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第2章 王都編

62、皆で料理

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「何を作る?」

 首を傾げながら近くにあるお店に視線を向けたフィーネに釣られて、俺もいつもは気にも留めない食材店に視線を向けた。

「どうするか……そんなに難しくないものがいいな。さらに皆の好物が入れられるやつ。」
「そうだね。じゃあ……煮込み料理にする? お肉と木の実と野菜をスパイスで煮込むの。それなら大きな失敗はないと思う。もちろんパンと一緒に食べる前提でね」
「確かにありだな」

 フィーネの提案に頷くと、ラトがすぐ後に続いて『賛成!』と大きく片手を上げた。そしてリルンとデュラ爺も頷いてくれる。

『我はそれで良いぞ』
『わしもじゃ』
「じゃあ決定だね。まずは……あっ、あそこのお肉屋さんに行こうか」

 それから俺たちは美味しそうな食材を選んで次々と購入し、何十人前の料理を作るんだろうというほどに買い込んだところで、やっと家に帰り着いた。

「絶対に買いすぎたよね……」
「確実にな。しばらくは自炊生活にしようか」
「そうだね」

 フィーネと苦笑を浮かべあってから、さっそく厨房に向かった。厨房で調理台の上に食材を並べると、とにかく肉とパンが多いことが分かる。

「肉だらけの煮込み料理にするのは確定として、ステーキも焼く?」
「それ良いね。リルンとラトもステーキ食べる?」
『我は食べるぞ』
『僕はいいかな』
「じゃあステーキは四枚焼いて、あとは煮込み料理かな」

 今夜のメニューが決まったところで、二人で役割分担をして調理を開始することになった。

 俺は食材に対してスキルが発動しないように調理をしなければいけないので、カットされてある肉を煮込んだり焼いたりする担当だ。
 それならトングやその他の調理器具を使えば、問題なく作業ができる。調味料も容器から直接入れるので触れる必要はない。

 俺にとって一番難しい作業である野菜の洗浄とカットは、フィーネに任せることにした。調理工程で一番難しいのが葉物野菜を手で千切ることなんて人間、俺ぐらいじゃないかといつも料理をするたびに思う。

『二人とも! 僕も手伝うよ~』
「ありがと。じゃあラトには……こっちの野菜を綺麗にしてもらおうかな」

 ラトにも洗えるサイズの小さな野菜を、フィーネに頼んで水を浸したボウルに入れてもらった。
 するとラトは張り切って、そのボウルの縁に登る。そして小さな手を使って、ぷかぷかと浮かぶ野菜を意外にも器用に洗っていった。

「ラト、それは皮を剥くから、泥が落ちればいいからね」
『はーい』

 フィーネはラトにそう伝えながら、隣で大きめの野菜をボウルに入れてゴシゴシと綺麗に洗い始めた。

「エリク、野菜は小さめで良いよね?」
「そうだな。一口サイズぐらいでいいと思う」
「了解」

 フィーネの作業を少しだけ見学してから、俺も自分の作業をすることにした。鍋に油を敷いて火を付けたら、トングを手にして肉を軽く焼いていく。そして少し火が通ったところで水と調味料を入れ、フィーネが切ってくれた野菜を投入した。

「こんな感じで大丈夫かな」
「うーん、私もそこまで料理は詳しくないんだよね。まぁ全部煮込めばそこそこは美味しくなるよ」

 その言葉に苦笑しつつ鍋の中を少しかき混ぜたところで、ラトの声が聞こえてきた。

『綺麗になったよ! これぐらいでいい?』
「おっ、完璧だな」
「ラトありがとう」

 ラトのふわふわな毛並みは少し水に濡れていて、なんだかへにゃんと元気がない。しかしそんな状態でも可愛さはそのままだ……いや、いつもより可愛いかもしれない。

「ラト、この布で体を拭いておいた方が良いよ」
「確かに風邪をひいたら大変だもんな」
『はーい。フィーネ、布はそこに置いてくれる?』
「はい、どうぞ」
『ありがとう!』

 それからも皆で楽しみながら調理を進め、数十分で煮込み料理が完成した。肉とスパイスがたくさん入った煮込みからは、空腹が刺激される匂いが漂ってくる。

「早く食べたいね。ステーキは焼けそう?」
「そろそろ火が通ると思う。パンの準備も始めるか」
「そうだね。リルン、パンはどれを焼き直したい?」
『この丸いパンは焼いたほうが美味い。他のものはそのままで大丈夫だ』
「じゃあこれだけ、少しバターをひいて焼いちゃうね」

 俺がステーキ、フィーネがパンの焼け具合を確認し、どちらもほぼ同時に調理が終わったところで、夜ご飯が完成した。

「完成~。これ、初心者にしては上手くできたんじゃない?」
「俺もそう思う。煮込みなんて見た目はお店レベルだ」

 二人で料理を自画自賛して、さっそく食べてみることになった。俺とフィーネは煮込みをそのまま、ラトは煮込みに入っていた木の実を、リルンは焼き直したパンに煮込みを載せて、そしてデュラ爺はステーキだ。

「うわっ、めっちゃ美味い」
「凄い……! これは売れるレベルだよ」
『うむ、確かに美味いな』
『ステーキの焼け具合も良いぞ』
『木の実すっごく美味しい!』

 自分たちで作ったから美味しく感じるというのは確実にあるだろうけど、予想以上に美味しくできている。調味料が奇跡的な配合になったのかもしれない。

「たまには料理をするのも良いね」
「そうだな。休みの日にはやろうか。結構楽しかったし」
『僕も楽しかった! また野菜を洗うよ~』
「ありがとな」

 ラトの頭を指先で軽く撫でると、ふさふさの尻尾を揺らして嬉しさを現してくれる。そんなラトに全員で癒されながら、穏やかに夕食の時間は過ぎていった。
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