5 / 42
1.彼氏の千円じゃ支払えない
05
しおりを挟む◇ ◇ ◇
「んで、理由は」
誕生日から一ヶ月後・午後。
同じカフェのソファー席で、朝五は恋人である孝則とその友人だった男の二人を前に表情を失っていた。
「最初は普通に友達で、俺もコイツも友達としてつるんでた。でもだんだん、コイツといるのが一番楽しいんだよなって思って……」
「ふーん。つまり俺とじゃ楽しくなかったってことかよ」
「そ、そうじゃねぇよ。朝五といても楽しかったし、ちゃんと好きだった。ただコイツといるほうがしっくりきて、ずっと一緒にいてぇって思っただけなんだ。コイツが一番好きだって気づいたんだよ……」
「へー。じゃあ一番好きな人じゃない俺とはどうして一緒にいたんですかー」
「夢目乃くん、本当にごめんなさい……! 恋人がいるってわかってても、諦められなかった僕が悪いんだよ……っ!」
「はぁ? 悪いのは誰かとか関係ねぇよな? なんでこの結末になって今この状況なのかって話だよな? あとお前関係なくない? 俺とたかりんの話じゃね?」
「孝則くんは悪くないよ!」
「たかりんが悪いとか言ってねーけども」
「頼む、朝五……! 許してくれ……! コイツは悪くねぇ! 自分の気持ちに気づかなかった俺が悪いんだ……!」
「違う! 僕だよ……! 友達じゃ嫌だった……っ! 本当にごめんなさい……!」
「そっちが悪いとも言ってねーけどもー」
なんだこの茶番。
お互いを庇い合って頭を下げる二人を、朝五は力のない目で見下ろす。
朝五は怒っていない。本当だ。
なぜなら孝則は浮気をしたわけじゃなく、心変わりに気がついたので朝五と別れて隣の男と付き合いたいだけだからだ。
一番好きな人だったと気がついた。
つまり朝五が一番ではないと気がついた。シンプルでわかりやすい絶望だ。
わかっていたのだから、ずっと前から海馬が伝達していたことを改めて突きつけられる処刑タイムに過ぎない。
ただ、なぜ処刑だけでは飽き足らず公開処刑と朝五に成り代わった男のお披露目会をされなければならないのかが、これっぽっちも理解できなかった。
簡単な話だろう?
孝則が言い訳をせずに一言「別れよう」と言ってくれていたならば、多少の話し合いで済んだはず。
なのにわざわざ授業が終わったあと人目のあるカフェへ呼び出され、二人揃って交際したい宣言。
腹をくくってやってきた朝五のなにを勘違いしたのか、美しい愛を見せつけながら謝罪合戦を始めている。
ざわめくカフェ店内からちらほらと視線を感じた。居心地が悪すぎる。
「はぁ……」
「っ」
朝五が深いため息を吐くと、二人は罪悪感を露骨に表し再度謝った。謝罪なんていらない。
朝五はもし孝則に別れ話をされたなら話し合い、納得のもと円満に別れようと決めていた。
この日を迎える前に孝則を諦める腹をくくった朝五にとって、そうすることが唯一プライドを守る方法だったのだ。
だが、それももう……こんな状況では、難しいだろう。
「はいわかりました。お別れしましょー。俺は今日からたかりんの元カレでーす。文句もなければ未練もなくキレイさっぱり円満バイバイといたしましょー」
朝五はガタンッ、とわざとテーブルに膝を当てて立ち上がった。
軽い調子でわざと抑揚をつける。
ニコニコ笑顔も忘れない。
トントンとスマホを触ってこれみよがしに連絡先を消し、孝則との予定をタグ付けしておいたカレンダーをキレイに削除。
そして物分かりのいいフリをしながら財布を取り出し、千円札を一枚手に取る。
「そのかわり、二度と話しかけんじゃねぇ」
朝五は二人をできる限りの冷めた視線と真顔で見下すと、バンッ! と千円札をテーブルに叩きつけ、振り返ることなくその場から歩き去ってやった。
31
あなたにおすすめの小説
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる