誰かの二番目じゃいられない

木樫

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1.彼氏の千円じゃ支払えない

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 ──夢目乃ゆめめの 朝五あさごは一番が好きだ。

 正確に言うと、誰かの一番好きな人になることが好きだ。情の名前はなんでもいい。とにかく誰かのナンバーワンになりたい。

 きっかけは些細なことだった。
 幼い頃の記憶。

 愛し合って結婚したはずが離婚してしまった両親を見て〝一番好きな人でないと終わってしまう〟と刷り込まれた。同じ男にしか恋焦がれない性癖に気づいたせいでもある。

 結婚や子宝には恵まれない。
 個人の愛が寄り添い合うには必須だ。恋愛だけでなく、なにごとにも愛は必須だ。

 しかしこれほど願っていても、朝五は一度も誰かの一番になったことはなかった。

 お互いを愛し続けられなかった両親だが、息子である朝五と兄は愛している。

 朝五を引き取った父も兄を引き取った母も、二人の息子に甲乙はつけられないと言う。朝五でも兄でも構わないということになる。朝五も両親や兄を愛しているが、唯一の一番でなければ不安だ。

 朝五は一番を探した。
 しかし友人は多くとも、親友と呼べる片割れはいなかった。

 そして朝五が付き合う恋人たちも──朝五を一番、愛してはくれなかったのだ。

 もちろん、朝五はどの恋人もいっしょうけんめいに愛した。
 同じ性癖の相手に限ったが選り好みなんかしなかったし、いつだって相手はすぐに見つかる。

 容姿だって磨いた。
 百八十センチの長身。スマートな体躯。柔らかい金髪が映える甘い顔立ち。色男の自負がある。男女ともにモテたので、自惚れでもない。顔だけのアホだとも称される。全部まとめて事実だ。

 ノリのいい性格と派手な容姿から〝誰とでも付き合う軽薄な遊び人〟と言われることもしばしばあるが、それは事実ではない。


『朝五が一番好きだよ』


 この言葉は、気持ちは、朝五にとって特別に大切なものだった。

 継続するために、朝五は恋人に同じ気持ちで向き合い続ける。

 軽口は叩いても心は嘘じゃない。
 できる限り希望も叶える。朝五なりに、恋人を愛していたからだ。

 ──……なのに。

 どういうわけか、朝五の恋人たちはいずれ朝五に別れを切り出した。

 しょうめん切って遊びだったと言われることなんかない。みんな示し合わせたように「他に好きな人ができた」と言う。

 経路はまちまち。行先は同じ。


(〝お前は悪くない〟?)

(〝嫌いになったわけじゃなくてもっと好きな人ができただけだって〟?)

(いちいち回りくどい言い方ばっかりして、失礼するぜ。はっきり言えよ)


 ──お前は一番好きな人じゃなくて二番目に堕ちたんだよ、ってさ。


 朝五の恋路は、いつもそう。

 唯一無二の一番になれないまま、誰かの二番目以下で終点を迎えるのだ。




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