メッセージを送っても返事が全然無いし」

「直に豊君がいないの気が付かなかったのは失敗だった。悪い事したな」

「何が有ったんだろう?」

「捜して話をしなきゃ」
「そうだね。で、どうする?」

「座学と基礎訓練がやっと終わって4日後から演習だ。チャンスをみて脱出するしかないよ」

「僕達だけで?」

「ああ、他の皆は指導係の言いなりだもの、きっと誘惑されて何かされたに違いない」

「うん、悲しいけれど信用出来ないもんな」
「でも天海さんだけは、まともな気がするんだ」

「よし、夕食の後に試してみよう」


ーー


「天海さん、少し良い?」
「何かしら?君達が話しかけて来るなんて珍しいわね」

「天海さんは教育係のキルツさんと上手くいっているの?」

「……どうしてそんな事を聞くの?」
「風紀委員の目からみてどうなのかなと思って」

「……」

「あっ、今、スキルを使ったでしょ?」

「ふふっ、どうやら君達はまともなようね。ここでは不味いわ、君達の部屋に行きましょう」

「い、良いの?」
「何かするつもり?」
「め、滅相もない」





「ふ~ん、わりと綺麗にしているのね。それで君達はなぜ洗脳されてないのかしら?」

「豊君のお陰なんだ」

「えっ、鈴木君て豊と仲が良かったの?」

「うん。アニメのイベント会場で並んでいたら、偶然そこに豊君が通りかかって意気投合したんだ」

「そう、……という事はショートメッセージのモールス信号を受け取ったのね」

「そうなんだ。でもその後、全然連絡が取れないんだ」

「やっぱり。私もそう、あのバカったらいったい何をしているのよ」

「天海さんは豊君が何でいないか知っているの?」

「それね……ヴェスの爺様に聞いたんだけど豊の奴、勇者の称号が無かったんですって。しかもスキルも何も無いらしいの、それで自分から出て行ったらしいのよ」

「そんな事ってあるのかな?」
「稀にそういう話もあるけど考え難いかな」
「だけど心配だな」

「大丈夫よ。豊はそんな軟弱な奴じゃないわ、現にメッセージをくれたでしょ」

「そうだね、最初っからこの国が怪しいと思ってたんだ」

「それで話しを戻すけど、どうするつもり?」

「僕達はこれ以上パトラさん達……指導係の攻撃に耐えられそうにないんだ」

「……高校生男子にとって、『あのお色気攻撃に抗え!』なんて酷なことね。他は女子も男子も篭絡されちゃったものね」

「そうなんだ。だから4日後の演習を利用して脱出するつもりなんだ」

「出来れば皆も助けたかったけれども……」

「それは現状では無理ね。悔しいけれど私達では力不足だわ」

「……そうだよな」

「だからまともそうな天海さんとは話してみる事にしたんだ」

「ありがとう。先がどうなるかは判らないけど、ここは一旦引いて、力を付けてから皆を助けられるものなら戻って来ましょう」

「賛成」「よし」「頑張ろう」




ーーーー


「長きにわたって学んでもらったこの世界の知識と基礎訓練が修了し、今日から野外における演習を行う為に北の森に出発する。これからは予め決めてもらったパーティ毎に行動する事になるのでそのつもりで」



「よし!後は脱出するチャンスを待つだけだ」

「天海さんともパーティを組む事が出来たしね」
「よろしくね」
「こちらこそ」




「城下町から出るなんて初めてだから新鮮だよね」
「しかもこんなに遠くまで離れる事が出来るなんて」

「でも注意が必要だ。見張られているみたいぜ」

「洗脳されていないのは私達だけだからよ」
「でもパーティは組ませてくれたのだから良しとしよう」

「予定ではこの先で野営訓練で、明日の昼頃に北の森に入るんだね」

「ドキドキしてきたよ」
「ああ、絶対に脱出してやる」


ーー



「では、ここで一晩野営をして明日の朝8時に出発する。各パーティは準備せよ」

「はい」「解りました」



「天海さん、気をつけなければいけないのはどのパーティだと思う?」

「そうね……聖騎士のスキル持ちの高橋君、闇属性持ちの日向君、精神操作系スキルの有る日高さんかしら。後はいい魔道具で身を固めて私に鑑定をさせない付き添いの騎士達ね」


「そうか……手強そうだね」

「日高さんて精神操作系のスキルがあるんだ」

「それがどうかしたの?」

「いやね、そんなスキルが有るなら誘惑や洗脳なんかされてないのかもって思ったからさ」

「それもそうね。あの子、前から何を考えているか判らない所があったからね」

「要注意だね」
「確かにな」

「ご飯が出来たよ。と言ってもイメージして出しただけだけど」

「うわぁ~美味しそう。ハンバーグにカレー懐かしいわね。ある意味、瀬古君のスキルが最高よね」

「食いしん坊の瀬古君らしいと言えるね」

「僕が食べた事のある物ならイメージで造り出す事の出来るスキル、"クリエイトフード"これが無かったら異世界に来たのは嬉しいけど直に倒れていたよ」

「痩せて良かったんじゃないの?」
「きついな天海さんは」

「お陰で美味しい物が食べれて私はいいけどさ」
「俺もそう思う」

「さあ、明日は万全でいたい。早く食べて寝よう」

「そうね」「解ったぜ」



ーーーー





「これより北の森に入る。基礎訓練で習得した事を忘れずに対応するように」

「解りました」


「いよいよだぜ」
「いいわね皆んな!」
「「了解」」





「ここまでで出てきたのは、ゴブリンとフォレストウルフだけね」

「さすがに皆んな苦労せず難なく倒しているな」
「うん」


「えっ?何これ?地震?」
「震度2くらいかな?たいしたことないね」


「うわぁ~!大地の神がお怒りになっておられる」


「なんでこんな事で騎士の人達は這いつくばって震えているのかしら?」


「……チャンスだよ、皆んな」
「そ、そうだぜ」

「よくわからないけど、そのようね」
「行こう」


「待ちなさい!朋子何処に行く気?」

「紀子……この国は信用出来ないのよ。いつかまた会いましょう」

「ガルブ様、朋子達が脱走します」

「な、なんだと、い、今はそれどころでは無い。か、神よ!お赦しを」

「じゃ、またね」





ーーーー


「ここまで来れば一安心かな?」
「そうだね」

「それで、これからどうするんだい?」

「豊君を捜さないと」
「あては有るのかよ?」

「そうね……この国が碌でもないと知って君達ならどうする?」

「そうだな、できるだけ離れたいと思うだろうな」

「そうよ、私もそう思う。この国は東の端に近い位置に在るわ」

「つまり西に向かったって事か?」
「だと思う」

「よし、回り込んで追っ手に気をつけながら西に向かって進もう」

「「「おうっ!」」」


「待ってなさいよバカ豊、私をおいて行くなんてトッチめてやるわ」

「お~、怖っ!」
「あはは、お手柔らかにね」

豊君、大変そうだ……ご愁傷さま。

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