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第8章 エリカは聖女候補達と一緒に学校に通いたい

099★アルファードが留めも無く落ち込んで行きました

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 もし、オスカーという盾がパーティーの時に、側に存在しなければ、皇妃リリアーナからの白々しい厭味という名の攻撃、いや、口撃をされるのだ。

 その憂鬱な記憶に、アルファードが沈み込んで行くのを見て、オスカーは少し失敗したなぁ~と思っていた。
 その日、オスカーは団長であるアルファードと、ちょっとしたことの意見の食い違いがあり、売り言葉に買い言葉をしてしまったのだ。

 勿論、溜まった雑務も片付けなくてはならなくて、腹いせ紛れもあってオスカーはアルファードを、ガード無しでパーティーに放り込んだことが何度かあった。

 そして、そういう時に限って、アルファードが貴族の姫君達に辟易し、我慢の限界を超えそうな頃に、まるで見計らったように、皇妃リリアーナは現われて、神経を逆撫でするような攻撃をするのだ。

 そして、同じ話しを何度も何度も口にする、岩塩にモノを言わせて、無理矢理皇妃の座を強奪しただけあって、執念深く浅ましい女は言うのだ。

 『あらあら、陛下の長男なのに
 姫君をあしらうことすら出来ないの?

 西の姫君は、その程度の
 教育も出来ないのね

 やっぱり、側室の姫は………
 アレなのかしら?

 陛下の寵愛をいただく
 資格がない方なのね』

 何か言えば、何十倍にも跳ね返ってくるので、アルファードは無言でいることにしていた。

 『…………』

 皇妃リリアーナが、正統なる皇帝の色を纏うアルファードへの攻撃を、誰も止めない。
 というか、皇妃に収まっているので、誰も止められないのだ。
 そして、岩塩という、切っても切りきれない生活必需品の為に、みな見てみぬ振りを貫き通さなければならなかった。 



 アルファードが口を開いても閉じても、誰も止めないが為に、皇妃リリアーナは居丈高(いたけだか)に、何時も因縁をつけ続けるのだ。
 そう、その膨大な《魔力量》を現す現象すらも貶めるように………。

 『まぁ~…幾つになっても幼い姿の貴方を
 大人と思えず子供扱いのままなんでしょう

 魔法騎士団の団長は、子供がお飾りで
 出来るような団長職なんですものねぇ……

 本当なら…皇妃たる私の皇子が………
 魔法騎士団の団長に相応しいのに………』

 皇妃リリアーナは、皇妃たる自分の息子こそが、現皇太子たるアンジェロこそが、魔法騎士団の団長の地位に付くのが当然と言い出すのだ。

 もはや、妄執や固執という言葉がべったりと張り付くような皇妃リリアーナの言いがかりを、周りの貴族達も、また、始まったという表情をするだけで、全て見て見ぬ振りをするのだ。

 これを平気で遮り、アルファードを連れて逃げてくれるのは、現皇帝の父であり、アルファードにとっては祖父の親友であったオスカーだけだった。
 また、オスカーの親友でもある、マクルーファぐらいだった。

 そして、アルファードを守る盾のオスカーの姿もマクルーファの姿も無い時を狙って、皇妃リリアーナは執拗に絡むのだ。
 その浅ましくもおぞましい攻撃は、アルファードの優しく柔らかな感性を持つ心を、無遠慮に引き裂き続ける。
 だから、アルファードは口を開かないという方法で、自分を守る術を覚えた。

 なぜなら、皇妃を殺さないように自制するのが苦痛だからだ。
 皇妃リリアーナが自分に絡むたびに、その後ろ盾である故国を、いっそ滅ぼしたいと思いながら、国(必要な岩塩)の為にひたすら我慢し、沈黙するしかなかった。

 『…………』
 
 アルファードが黙っている為に、それ以上のコトを起こせないコトに皇妃リリアーナは焦れてさらに、怒らせる為におおよそ貴婦人らしくない嫌らしい笑いを浮かべる。
 そして、自分の思い通りにならないことが許せない皇妃リリアーナは、アルファードが言い返さないことをいいことに、更に言い募る。

 『何も言い返せないのは…………』

 そんな時に、体調が悪いのをおしてアルファードの父である皇帝が姿を現して、開口一番に皇妃リリアーナを叱責するのがつねだった。

 『何をしている…リリアーナ
 アルファードは、私の第1皇子で………

 そなたのアンジェロの兄なのだぞ
 あまり無用に絡むな

 言ったであろう、アンジェロの《魔力》では
 魔法騎士団の団長にはなれないと

 何度も言わせるな、たとえ皇妃と言えど

 騎士団の人事に口出しは無用の争いを呼ぶ
 これ以上、出すぎたマネはするな』

 祖国の後ろ盾が有ろうが、この国の皇帝に皇妃は逆らえない。
 それを判っていても、皇妃リリアーナは言い募る。
 暗い喜びを内に秘めて…………。

 『でも、陛下 何時になったら
 成人出来るかも判らない者よりも………
 私のアンジェロの方が……』

 皇妃リリアーナを黙らせるには、この場所から引き離す以外に無いと知っている皇帝アルフレッドは、男らしいのだが麗しいとしか言いようの無い顔で柔らかく微笑む。

 皇妃リリアーナの耳元に屈み込み、美しい銀髪を揺らしながら、その耳に優しく囁く。
 紫紺の瞳を細め、男の色気を漂わせて、まるで夜の秘め事を囁くように。

 『リリアーナ……
 ソナタ…体調が思わしくないようだな
 私が、そなたの離宮まで連れて行ってやろう』

 そう言って、その手を取ってくれる皇帝アルフレッドに、皇妃リリアーナは少女のように頬を染める。
 皇帝アルフレッドに一目惚れして、強引に嫁いできた皇妃リリアーナは自分だけを見詰めてくれる、この瞬間が何よりも嬉しかった。

 彼女にとって、皇帝アルフレッドが自分だけを見詰めてくれるこの時が、至福の一瞬なのだ。
 だから、未だに、頬を少女のように染めて言う。
 先ほどの妄執の塊のような姿が嘘のように…………。

 『あっあの…陛下』

 それ以上、その口を開くなとでも言うように、軽く唇に触れる皇帝アルフレッドだった。
 おとなしくなった皇妃リリアーナをエスコートしながら、皇帝アルファードに言う。

 『アルファード…皇妃を送ったあと戻る
 しばし待て………』

 父からの言葉に、アルファード素直に頷く。

 『はい、陛下』

 まるで、儀式のように、同じことが夜会のたびに繰り返される。
 オスカーやマクルーファという盾が無ければ…………。

 沈み込むアルファードの様子に、オスカーとマクルーファはお互いを見合わせて、失敗したなぁーという表情をする。
 そう、自分達がアルファードの側に居ない時に限って、執拗に絡みまくり、その精神を削り倒す皇妃リリアーナのセイで、少し不信感を持たれてしまっているのだ。

 普段の状態のアルファードなら、マクルーファでもそこそこ転がせる(仕事をさせられる)が、こういう深い陰鬱な状態になると中々復活しなくなるのだ。

 気付いた時には、そうなっていた。
 何度も、アルファードだけでパーティーに出した後に、そうなってしまったことに気付いたが、もう、後の祭りだったのだ。
 普段は、ちょっとツンツンの美少年で、仕事も出来る有能な第1皇子のアルファードは、滅多なことは無いが、落ち込むと奈落まで行ってしまうのだ。

 こうなると、オスカーやマクルーファがあの手この手をしても、中々復活しないのだ。
 今までで1番酷かった時は、魔法騎士団本部で済まず、王城を超えて帝都全体にまで、その重苦しい《魔力》の圧迫をかけたことがあるのだ。
 ある種の《魔力》暴走であるが、アルファードの精神状態が低迷すると起こる現象だった。

 そして、それは雑務が忙しくて、アルファードだけ(団長が居ればいいだろうとサボって)をパーティーにポイッした時に起こることが多かった。
 その因果関係に気付いても、既にどうしようもないほど手遅れになってしまっていたので、オスカーは出来るだけアルファードの精神状態が落ち込まないようにしていたのだが………。

 エリカの魔法学校に行きたいの発言に、連想ゲームのように迷宮の奥深くまで落ち込んだアルファードの精神は、中々帰って来なかった。

 それを見て、オスカーは重い溜め息を吐くのだった。
 勿論、同罪のマクルーファも、困ったなぁーという表情で、エリカを抱き込んだまま、死人のようになっているアルファードを見ていた。






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