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叙爵 編

ほ、欲しい

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 僕達は北の森を抜けそのまま北に向かいシャコー山脈の麓を流れる大河、シャトル河に沿って進み国境を越えた辺りで南下し隣国のブルーバ王国に入る事にした。

今のところ追っ手が来る気配が無い。

「順調だね」
「ああ」

「地震が何回かあったから、そっちの対応で手が回らないのよきっと」

「神の怒りって信じているんだ」

「この世界が地球と同じ造りとは限らないから全部否定は出来ないけどね」

「そうだね」


「大きな森が見えて来たよ」
「え~と、北に進めばエルフの国だ。行ってみたいな」

「豊君、エルフの国に行くかな?」

「本当に魔法もスキルも無いなら、そんな無茶はしないと思うわ」

「そうだね。予定通りブルーバ王国を目指そう」
「残念だなぁ」
「チャンスはいくらだってあるさ」




ーーーーーー


ダイヴェル王国を出て15日が過ぎた。

「この辺だと国境を越えていると思う」
「じゃ南下してみよう」

「魔物の素材もかなり貯まったし街に行ってお金に替えないと」

「情報も必要だしね」

「やっと宿に泊まれるのね」
「強行軍だったし」
「今までまともな道じゃなかったからなぁ」

小さな森を抜けると村が在った。


「丁度良い、街の情報を聞いてみよう」



裏の森からやって来た黒髪の僕達を訝しそうに見ている村人に、ブルーバ王国の魔法学校の研修で迷ってしまったと説明をすると快く迎え入れてくれた。


「少し心が痛むわね」
「仕方ないよ」


村人達に話を聞くと、地震がこの世界に大きな変化をもたらしたようだ。


「新しいダンジョンに新大陸か」
「凄い事になっているね」

「それより聴いて、お風呂が有るんですって」
「天海さん、嬉しそうだね」
「当たり前でしょ」

「だよね~」


情報と食事、寝る場所を提供してもらった御礼に畑を荒らすワイルドボアを退治して、村人に教えてもらった南に在るトライトの街に向かった。


「やっとまともな道を歩く事が出来た」
「楽だわ~」

「魔物にも襲われないしね」
「魔物には襲われないけど盗賊はいるらしい」

「そのようね」
「ざっと20人ってところだな」


50m進んだ時、奴らは現れた。

「兄ちゃん達、お子様だけでこんな所を護衛も無しに歩いてちゃ危ないぜ」

「そうよ、俺達が護ってやるから金だしな」
「おっ、若い娘もいるぜ」
「ついてるな」


「訓練以外での対人戦は初めてだな」
「何時かは来ると思っていたけど」
「どうする?」

「さすがに殺すまでの踏ん切りがつかないわね。手首、足首を落として行動不能にすると言うのはどう?」

「賛成」「異議なし」「それで行こう」

「舐めてんのか、ごちゃごちゃと」
「野郎どもやっちまえ」
「娘は殺すなよ」
「がってん」



「てっ?お前達、なにやってんだ早く殺らねえか?」

「か、身体……がう……ご……」
「……か」
「な……い」

「な、にっ?」

「はい、残念でした」

「ぐぎゃーーーーゃゃゃや!俺の、俺の手首が」

「足もね」
「や、やめろぉーーーーぉぉお!」


「天海さん、容赦ないね」
「悪い事が嫌いだからね」
「さすが風紀委員」

「僕達も頑張らないと」「そうだね」



「皆んな失神しちゃったね」
「切り口はヒールでふさいだから死にはしないでしょ」
「じゃ行こうか」


「あそこに馬車が有るよ」
「盗賊のかな?」
「お宝が有ったりして」

幌の中を除くと檻があった。

「檻の中に誰かいるみたいだ」

「ひっ……」

「……獣人の娘達だ」「ホントだ」
「お、お願いです、何でもしますから助けてください」

「大丈夫、何もしないから安心して」


3人の娘に話を聞くと全員が商人の娘で、それぞれが旅の途中で襲われたそうだ。一緒にいた両親と兄、護衛は全員殺され、まとめられて奴隷商に売られる所だったらしい。

「そう……お腹空いてない?瀬古君、何か食べ物出してあげなよ」

「解った。クリエイトフード!」

「わぁ!美味しそうね」
「この娘達の分ですよ」
「わ、解っていますよ」


ーーーー



「馬車が手に入って良かったね」
「移動が楽になった」

「これならトライトの街に2日で行ける」




予定通りトライトの街に着いた僕達は身分証が無いので犯罪歴を確認の上、滞在税を払って街に入れてもらった。


「何から何までありがとう御座います」
「気にしないで、これも何かの縁よ」

「冒険者登録をした方がいいね」
「うん」

「豊君の情報も聞きたいしね」
「宿を決めたら早速行こう」

「ミイさん達は宿で待ってってください」
「はい、解りました」



「ここが冒険者ギルドかぁ」
「テンプレあるかな?」

「その時は天海さんにお任せしよう」
「何よそれ?」
「お楽しみと言うことで」

「へぇ~、意外と綺麗な所ね」
「やっぱり皆に見られているね」

『テンプレ来るか?』

「おう、兄ちゃん達」

『き、来た!テンプレ』

「もしかして"醜女のヒモ"の知り合いかい?」
「へっ?」

「"醜女のヒモ"ですか?」
「ああ、兄ちゃん達みたいな黒髪の奴さ」

「豊君だよそれ」

「えっ?君達、"醜女のヒモ"……ユタカさんの知り合いなの?」

「そうなりますかね」

「だったら早くシャンプーとスキンクリーム送ってくれるように言ってくれないかしら。もう2週間も音沙汰が無いのよ」

「シャンプーとスキンクリーム……なにそれ?」

「これよこれ。髪の毛ツヤツヤ、お肌シットリになるやつ」

「ほ、欲しい」
「天海さん?」

「で、豊の奴は何処に行くって言ってました?」

「それならディライト王国のシャレイド山の神殿に行くって言ってたわね」

「ありがとう御座います。行くわよ皆んな」
「う、うん。でも、もうちょっと情報を……」



ーー


「でも豊君、流石だねこの手の世界ではお約束のシャンプーとスキンクリームを作って稼ぐなんて」

「そうだね。おそらく前に召喚された勇者達も考えたと思うけど、どうやら豊君の方が効果が高いようだ」

「豊の奴、ますます許せん。私にはよこさないで」
「天海さん、無茶を言っていますよ」

「それにしても"醜女のヒモ"って?どんな女の人と一緒なんだろう?」

「奴隷を買うなんて、それも許せない」


ハハッ、やっぱり豊君、ご愁傷さま。

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