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226.大切な弟レンのために(エイデン視点)

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 僕は昔から本を読むのが好きだった。最初はもちろん絵本だったけど、でも5歳になる頃には、家に置いてある本を、片っ端から読み始めて。父さん達が驚いていたっけ。

 そしてその本に書かれている事を、確認する事も好きだった。気になる事が書かれてあれば、すぐに確認しないといられなくて。時々時間を忘れてそれを調べていてたら、家に戻るのが夜になってしまい、父さんにも母さんにも凄く怒られて。本を読む事も、本に関する確認、実験をする事も禁止と言われて。あの時の絶望感と言ったら。

 それからはきちんと時間を守って、本を読むように、そして実験も時間内に終わるように、何とかしていたっけ。だって1週間も禁止なんて、あんな絶望感を味わいたくなかったからね。

 でも学校に行き始めて、高学年に上がると、実験や研究に費やせつ時間が増えて。さらにもう高学年なのだからと、父さん達が許してくれてからは、レン達が初日、僕の部屋を見た時の状態が、ほぼ毎日になったなぁ。父さん達はあまりの変化に、さすぐにため息をついていたね。
 ただ、僕だってレン達が来てからは、なるべく片付けるようになったけど。可愛い弟に怪我なんてさせられないからね。

 レン達が来て、最初はレンが僕達に懐いてくれるか心配だったけど、そんな心配は何処へやら、すぐに慣れてくれて。どう言う経緯で森に居たのか、そうしてスノーラと暮らし始めたのか。詳しい話しは聞かなかったけれど、それでもこれからは、レン達がここで、僕達の所で、幸せに暮らして行けたら。

 そう考えて、僕の毎日は変わったんだ。もちろん実験に研究に、それは今まで通りだけど、どうしたらレン達を守っていけるのか考えるようになって。僕はレオナルドみたいに剣は扱えないからね。
 基本は魔法に薬学、そう言った方が得意だから、それでどうレン達を守るか。それが僕の毎日に新たに加わった。

 これから僕はあの鉱石に、自分の魔力を流すつもりだ。これは本に書かれていた方法ではないけれど、みんなが動けない今、直接鉱石に魔力を流すのが1番良いだろう。もちろん僕だけの魔力でどうにかできるとは思っていないけど、それでも何かの拍子に、僕の魔力だけでこの魔法陣を発動させられたら。

 向こうの状況は分からない。ただ魔法陣を完璧に発動できなくとも、少しはディアブナスを抑えられるはず。そうすれば今のこの、みんなを押さえつけている力が弱まるかもしれない。そうしてレオナルド達が動けるようになれば、ディアブナスに攻撃する事ができる。

 僕は? どうだろう? 魔力をどれくらい流す事になるか分からないけれど、その後すぐに動けるとは思えない。それにもし動けたとしてもこの足じゃね。思い切りさしたからね、かなりの血が出ている。自分で刺したくせに、ちょっと刺しすぎたかな? でも…。

 僕とレオナルドが、得意な事が別々で良かったよ。だってもし僕もレオナルドも、どっちもが本好きの、実験と研究好きだったら? その反対でどっちもが剣や弓、格闘とか、そういう事ばかりだったら?

 今回の事、僕が本が好きで、それをやるためにどうしたら良いかなとか、ケビン達にも手伝ってもらったけれど、ここまで何とか準備をする事ができて。この後僕が動けなくなっても、そんなに問題はないだろう。

 この後の事はレオナルドの方が良い。剣バカのレオナルドじゃないと、ディアブナスの相手はできないだろうからね。今回の魔法陣の事、レオナルドじゃ思いつかなかったと思うし。それぞれが得意な事を活かせる、とっても良い状況だよね。

 足を引きずりながら、何とか鉱石の所まで歩いた僕。ずっとレオナルドが僕を呼んでいる声が聞こえているけど、これから僕がこれをやったら、きっと物凄い勢いで怒るんだろうな。いつも勝手に決めて、しかもやり過ぎだって。レオナルドだけには言われたくないんだけど。

 僕は鉱石に魔力を流す前にレオナルドを見た。そして声をかける。

「レオナルド、後の事は任せるね。レン達の事、俺達の大切な弟達を守ってくれ」

「…兄さん? 兄さん何を。まさか」

 さぁ、急がないと。レン、待っていてね。今僕が魔法陣を発動させるから。僕の魔力だけで発動させられるかな? もしダメなら…。うん、誰かをここまで引きずって連れてきて、魔力を流してもらおうかな。何て事を考えながら、僕は鉱石に手を伸ばした。

 すぐに魔力を流し始める。と、一瞬でごそっと魔力を持っていかれ、思わず倒れそうになった。それを何とか踏ん張って体制を立て直し、再び魔力を流す。

「兄さん…、兄さん!!」
 
「エイデン様!!」

 大丈夫、まだまだできるよ。深呼吸し、さらに魔力を流すと、どんどんその魔力を吸収していく鉱石。まだ魔法陣に変化は現れない。
 どれくらい魔力を流したか、自分の中にある魔力がもうほとんどつきかけ、僕は何とか意識を保っている状態に。それでもまだ魔法陣に変化はなくて。

 やっぱり僕だけじゃダメだったか。誰かをここまで連れてくるにも、流石に立つ事が。くそ、もう少し早く動くべきだった。今までの魔力の吸い込まれ方から、もう少し大丈夫かと思っていたら、さっきいきなり、どっと魔力を吸い取られてしまってこの状態に。

 はぁ、全く僕は最後まで詰めが甘いね。父さんにも母さんいも、最後まで、何があるか分からないのだから気を抜くなって言われてたのに。それで時々、実験をしていて、できたと思って安心して、爆発させたりしてたっけ。ただ今回は失敗できないんだよ、レン達を守るためだからね。

 …僕の力を全部あげるよ。それでどうなるか分かっているけど、それくらいしないと魔法陣は発動しないでしょう? それでも足りなかったら、僕にはもうどうにもできないけど。
 お願いだ、少しで良い。あいつを少しでも止められるように、レオナルド達が動けるように。お願いだから魔法陣を発動させてくれ。

 僕は力を振り絞り、魔法陣に魔力を流した。一気に力が抜けて、僕はその場に倒れ込む。視界がぼやけて良く見えない。ただ、魔法陣に何か変化したような感じはしなくて。

 やっぱりダメだったか。レン達、スノーラ達、父さん達。みんなごめん。僕は失敗したみたいだ。もう目を開けているのも…。
 遠くでレンの声が聞こえた気がした。ごめんねレン。目を瞑る瞬間、目に前が明るくなったような気がしたけど、僕の意識はそこで途絶えた。
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