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魔法学園

男湯

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 ──かぽーん。

 アル、エルク、キースの男三人は、頭に顔を拭くための布を乗せたまま大きな湯船に浸かっていた。

「こ、こんな大きい風呂とか、見たことないんだけど」
「だったら、今日見れたからよかったんじゃないか~?」
「ほ、本当によかったんでしょうか?」
「母上が入れと言ったんだから、問題ないさ~」

 緊張しているエルクとキースとは違い、アルは完全にリラックスした状態で肩まで浸かっている。

「まあ、母上の魂胆は単純に風呂に入れることじゃないけどな~」
「そ、そんなのか?」
「何か理由が?」
「うーん……ぶくぶくぶくぶく」
「「リラックスし過ぎだよ!」」
「ぶくぶく……むっ、すまんな」

 湯から口を離し、頭の布で顔を拭いて再び頭へ乗せたアルは、一つ息を吐くと理由を話し始めた。

「エルクはどうして剣術を習うことに対して、あんなに無理だって言ったんだ?」
「……」
「たぶん母上は、裸の付き合いで話してみなさいってことだと思うんだよな」
「そうなのですか?」
「……いやまあ、たぶんだからな?」

 少し冗談っぽくそう口にしたアルは、苦笑しながらも視線をエルクに向ける。
 キースも気になっていたのか同じようにエルクを見つめていた。

「……ガキの頃、キースやマリーがいない時にさ、剣術の真似事を一人でやってたんだ。その時に、近所でも悪ガキで有名だったやつにからかわれたことがあったんだ」
「あー、いるよな、そういうやつ」
「貴族にもいるんですね」
「そりゃいるさ。ネチネチと人の弱みを言い続けるんだ、心が参るっての」

 溜息をついたアルを見て、キースだけではなくエルクも笑っている。

「っと、すまん。今は俺の時間じゃなかったな。それで、からかわれてどうしたんだ?」
「えっと、俺も負けず嫌いだからさ、言い返してやったんだけど、そこでいきなり殴られた」
「マジかよ」
「マジだよ。それが平民のガキの喧嘩だからな。それで俺は剣術の真似事で対抗したんだけど、そんなもんが通用するわけもなく、ボコボコにされたんだよ」

 そこまで話を聞き、アルは一つの疑問を口にした。

「ボコボコって、エルクがか?」
「そっか、アル様は昔のエルクを知らないんですよね」
「昔のって、今とそこまで変わらないんじゃないのか?」
「……昔の俺は、背も低くてひょろかったからなぁ」
「そうなのか? ……うーん、全く想像ができないなぁ」

 今のエルクはアルよりもわずかに背が高く、パッと見でも筋肉も付いているように見える。
 同年代の子供と喧嘩をしたら、エルクが負ける未来なんて想像ができないアルだった。

「まあ、そういうことなんだ。だから、俺は魔法でそいつを見返そうと思ったんだけど……この通り、レベル1と2しかなくてな。そいつはレベル3と2をもっていたからCクラスだったかな」
「そうなのか……だけど、それが剣術を学ばない理由にはならないんじゃないか?」
「えっ?」
「だって、今はエルクの体だって大きくなっているじゃないか。それだけの体があれば、剣術だって十分扱えるよ。……正直、羨ましいくらいだ」
「俺が、羨ましいのか?」

 困惑顔のエルクにアルは力説するように口を開く。

「そりゃそうだろう。俺なんて同い年なのに背も低くて、剣を扱うにも力が足りないんだ。本当ならもっと長くて重い剣の方が好みなんだけどな」
「好みって、なんだか昔使っていたみたいに言うんだな?」
「……あー、いや、まさか!」
「そうですよね。それに、昔使っていたならそれこそあの木剣より長い剣なんて扱えませんよ」

 興奮し過ぎたと反省しながら、アルは話を続けていく。

「ま、まあ、だからこそエルクが剣術を学びたいなら、俺はそれに協力するってことだ。魔法が使える剣士って、無敵じゃないか?」
「剣が使える魔法師の間違いじゃないか?」
「……まあ、そうともいうな」

 職業を剣士だと思うのか魔法師だと思うのかの違いに苦笑しながらも、アルはエルクへの提案を繰り返し口にする。

「……無敵になれるかは分からないけど、なんだか面白そうだな」
「そうだろ? まあ、これには一つの欠点があるんだけどな」
「欠点?」
「それは、魔法学園が剣術を良しとしないというところですか?」
「やっぱりキースは気づいていたか」

 欠点について指摘したキースに頷いたアルは、剣術を学園で使用することで良い評価を得られなくなる可能性もあるのだと説明した。
 だが、エルクとしては成績にはあまり執着がないようだ。

「まあ、俺はFクラスだからこれ以上に落ちることはないんだよな」
「でも、進級とか卒業に響くんじゃないか?」
「そこは問題ないと思います。魔法学園は最低でも五年次を修了すれば卒業扱いになりますから。それでも周囲からは良く見られなくなりますけどね」
「そうだったのか。キリアン兄上が三年次で卒業して、ガルボ兄上が四年次の今で卒業しようとしているから、てっきり卒業には響くものだと思っていたよ」

 キースの補足に感心しながらも、それなら問題はないだろうとアルは再びエルクに向き直る。

「マイナス面もあるから学園で堂々と見せることはできないけど、実力をつけるって意味で習うのはありじゃないか?」
「……確かに、そうだな」
「僕も悪くないと思うよ」
「キースもか?」
「うん。僕が前に出られないから、できればエルクには接近戦で自衛できる手段を持っていてくれると安心できるかな」
「……そうか」

 エルクは少しだけ考えるそぶりを見せたのだが、その表情はすでに決まったことを口にする勇気を持とうとしているようにアルには見えていた。そして──

「アル、剣術の指導をお願いできるか?」
「もちろんだよ」

 こうして、アルは新しい世界で初めての弟子を取ることになった。
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