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第2章 王都編

49、出発

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 まだ日が昇り始めた薄暗い早朝。俺たちは宿を出て、遠距離馬車乗り場に向かった。

「早朝は少しだけ寒いね」
「やっぱり日が昇らないと冷えるな」

 大通りにもほとんど人がいない街中を歩くのは新鮮だ。生まれ育ったこの街を目に焼き付けるようにしながら、早朝の街並みをゆっくりと見回す。

「寂しい?」
「うーん、ちょっとだけ。でも楽しみな気持ちのほうが大きいな。いつでも戻って来られるし」
「確かにね。戻りたくなったらいつでも言って」

 笑顔でそう言ってくれるフィーネの優しさが嬉しくて、俺は自然と笑顔になった。

「おはようございます」

 馬車乗り場に着くとすでに御者を務める男性が待っていて、挨拶を交わす。

「従魔は乗るんだったか?」
「いえ、乗るのはこの子だけで、こっちの二人は馬車に並走する予定です。ブラウンホースは大丈夫でしょうか」
「ああ、問題ないだろう。……ただそうだな、一応敵じゃないことを示すために会わせとくか」

 男性はそう言うと、俺たちのことを馬車の前面に呼んだ。

「従魔も連れてきてくれ」

 その言葉に従って皆で向かうと、リルンとデュラ爺はブラウンホースから少し離れた場所で止まり、その場に座り込んだ。それからしばらく両者はじっと見つめ合い……数十秒後にふっと視線を逸らす。

『大丈夫そうじゃな』
『我らのことを敵視はしてないようだ』
「良かったな」

 問題なさそうなことを確認したところで、男性は俺たちの名前を聞いてリストにチェックをつけていく。

「乗っていいぞ。途中で休憩は何度か挟むが、それ以外にも何かあったら言ってくれ」
「分かりました。よろしくお願いします」

 馬車に乗り込むと、中にはまだ他の乗客はいなかった。奥に詰めて並んで座り、フィーネは膝の上にラトの布団を取り出す。

『ありがと~』

 ラトは眠そうな目を擦りながらその上に乗ると、すぐに小さく丸まった。朝早くて睡眠が足りなかったみたいだ。

「寝るの?」
『うん。ふわぁ~、ちょっとだけ』
「ははっ、可愛いな。……もう寝た?」
「寝ちゃったかも。でも道中は長いし、寝てるぐらいの方が退屈しなくて良いかな」
「確かに二日も掛かるんだもんな」

 王都までは途中で別の街に一泊して、全部で二日の道中になる。しかも早朝に出発して、到着は明日の日が沈む時間ギリギリの予定だ。

「途中の街もちょっと楽しみだな」
「そうだね。小さな田舎町みたいだけど、だからこそ美味しい食堂とかあるかも」
「確かにあり得る。美味しいところを引き当てたいな」

 フィーネとそんな話をしていると、馬車に他の乗客が乗ってきた。視線を向けると、お母さんらしき女性と小さな子供が二人みたいだ。

「あー! なにその子!」

 まだまだ無邪気な年頃の女の子が、ラトを指差して瞳を輝かせた。

「叫んじゃダメよ! 迷惑でしょ」

 お母さんが必死に止めようとするけど、もう一人の男の子を抑えるのに精一杯で、女の子を止めることができないらしい。

「大丈夫ですよ。この子はラトっていうの。今は寝ちゃったから静かにしてあげてね」

 フィーネがお母さんに笑みを向けてから女の子に話しかけると、女の子はラトが寝てるという言葉を聞いて両手で自分の口を押さえた。
 ちょっとお転婆だけど、素直でいい子みたいだ。

「本当にすみません……」
「いえ、すぐ静かにしてくれて、とても良い子ですよ。あっ、向かいの席どうぞ。私たちなら騒がしいのは気になりませんから」
「ありがとうございます。本当に助かります」

 お母さんと男の子が向かいに腰掛け、女の子は馬車が動き出すまでずっと寝ているラトを眺めていた。よほどラトのことが気に入ったらしい。

「私ね、テイマーになるのが夢なの。お姉ちゃんはテイマーなの?」
「そうだよ」
「どうやったらテイマーになれるのかな。スキルをもらったんでしょ?」
「そうだね~。でもスキルを選ぶことはできないから、そこは祈るしかないかな。ただテイマーじゃなくても魔物と触れ合える仕事はあるよ? 例えば御者さんとか」

 フィーネのその言葉に、女の子は瞳を輝かせて馬車の前方に視線を向けた。

「確かに!」
「ふふっ、そうでしょ? 後はエリクみたいにテイマーの冒険者と仲間になるのも一つの手かな」

 それから女の子はフィーネにかなり懐き、道中は退屈かもしれないという予想を裏切り、とても楽しいものになった。やっぱり子供って賑やかでいいな。

「休憩で止まるぞ~」

 本日最後の休憩として馬車が街道の端に止まると、乗客はすぐ外に降りていく。この時間になると、座っている体勢に疲れてくるのだ。

「う~ん、尻が痛い」

 俺たちも馬車から降りて、固まった体を伸ばした。

「さすがにこの時間になると痛くなってくるね。でもあと少しだよ」
「そうだな。あと一時間ぐらいだっけ?」
「確かそのぐらいだったはず」

 そんな話をしながらストレッチをしていると、リルンとデュラ爺が俺たちの近くにやってきて草原に寝そべった。
 ここまでずっと走ってるからか、少し疲れたみたいだ。

「何かおやつを食べる?」
『うむ、パンが食べたいぞ』
『わしにも肉をくれるか?』
『二人とも食べるの? なら僕もコルンの実を食べる!』

 皆のリクエストに従って鞄に入れておいた食料を取り出すと、三人は嬉しそうに顔を綻ばせてそれぞれの好物にかぶりついた。
 俺たちも果物を少し食べて水分補給をして、三人の隣で休憩だ。

 そうしてのんびりと最後の休憩時間を過ごしていると、リルンが顔を上げて耳をピクピクっと動かした。



~あとがき~
本日から第2章の投稿を開始します!
週に3回程度の頻度で更新していきますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

蒼井美紗
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