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15 一抹の不安

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 エマとカミールの婚約が決まった翌朝、学園に向かう馬車の中に「登城のついでだから」と言ってカミールも同乗していた。義兄が夫になるのがエマにはまだ不思議な感じがする。
それと同時に可哀そうだと思っていた義兄が侯爵となり、自分は妻となって愛情を注いであげられる────そんな幸福感も芽生えていた。

学園に到着して馬車の扉が開かれるとカミールが「やはりな」と冷たい声を出した。

「エマ!」
ユリウスが待ち構えていたが、降りてきたのがカミールなので(しまった!)といった顔をしている。

「聞いて下さい。僕は間違っていました」
ユリウスは誓約違反を見逃されたのをエマの愛情と勘違いしていた。まだやり直せると愚かにも信じている。

「そうだ君は間違った。だからエマは私の妻になる。次は無いとエマに言われたはずだ」

「へ? 妻だってぇ?」
驚いてユリウスの声が裏返った。
カミールに支えられて美しくなったエマが馬車から降りてくる。ユリウスがいつも乗っていた侯爵家の豪華な馬車だ。今更ながら失ったものの価値にユリウスは自分の行いを激しく呪った。

「私はカミールと婚約して卒業したら結婚するの。もう二度と近づかないで」

「ボーエン家には厳重に抗議させてもらう。次は本当に無いよ、家ごと潰すからな!」

「──ひっ!───」
カミールの本気に慄いてユリウスは走って逃げて行く。

「これで最後の仕上げは終わった。でもまだ油断しないようにね」
エマにキスをして護衛に任せるとカミールは城へと向かった。



「エマ様、カミール様と婚約されたのですか?」
エマを待っていたのはユリウスだけでは無かった。

「シンシア様、そうなんです」
「良かった。おめでとうございます。実は・・・」
まだ内緒だと前置きされて「お姉様があの方と婚約します」とエマに耳うちした。

シンシアが嬉しそうに告げたので、マリーナ王女がナダリア殿下を王配に迎えるのだと思われた。
「まぁ おめでとうございます」
ふたりの少女はお互い手を取り合って微笑んだ。


この数日で、気持ちが悪いくらいトントン拍子に事が運ばれていく。
エマは一抹の不安を感じたが結果に不満はない。そっと不安を飲み込んだ。



オリーヴとクラーク ヤンデール伯爵の婚姻が決まるとクラークは書類が整い次第やって来て、暴れるオリーヴを連れて帰った。挙式は行わないと言う。
オリーヴは今まで通り自由に振舞えると考えていたがクラークは許さず、以後オリーヴはクラークの屋敷に閉じ込められてクラークが同伴しない限り外には出られない不自由な結婚生活を強いられた。



祖父とルイーザたちが戻る日が来て使用人が荷物を馬車に運び込んでいると、ルイーザは可愛い妹を抱きしめ別れを惜しんだ。
「エマもカミールと幸せになってね!」


ターナ辺境伯は結婚する数年前に流行り病になり子どもが出来ない体になっていた。ターナ伯爵は弟のエリックに領主の地位を譲ってルイーザとの婚姻を勧めたが、兄を想う弟は断った。譲り合い揉めた兄弟はルイーザが選んだ方を領主にしようと一任し、その結果エリーザは兄弟両方を選んだのだった。

「私には素敵な夫が二人いるのよ」
「じゃぁ あの子たちはエリック様の」
「内緒よ。約束ね」

衝撃を受けたが、姉達が幸せなら些細な事だと思った。
エマには理解し難いがいろんな夫婦の形があるのだろう。

小さくなっていく馬車を見つめてエマはカミールが恋しくなった。
寂しそうにしょんぼりする父に「直ぐに私も孫の顔を見せますよ」と父の背に手を置くと「ああ楽しみだ」と父もエマの肩を抱いた。




マリーナ王女殿下のサロンに呼ばれてカミールは侯爵となりエマと正式に婚約することを報告した。

「それはおめでとう。カミール、私はこれで君に借りを返したからね」
「さあ、何のことだか存じませんが、王女殿下とナダリア殿下のご婚約を心よりお祝い申し上げます」

「サミュエルにいろいろ知恵をつけてくれて有難う。君には将来は宰相になって欲しい。これからも私の力になってくれたまえ」

「微力ではありますが殿下にお仕え致します。しかし宰相の件は考えさせて頂きます」

「まだ先の話だよ、お互い若すぎる」
マリーナはカミールにお茶を飲むよう手を伸ばしてカップを指した。

「いえ、お話が無ければもうこれで失礼致します」

「つれないな~ ゆっくりお茶を飲んでいきたまえ」

「殿下も早く戻って仕事して下さい」

さっさと仕事を片づけてエマの待つ家に帰りたい。エマを手に入れるのにどれほど苦労したか、今日はエマが気にしていたエリックもルイーザ達と帰ったはずだ。カミールは執務室に急いだ。


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