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第1章 パーティー結成編

48、報酬とお礼

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 デュラ爺が仲間になって毎日依頼をこなしていると、すぐに領主様との約束の日になった。
 領主邸に向かうと大歓迎で中に入れてもらうことができ、応接室に案内される。

「エリク、フィーネ、よく来たな。待っていたぞ」

 領主様は前回よりも血色が良く満面の笑みで、俺たちが応接室に入ってすぐにやって来てくれた。

「お久しぶりです」
「ああ、立たなくて良い。君たちは娘の命の恩人なんだからな」
「ありがとうございます。――ご息女はお元気になられましたか?」

 領主様がソファーに腰掛けたところで俺たちも座って問いかけると、領主様の表情がことさらに明るくなる。

「娘は日に日に元気を取り戻している。もう普通の食事も取れるようになったのだ。少しだけ庭の散歩もしているし、表情も明るくなった」
「そうですか……本当に良かったです」
「ご回復、おめでとうございます」

 ちゃんと治って良かった。そこまで回復してるのなら、あのレシピは睡氷病を治せる回復薬で間違いなかったということだろう。

「ありがとう。本当なら娘が直接感謝を伝えるべきなのだが、まだ万全の体調ではないため人と会うのは制限されているのだ。私から代わりに改めて感謝を述べさせて欲しい。――本当にありがとう」

 領主様は俺たちが恐縮してしまうほどに、深く頭を下げて感謝を伝えてくれた。

「お礼の品もたくさん準備してある。ぜひ受け取って欲しい」
「はい。ありがたくいただきます」

 領主様の言葉にそう返答すると、部屋の中にいた使用人の男性が応接室のドアを開けた。すると外からいくつものワゴンが運び込まれてくる。

 もしかして、これ全部がお礼の品だったりする?

「先日君たちの要望を聞いたが、それらの品はもちろん準備してある。しかしそれ以外にも、君たちに渡したいと思ったものを準備させてもらった。全て受け取ってもらえるとありがたい。……ただ従魔が増えていたのは予想外だったな。もし足りないようならば量を増やすが……」
「い、いえ! 十分です!」

 デュラ爺に視線を向けながら思案げな表情を浮かべた領主様を、フィーネが慌てて立ち上がって止めた。

「そうか?」
「はい。こんなにたくさんの品をありがとうございます」
「領主様、本当にありがとうございます」

 フィーネの後に俺もしっかりとお礼を伝えると、領主様は満足そうな笑みを浮かべた。

「気にするな。君たちの働きへの対価なのだから」

 それから俺たちは領主様からお礼の品について一つずつ解説を受け、数時間後に二台の馬車と共に屋敷を後にした。馬車はお礼の品を運ぶために領主様が手配してくれたものだ。

 宿に着いて俺とフィーネの部屋にそれぞれ荷物を運び入れてもらうと、二つの部屋が足の踏み場もない状態になる。

「フィーネ、これどうする?」
「……とりあえず、こっそりデュラ爺に収納してもらうのは不自然だよね。一度どこかに移さないとかも」

 やっぱりそうだよな……どこかの倉庫を借りて移動させて、そこから次の目的地に配達してもらうフリをして、デュラ爺に収納してもらうか。

「明日にでも倉庫に移動させよう」
「それが一番だね」

 とりあえず今日は疲れたのでこのまま放置ということになり、俺たちは貰った荷物を改めて眺めつつのんびりと時間を過ごした。
 ちなみに錬金道具は俺が一番欲しかった工房のもので、思わず領主様の前で叫んでしまったことは記憶から抹消したい。

 
 次の日の朝。さっそく倉庫を借りるための手続きを済ませ、台車を借りて自らの手で全ての荷物を運び込んだ。
 倉庫にはデュラ爺がいて、運び込んだ荷物は異空間の中だ。

「デュラ爺、この錬金道具は絶対に劣化や破損しないようにしてくれ!」
『それは昨日から何十回も聞いておる。間違えて変な空間に入れたりはしないから大丈夫じゃ』
「絶対だぞ。信じてるからな……!」

 デュラ爺のことは信じているけど、怖い空間の話を聞いてしまったのでどうしても念を押さずにはいられず、決死の覚悟で錬金道具が収められた箱を地面に置いた。

 するとその箱は一瞬で消えて無くなり……

『問題なく収納されたぞ』

 すぐにデュラ爺の言葉が聞こえてきた。

「はぁ……良かった」

 安心した瞬間に体の力が抜けて、思わずその場にしゃがみ込んでしまう。

『そこまで怖がらずとも間違えんわい。……まあ、過去に何度か間違えたことはあるが』
「ちょっ……! それもっと早く言ってくれ!」
『あの時はまだわしも若かったのじゃ。ほっほっほっ』

 デュラ爺が若かったって、どれほど前のことなんだ。それに神獣に若いとかあるのだろうか。

「デュラ爺、これで最後だよ」

 フィーネが俺たちのやりとりが終わったのを見計らい、苦笑しつつ最後の大きな袋を倉庫の床に置いた。

『分かった。……これで全部収納できたぞ』
「ありがとう。やっと片付けが終わったね。これでいつでも街を出られるけど、どうする?」
「そうだな……」

 ここ一週間で孤児院や工房など、知り合いがいるところには挨拶に回ったし、領主様にも街を離れることは伝えてある。もういつ出発しても大丈夫だ。

「さっそく明日とかにする?」

 先延ばしにしても仕方がないと思ってそう提案すると、フィーネは少しだけ悩んでから頷いた。

「そうだね。遠距離馬車の席が空いてたら明日にしようか」
「確かに空いてない場合もあるのか。じゃあ……今から皆で確認に行くか。皆も明日出発でいい?」

 各々倉庫の中でくつろいでいる三人に視線を向けると、まず声を発したのはラトだ。ラトはデュラ爺の背中の上でシュタッと立ち上がって、笑顔で手を挙げた。

『いいよ! 新しい街に行くのは楽しみだから!』
『我も良いぞ。パンがある街ならばどこでも良い』
『わしも久しぶりにいろんな街を巡ってみたいからな。移動するのは構わない』
「了解。じゃあ、馬車乗り場に行こう」

 それから外門の近くにある遠距離馬車の乗り場に向かうと、ちょうど明日の早朝の便が空いていて、二人分の席を取った。
 ラトはフィーネの膝の上に乗れるから支払いは必要なく、デュラ爺は体の大きさ的に馬車に乗るのは大変なので横を並走、そしてリルンは馬車に乗ることもできるけど、デュラ爺が走るならと一緒に走ることになった。

「二人とも、走るので大丈夫なの?」
『もちろんじゃ。遠距離馬車を引くのはブラウンホースじゃろう? あの魔物に我ら神獣がついて行けぬわけがない』
『そうだな。楽勝だ』

 確かにそうか。皆は神獣なんだもんな。

「それなら良いけど……疲れたりしたら言ってね。馬車を止めてもらうから」

 フィーネはまだ心配なようで、二人に無理はしないようにと言い聞かせている。

『分かっておる』
『大丈夫だ。それよりも道中で食べるパンが欲しいぞ』
『僕も木の実が欲しい!』
『我は……肉が良いな』

 皆の会話が移動中の食事に変わったところで、フィーネは心配そうな表情を苦笑に変えた。

「今日は買い出しをしてから宿に戻ろうか」

 それからの俺たちはそれぞれが気に入ったお店を巡り、移動中の食事やおやつをたくさん買い込んで宿に戻った。明日はついに出発だ。

 別の街に行くのは初めてだけど、緊張よりも楽しみな気持ちが優っている。これからフィーネたちと共にたくさんの街、国を巡ることになるのだろう。

 これからの日々が楽しいものになることを予感でき、俺の頬は自然と緩んだ。




~あとがき~
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!
ここで第1章は終了となります。

第2章の王都編は数週間以内に連載を開始する予定ですので、楽しみにお待ちいただけたら幸いです。

これからもよろしくお願いいたします!

蒼井美紗
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