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第一部 宰相家の居候
208 役者が違いました
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
「姉上。何も実物の収穫まで待たずとも、まずは絵の上手い者にでも書かせて説明すれば宜しいでしょう。もしくは王立植物園であれば、いくら我が公爵領の一画にしかない果物と言えど、誰かが知っている筈ですよ。あそこは国中の植物や果物の情報が集まる所なんですから。それであれば数日の内に茶葉だけ渡せば済む話でしょうに」
若干食いつき気味だったエヴェリーナ妃に、咳払いをしつつラハデ公爵が苦言を呈した。
「あ…あら、私とした事がつい。弟の言う通りで宜しいかしら、レイナ嬢?」
「え…あ、はい。私は研修中の身ですから、明日にでも周囲の研究員の先輩方に確認してみます」
「そうして頂戴。それでね、自分で脱線しておいて何なのだけれど、貴女が弟に渡した、シーカサーリの街ぐるみの事業を始めるにあたっての〝見本紙〟の話を今日はしたかったのよ」
話をしているうちから、エヴェリーナ妃を取り巻く空気が徐々に変わってきた。
私も、勢いに吞まれない様に、ピッと背筋を伸ばす。
「ふふ…そんなに緊張なさらなくとも大丈夫よ。あの紙面、私の親しいご婦人方には、先んじてお見せしたのよ。特に読書がご趣味の皆様方にね。皆様それはもう「続きが気になる」と仰られて。完成版の書籍が出た暁には、本好きが集まるサロンで読書会をしましょうとの話にまでなったのよ?」
「そ…れは…有難うございます。光栄です。完成版の印刷に背中を押していただいた様なものです」
「ええ、本当に。世辞ではなくてよ?それが証拠に昨日、とある夜会に陛下と揃ってお出になられたどこかのご寵姫様とご令嬢に、一部ご婦人方からとっても冷ややかな視線が向けられたそうよ?まあ、元々ご本人達はあまり横の繋がりをお持ちではないようだから、その理由に気が付くのなんて、一番最後になるのでしょうけどね?」
「―――」
…エヴェリーナ妃、扇を口元にあてて「ふふふ」と微笑う様はお見事です。
先生とお呼びしても良いですか。
それにしても、思った以上に社交界の情報網と言うのは侮れない。
正妃であるエヴェリーナではなく、第二夫人であるコニーでもなく、公的立場を持たない愛妾とその娘を連れて行くあたりは、夜会としては比較的内輪のものだったのかも知れない。
それでも既に、何人かが「今巷で話題の小説」として内容を把握しているあたり、エヴェリーナ妃の影響力たるや…である。
「今日はエドベリ殿下が、アンジェス国の聖女様を連れて、シーカサーリの王立植物園の見学に行かれているそうよ?まあ、よりにもよってシーカサーリ!皆、普段の会話で王族の名前なんて出る事もないでしょうに、そのままだったらただの御伽話だったところが、わざわざ視察訪問と言う漣を立てたんですものね。ちょっと勘の良い者であれば、一般市民であっても気が付きますわよ?読んだ紙面がほぼ実話じゃないのか、と言う事に」
いやいやいや、そんな意味ありげにこちらを見られましても!
王子と舞菜の植物園の視察なんて、宣伝紙面配り終えるまで知りもしませんでしたってば。
「いえ…さすがに私も、エドベリ殿下が植物園を訪問されるところまで予想は……」
「あらあら……まあ今は、そう言う事にしておいても良いけれど」
いえ、そこは本当です。
あ、ニッコリ微笑ったら逆効果なのか、こう言う場合。
「多分ね、このままいくと殿下の評判って、かなり悪くなってしまうと思うのよ。近頃妙に後宮での強気な発言が目立つどこかのご寵姫さんと、とりあえず己の足場を固めたくて必死なそのお嬢さんが後ろ指を指される分には別に気にしないのだけれど」
わぁ……ちょっと背後のオーラが黒いですよ、エヴェリーナ妃。
「まあ貴女からすると、殿下の評判でさえどうでも良いのでしょうけれど。それでもさすがに、直系の王位継承者を二人とも表舞台から退かせるのもどうかと思うのよ。パトリックに関しては、教育を王とその周辺に任せてしまった結果がね……それはもう、今更だと諦めてはいるのだけれど」
そう言いながら溜息を溢すエヴェリーナ妃は、どうやらエドベリ王子に対しての蟠りは、さほど持ってはいないらしい。
恐らくはシャルリーヌ欲しさで息子を陥れたようなものなのに、えらく寛大だなと思っていると、私の驚きを見透かしたかの様に、エヴェリーナ妃は苦笑した。
「なまじ第一王位継承者だったのがいけなかったわね。パトリックの周りは、甘い汁狙いの側近達が常に侍るようになって、私やサイアスの声が、途中からは届かなくなってしまった。だからこそ私達はシャルリーヌに一縷の望みを託していたのだけれど、そもそも彼女は王妃として申し分のない資質があった。エドベリ殿下が、パトリックには不釣り合いだと、自分にこそシャルリーヌをと望んでも、不思議ではないと思うのよ」
まさか王家そのものに不信感を抱いて国を出て行くとは思わなかったけど…と、何とも言えない表情を浮かべている。
「ラハデ公爵家はね、それこそ物心がついたころから、何より優先すべきは国だと、それはもうくどいほどに教え込まれるのよ。だから私もサイアスも、傍から見るとどうにも妻として夫として、母親として父親として、情に欠けていると映るみたいね」
優先すべきは国。
なかなか、平和な日本在住だった一女子大生には共感がしづらい。
理解出来ないワケではないのだけれど。
「まあでも、第一王位継承者だからと手元で育てさせて貰えなかったからと言って、一国の王妃としては、自分に責任はないとも言えないでしょう?だからせめて、息子に代わって王位に就くエドベリ殿下の周囲は、出来るだけ整えてあげたいと思っているのよ、これでも」
母としてではなく王妃として。
表舞台から退いた息子を除く、二人の王の実子を見た時に、彼女はエドベリ殿下を「使える」と判断して、イルヴァスティ子爵令嬢を「使えない」と判断した。
それがこの、今の、態度の違いだ。
「……紙面の発行は、あまり好ましいものではありませんでしたか?」
明らかにあの書面は、王家の評判を落とす事を狙っているからだ。
私の目は探るような目になっていたと思うけど、エヴェリーナ妃は口元を綻ばせたままだった。
「そうでもなくてよ?何事にも『ほどほど』と言う言葉があるくらいなのだから。ただ、今のエドベリ殿下は意地だけで動いている様なところがあるのでは?と、実の母親として、コニー様も危惧していらっしゃるから、貴女とこの話の『落としどころ』を相談したいと思って、今日はお招きしたのよ」
「意地……」
言い得て妙だ、と私は思った。
どう考えても彼は今、シャルリーヌに固執するあまりに、エドヴァルドをアンジェスから引き離す事に躍起になり過ぎている。
エドヴァルドに、イルヴァスティ子爵令嬢と言う名のハニトラを仕掛けようとしたり、すぐに見つかりそうなところにアロルド・オーグレーンが持っていたと思われる書類を隠してみたりと、無理のある計画をゴリ押ししている。
私なんかは、評判が地の底に落ちれば考え直すだろうと思ってはいたけど、さすがにそこまではエヴェリーナ妃もコニー夫人も放置しておけないと言う事らしい。
「それでね、レイナ嬢」
エヴェリーナ妃とコニー夫人は、互いの考えをもう一度確認する様に頷きあっていた。
そうしてエヴェリーナ妃の口元から、笑みが消える。
「貴女が編集したあの小説、第二章を作って貰っても良いかしら?原稿料も印刷費用も、もちろんキチンとお支払いしてよ?」
「………え?」
「そうね内容は『駆け落ちをして国を飛び出した少女には妹がいて、姉の事は探さないでやって下さい!と王子に直談判に行ったところで、その姉思いの一途さに絆された王子が、二人を許す代わりにその妹に、どうか自分の側にいて欲しいと懇願する』――あたりでどうかしら?」
「………はい?」
「あら、ちょっと綺麗に話をまとめすぎたかしら。要はエドベリ殿下とあのアンジェスの聖女様を婚姻させて、そのお祝いムードで今回の強引すぎる醜聞をかき消してしまおうと言う話なんだけれど」
私は正直に「コノヒト何を言っているんだ」と思ってしまった。
「いやいやいや!あっ…とすみません!いや、絶対に無理ですって!王宮で彼女に会ってますよね?とてもじゃないですけど、王妃教育なんてこなせませんよ?アンジェスでだって、ただの貴族教育ですら拒否していたんですから!」
条件反射の様に叫んでから、しまったと私は自分の口もとに手をあてたけれど、手遅れだ。
エヴェリーナ妃、ラハデ公爵それぞれが、聞き逃さなかったと言った表情を見せた。
「ふふ…やはり『よく似た他人』じゃなかったのね、貴女」
「ユングベリ嬢……?」
あああ!と私は思わず頭を抱える。
「心配しなくて大丈夫よ、レイナ嬢。婚姻=王妃であるとは限らないでしょう?聖女なんだからと〝白い結婚〟で通させても良いし、何なら〝転移扉〟の維持の為と称して、魔力を大量消費させて、寝台から起き上がれなくしてしまったって構わないのだから。極端な話『結婚した』と言う記事さえあれば良いのよ。何事も慶事が優先されるのだから、それで不名誉な記事の方はある程度相殺されるわ。エドベリ殿下がシャルリーヌにそれでも固執するようなら、それこそ一服盛って二人の間に既成事実を仕立てあげてもよくってよ?その方が貴女も意趣返しになるかしら?」
ね、レイナ嬢?とエヴェリーナ妃が口元に扇をあてたまま、私の方へと更に顔を寄せてきた。
「要はエドベリ殿下と王家の評判を地の底以下にしないために――そちらの聖女様を、生贄として差し出して下さらないかしら?その代わりに、イデオン宰相様と貴女とシャルリーヌには、ギーレン王家のくびきからの解放を。悪い話じゃないと思うのだけれど?」
…凄絶とも獰猛ともとれる笑みに、大国の正妃の恐ろしさを見た気がした。
「姉上。何も実物の収穫まで待たずとも、まずは絵の上手い者にでも書かせて説明すれば宜しいでしょう。もしくは王立植物園であれば、いくら我が公爵領の一画にしかない果物と言えど、誰かが知っている筈ですよ。あそこは国中の植物や果物の情報が集まる所なんですから。それであれば数日の内に茶葉だけ渡せば済む話でしょうに」
若干食いつき気味だったエヴェリーナ妃に、咳払いをしつつラハデ公爵が苦言を呈した。
「あ…あら、私とした事がつい。弟の言う通りで宜しいかしら、レイナ嬢?」
「え…あ、はい。私は研修中の身ですから、明日にでも周囲の研究員の先輩方に確認してみます」
「そうして頂戴。それでね、自分で脱線しておいて何なのだけれど、貴女が弟に渡した、シーカサーリの街ぐるみの事業を始めるにあたっての〝見本紙〟の話を今日はしたかったのよ」
話をしているうちから、エヴェリーナ妃を取り巻く空気が徐々に変わってきた。
私も、勢いに吞まれない様に、ピッと背筋を伸ばす。
「ふふ…そんなに緊張なさらなくとも大丈夫よ。あの紙面、私の親しいご婦人方には、先んじてお見せしたのよ。特に読書がご趣味の皆様方にね。皆様それはもう「続きが気になる」と仰られて。完成版の書籍が出た暁には、本好きが集まるサロンで読書会をしましょうとの話にまでなったのよ?」
「そ…れは…有難うございます。光栄です。完成版の印刷に背中を押していただいた様なものです」
「ええ、本当に。世辞ではなくてよ?それが証拠に昨日、とある夜会に陛下と揃ってお出になられたどこかのご寵姫様とご令嬢に、一部ご婦人方からとっても冷ややかな視線が向けられたそうよ?まあ、元々ご本人達はあまり横の繋がりをお持ちではないようだから、その理由に気が付くのなんて、一番最後になるのでしょうけどね?」
「―――」
…エヴェリーナ妃、扇を口元にあてて「ふふふ」と微笑う様はお見事です。
先生とお呼びしても良いですか。
それにしても、思った以上に社交界の情報網と言うのは侮れない。
正妃であるエヴェリーナではなく、第二夫人であるコニーでもなく、公的立場を持たない愛妾とその娘を連れて行くあたりは、夜会としては比較的内輪のものだったのかも知れない。
それでも既に、何人かが「今巷で話題の小説」として内容を把握しているあたり、エヴェリーナ妃の影響力たるや…である。
「今日はエドベリ殿下が、アンジェス国の聖女様を連れて、シーカサーリの王立植物園の見学に行かれているそうよ?まあ、よりにもよってシーカサーリ!皆、普段の会話で王族の名前なんて出る事もないでしょうに、そのままだったらただの御伽話だったところが、わざわざ視察訪問と言う漣を立てたんですものね。ちょっと勘の良い者であれば、一般市民であっても気が付きますわよ?読んだ紙面がほぼ実話じゃないのか、と言う事に」
いやいやいや、そんな意味ありげにこちらを見られましても!
王子と舞菜の植物園の視察なんて、宣伝紙面配り終えるまで知りもしませんでしたってば。
「いえ…さすがに私も、エドベリ殿下が植物園を訪問されるところまで予想は……」
「あらあら……まあ今は、そう言う事にしておいても良いけれど」
いえ、そこは本当です。
あ、ニッコリ微笑ったら逆効果なのか、こう言う場合。
「多分ね、このままいくと殿下の評判って、かなり悪くなってしまうと思うのよ。近頃妙に後宮での強気な発言が目立つどこかのご寵姫さんと、とりあえず己の足場を固めたくて必死なそのお嬢さんが後ろ指を指される分には別に気にしないのだけれど」
わぁ……ちょっと背後のオーラが黒いですよ、エヴェリーナ妃。
「まあ貴女からすると、殿下の評判でさえどうでも良いのでしょうけれど。それでもさすがに、直系の王位継承者を二人とも表舞台から退かせるのもどうかと思うのよ。パトリックに関しては、教育を王とその周辺に任せてしまった結果がね……それはもう、今更だと諦めてはいるのだけれど」
そう言いながら溜息を溢すエヴェリーナ妃は、どうやらエドベリ王子に対しての蟠りは、さほど持ってはいないらしい。
恐らくはシャルリーヌ欲しさで息子を陥れたようなものなのに、えらく寛大だなと思っていると、私の驚きを見透かしたかの様に、エヴェリーナ妃は苦笑した。
「なまじ第一王位継承者だったのがいけなかったわね。パトリックの周りは、甘い汁狙いの側近達が常に侍るようになって、私やサイアスの声が、途中からは届かなくなってしまった。だからこそ私達はシャルリーヌに一縷の望みを託していたのだけれど、そもそも彼女は王妃として申し分のない資質があった。エドベリ殿下が、パトリックには不釣り合いだと、自分にこそシャルリーヌをと望んでも、不思議ではないと思うのよ」
まさか王家そのものに不信感を抱いて国を出て行くとは思わなかったけど…と、何とも言えない表情を浮かべている。
「ラハデ公爵家はね、それこそ物心がついたころから、何より優先すべきは国だと、それはもうくどいほどに教え込まれるのよ。だから私もサイアスも、傍から見るとどうにも妻として夫として、母親として父親として、情に欠けていると映るみたいね」
優先すべきは国。
なかなか、平和な日本在住だった一女子大生には共感がしづらい。
理解出来ないワケではないのだけれど。
「まあでも、第一王位継承者だからと手元で育てさせて貰えなかったからと言って、一国の王妃としては、自分に責任はないとも言えないでしょう?だからせめて、息子に代わって王位に就くエドベリ殿下の周囲は、出来るだけ整えてあげたいと思っているのよ、これでも」
母としてではなく王妃として。
表舞台から退いた息子を除く、二人の王の実子を見た時に、彼女はエドベリ殿下を「使える」と判断して、イルヴァスティ子爵令嬢を「使えない」と判断した。
それがこの、今の、態度の違いだ。
「……紙面の発行は、あまり好ましいものではありませんでしたか?」
明らかにあの書面は、王家の評判を落とす事を狙っているからだ。
私の目は探るような目になっていたと思うけど、エヴェリーナ妃は口元を綻ばせたままだった。
「そうでもなくてよ?何事にも『ほどほど』と言う言葉があるくらいなのだから。ただ、今のエドベリ殿下は意地だけで動いている様なところがあるのでは?と、実の母親として、コニー様も危惧していらっしゃるから、貴女とこの話の『落としどころ』を相談したいと思って、今日はお招きしたのよ」
「意地……」
言い得て妙だ、と私は思った。
どう考えても彼は今、シャルリーヌに固執するあまりに、エドヴァルドをアンジェスから引き離す事に躍起になり過ぎている。
エドヴァルドに、イルヴァスティ子爵令嬢と言う名のハニトラを仕掛けようとしたり、すぐに見つかりそうなところにアロルド・オーグレーンが持っていたと思われる書類を隠してみたりと、無理のある計画をゴリ押ししている。
私なんかは、評判が地の底に落ちれば考え直すだろうと思ってはいたけど、さすがにそこまではエヴェリーナ妃もコニー夫人も放置しておけないと言う事らしい。
「それでね、レイナ嬢」
エヴェリーナ妃とコニー夫人は、互いの考えをもう一度確認する様に頷きあっていた。
そうしてエヴェリーナ妃の口元から、笑みが消える。
「貴女が編集したあの小説、第二章を作って貰っても良いかしら?原稿料も印刷費用も、もちろんキチンとお支払いしてよ?」
「………え?」
「そうね内容は『駆け落ちをして国を飛び出した少女には妹がいて、姉の事は探さないでやって下さい!と王子に直談判に行ったところで、その姉思いの一途さに絆された王子が、二人を許す代わりにその妹に、どうか自分の側にいて欲しいと懇願する』――あたりでどうかしら?」
「………はい?」
「あら、ちょっと綺麗に話をまとめすぎたかしら。要はエドベリ殿下とあのアンジェスの聖女様を婚姻させて、そのお祝いムードで今回の強引すぎる醜聞をかき消してしまおうと言う話なんだけれど」
私は正直に「コノヒト何を言っているんだ」と思ってしまった。
「いやいやいや!あっ…とすみません!いや、絶対に無理ですって!王宮で彼女に会ってますよね?とてもじゃないですけど、王妃教育なんてこなせませんよ?アンジェスでだって、ただの貴族教育ですら拒否していたんですから!」
条件反射の様に叫んでから、しまったと私は自分の口もとに手をあてたけれど、手遅れだ。
エヴェリーナ妃、ラハデ公爵それぞれが、聞き逃さなかったと言った表情を見せた。
「ふふ…やはり『よく似た他人』じゃなかったのね、貴女」
「ユングベリ嬢……?」
あああ!と私は思わず頭を抱える。
「心配しなくて大丈夫よ、レイナ嬢。婚姻=王妃であるとは限らないでしょう?聖女なんだからと〝白い結婚〟で通させても良いし、何なら〝転移扉〟の維持の為と称して、魔力を大量消費させて、寝台から起き上がれなくしてしまったって構わないのだから。極端な話『結婚した』と言う記事さえあれば良いのよ。何事も慶事が優先されるのだから、それで不名誉な記事の方はある程度相殺されるわ。エドベリ殿下がシャルリーヌにそれでも固執するようなら、それこそ一服盛って二人の間に既成事実を仕立てあげてもよくってよ?その方が貴女も意趣返しになるかしら?」
ね、レイナ嬢?とエヴェリーナ妃が口元に扇をあてたまま、私の方へと更に顔を寄せてきた。
「要はエドベリ殿下と王家の評判を地の底以下にしないために――そちらの聖女様を、生贄として差し出して下さらないかしら?その代わりに、イデオン宰相様と貴女とシャルリーヌには、ギーレン王家のくびきからの解放を。悪い話じゃないと思うのだけれど?」
…凄絶とも獰猛ともとれる笑みに、大国の正妃の恐ろしさを見た気がした。
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