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第7章 アダマーリカ

決戦(中編)

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 前方には、血塗ちまみれになった全裸のストマイドが怒気を放ちながら突っ立っている。
彼の足元には血溜ちだまりができているぞ。
右腕とチンコを吹っ飛ばされて、苦痛に顔を歪めている。
 すでに夜ではあるが、月明かりのおかげで周囲の状態を把握することは充分可能だ。
これからバトル開始である。

「……教員まで上り詰めた俺の力をナメるなよ。タイムストップが効かなくとも、お前らぐらい圧倒できる……!」

 あ、あれっ!? ちょっと待って……!
ストマイドの様子がおかしいぞっ!?
マリエーヌに切断された右腕とチンコが元に戻っている!!
全身も綺麗になっているぞ!
えぇっ!? どういうこと!?

「な、なんだ……!? いつの間に!?」

 ミルフィーヌも気がついたようだ。
ホントに、どういうこと……!?

「……はあああぁっ!!」

 マ、マリエーヌッ……!?
彼女は叫んだ後で、瞬時に姿を消した!
マリエーヌが立っていた位置には、彼女が着ていたコートが空中をヒラヒラと舞っているだけだ……!

「待つんだマリエーヌ……! ストマイドの身体には何か秘密がある!!」

 ミルフィーヌがそう叫んだが、マリエーヌの返事は聞こえない。
……う、うおおぉっ!?
ストマイドの後方にある民家が爆発したぞ……!!
いや、爆発はしていないか……。
激しく損壊したのだ。
ストマイドが立っていた位置には、コートを脱いだマリエーヌが立っている。
彼女はパンチを放った直後と思われる体勢になっているぞ。
これは……マリエーヌの鉄拳! いつものパターンだっ!!
ストマイドが殴られて後ろの建物の方まで吹っ飛んだってことだな!
って、あそこは、マリエーヌの家だった建物じゃないか……!? いいのかなぁ……?
 あ……またマリエーヌが姿を消したぞ。

「おおりゃあああぁっ……!!」

 マリエーヌの大声が響き渡る……!
そして家が崩壊していく……。
もともとボロボロだったんだろうけど、もう半壊状態だな。
吹っ飛んだストマイドが、さらにボコボコにされているのだろう。
なんていうか……一方的な展開のようだ。
 ……ん? ミルフィーヌが歩き出したぞ?
ストマイドが立っていた位置まで前進し、しゃがみ込んだ。

「マリエーヌが圧倒的に押しているな。しかし……先ほどのストマイドに起こった現象はなんだ? 奴は回復魔法を使っていなかった。落下した右腕と性器はそのままだぞ……。奴には再生能力があるのか?」

 ミルフィーヌが地面に落ちている右腕と性器を拾ってジロジロと眺めている。
な、なんで平気な顔して触れるんだ……。
興味深い様子で観察しているぞ。

「分かりません……。いつの間にか治っていましたね」

 ニョキニョキって生えてきたわけではなく、いつの間にか治っていた。
再生って感じではなかったぞ。
どういうことなんだ……?

「何か秘密がありそうだな……。マリエーヌの方が優勢に見えるが、大丈夫だろうか……」

 そう言いながら、ミルフィーヌは立ち上がって前方の戦いを見ている。
今すぐマリエーヌに加勢しに行くというわけではなさそうだな。
あ、そうだ。
俺はミルフィーヌに聞いておきたいことがある。
いま話しかけて大丈夫かな……。

「すみません、ミルフィーヌさん。……マリエーヌ様の動きのスピードというかキレというか、なんか凄まじいですね。……め、めちゃめちゃ強くなっていませんか? 怒りのエネルギーでしょうか!?」

 ストマイドをボコボコにしているのだが、もうこれでもかってぐらい、すごい勢いでボコボコにしているのだ。
正直、俺にはマリエーヌの姿が全然見えないんだよね……。

「ああ、ケンジは知らなかったのか。マリエーヌが新たに習得した技術だ」

「えっ……!? いつの間に……」

「魔力を体内で身体能力に変換する技だ。ストマイドは教員の中でも、決して身体能力が高い方ではない。これで勝負が決まればいいのだが……。しかし、あくまでもサンビュルーリカの教員にまで上り詰めた男だ。右腕と性器が再生した件も含めて、油断はできない」

 へぇ……新しい技か。
『30歳になったマリエーヌは強過ぎる』と言っていたとおり、彼女はまだまだ成長期なんだな。
魔力を身体能力に変換させる……か。
確かにロールプレイングゲームでは、MPを消費して物理攻撃力を上昇させる武器が登場することがある。
きっとその手の武器と同じ感じなのだろう。
 そんな大技を使えるようになったのであれば大丈夫じゃないか?
俺には吹っ飛んでいる全裸のストマイドが見えるぐらいで、マリエーヌの姿はぜんぜん見えない。
ホントにすごいぞ。
ああ、もう奥にあった家が全壊している。
あの家、マリエーヌが住んでいた家だったってストマイドが話していたけど……マリエーヌは全然気にしていないんだな……。

「ふぅっ……」

 あ! マリエーヌがこちらに戻って来たぞ!
ストマイドの姿は見当たらない。
全壊した家の下敷きになっているのだろうか……?

「やったか? マリエーヌ……」

 ミルフィーヌがマリエーヌに駆け寄る。

「いや……おかしいのよ。あいつ……全く意識を失わない」

「そうか。……腕と性器が治っていたのが不可解だ。それと関係しているのかもな。……何か秘密があるはずだ」

「……そうね」

 二人が話し合っていると、奥にある瓦礫がれきの中からストマイドが現れた。
確かに……ストマイドは元気そうだな。

「あっ! こっちに来ますよ……!」

 俺は注意を促した。
当然2人は気づいていると思うけど、一応ね。
 ストマイドがゆっくりとこちらに歩いてくる。

「はははっ。マリエーヌよ……随分と成長したようだが、効かないなぁ」

「ノ、ノーダメージなの……!?」

 マリエーヌが驚いている。
ミルフィーヌの顔にも焦りが見えるぞ。
……な、なんでピンピンしているんだ!?
ダメージを受けている様子はない。
全裸でタコ殴りにされて吹っ飛ばされているにも関わらず、ケガがないどころか汚れもないぞ。

「何が起こっている……?」

 ミルフィーヌが目を細めながら考えている。
ストマイドが笑みを浮かべながら語り始める。

「……知りたいか? 教えてやろう。ダメージを受ける度に、時空魔法で俺の身体の時間だけを戻しているんだ。戻せる時間は少しだけだけどな。俺が新しく開発した時空魔法さ。傷ついた箇所は傷ついていなかったことになり、結果としてノーダメージというわけだ」

 ……じ、自分からタネを明かしたぞ!?
ドヤ顔で自分が開発した魔法について語っている! 自己顕示欲が強いな……!
そんな全裸の状態で格好つけて紹介されても……って感じなのだが。
タネを明かしても、戦闘は不利にならないということか?

「……この時代に取り残された俺は、もうトランスタイムを使っても効果が発揮されない。それでも、トランスタイムを何とか利用できないかと考えた。そして、自分自身の身体にだけトランスタイムをかける技術を編み出し、ついに完成した……。これは俺だけのオリジナルの魔法……【セルフトランスタイム】だ! 時を戻す対象を自分の身体だけにするのが大変だった。この課題をどうやって達成したのかと言うと……」

 ひたすら喋り続けているぞ……。
自分の功績を語りたいだけな感じもするが……。
彼が編み出した魔法は【セルフトランスタイム】……か。
トランスタイムが原型の魔法なんだな。
確かに、彼にとってトランスタイムはもう意味を成さない。
トランスタイムを1回使った状態で更にもう1度唱えても、それ以上過去には戻れない……と、ディストーマが言っていた。
ストマイドはトランスタイムを1回使って、そのまま殺人を犯してこの時代に取り残されているからな。
他の利用方法がないかと模索して、セルフトランスタイムを編み出したわけか。
 おっと……ミルフィーヌが考え込んでいるようだぞ。

「……おもしろい」

 ミルフィーヌ!?
もしかして……魔法に興味を持った?
ちょっとちょっと! 新しく開発された魔法に興味を示している場合ではないぞ!?
解決策を考えないと……!
このままだとダメージを与えられず、マリエーヌの体力と魔力がカラになるってことでしょ!?

「そう、そんな魔法を使っていたのね……。よく分かったわ」

 マリエーヌが納得している。
けっこう落ち着いているな……。

「ははっ! 絶望的か!? 俺は無敵だ! 絶望的だろう? お前に俺は倒せないっ!! お前は自分の生まれの里を壊滅させた俺を殺したかったのにな……!」

「……うっさいわね」

 そう吐き捨て、マリエーヌが再び消えた!
またしても後方の民家が激しく壊れる。
先ほど全壊したマリエーヌの家ではなく、さらにその後ろの家である。
そして、その周囲の建物も壊れ始めた……。
 やはり俺にはマリエーヌの姿を捉えることはできず、ストマイドの姿だけがかろうじて見える。
おっと……!? 今度はストマイドも応戦しているようだぞ!
マリエーヌの神速攻撃に応戦しているみたいだ……!!
ということは、ストマイドには彼女の攻撃が見えているということか……。
奴も純粋な戦闘力が高いんだな。
それにしても……俺から見ると異次元の戦いになってしまっているので、戦況がよく分からない。

「……ミルフィーヌさん、どんな感じですか? 今、ピンチなのでしょうか? ストマイドのセルフトランスタイムを破るのは難しそうです……」

 俺はミルフィーヌに近づき、質問した。

「……そうとも言い切れない。セルフトランスタイムとやらも魔法だ。魔法であるということは、魔力を消費するということだ。ストマイドは無敵というわけではない。実際、奴の魔力は減っているように感じる。マリエーヌの魔力が尽きるのが先になるのか、ストマイドの魔力が尽きるのが先になるのかがポイントになるぞ」

「あ……なるほど」

「マリエーヌが気づいているのか、いないのか……分からないけどな」

 マリエーヌは……気づいていなさそうだな。
時が戻る前にブッ潰す! ……って思っていそうだ。 

「二人の動きが止まったら、シラベールを頼む」

 あ、そうか。
それで魔力の残量とか、減り具合が分かるな。
 お……ちょうどマリエーヌが後退して、こちらに来たぞ。

「はぁっ……。はぁっ……」

 マリエーヌの息が上がっている!
体力か魔力か、もしくはその両方を消耗してしまっているのか……?
あ、ところどころ打撃を受けたようなアザがある……!
ダメージも受けてしまったな。
そんなマリエーヌのところにミルフィーヌが近づいて声をかける。

「大丈夫か? マリエーヌ……」

「ええ……まだ大丈夫よ。まだ私の魔力は残っている」

 ということは……とくに体力の方が削られているのかな?
あ、ストマイドも近づいて来たぞ。

「マリエーヌ……もう魔力切れか? それとも体力切れか? 俺はまだまだイケるぜ。最初にお前の動きをじっくり見せてもらったからな。お前のスピードにも慣れてきた」

 げっ……!
全裸のストマイドが、まだやる気まんまんだ。
敵の方は……まったく息が切れていないな。
ダメージを受ける度に魔法で自分の身体の時を戻しているということは、体力も元に戻っているとことか……。
や、やばいな。
最初は一方的に殴られていたように見えていたけど、ずっとマリエーヌの動きを観察していたのか。
まぁ、殴られてもすぐに元の身体に戻せるからな。
合理的な戦い方だ。
もうマリエーヌのスピードに慣れてきたって言っているし、ストマイドの方が有利な雰囲気になってしまった。
 ……さて、俺はシラベールを唱えておかないとな。
彼の魔力の残量はどのぐらいなのだろうか?
マリエーヌとストマイド……どちらのMPが多く残っているのだろうか?
単にMPの残量だけではなく、魔法を使うための、いわゆる『消費MP』も鍵になるよな……。

(シラベール、シラベール……)

 俺は小声でマリエーヌとストマイドに魔法を放った。

---
マリエーヌ
種族: 魔女
レベル 855
HP 2733/3469
MP 2925/7292

ストマイド
種族: 魔女(♂)
レベル 3515
HP 9067/9067
MP 15872/17223
---

 おっと……!?
や、やばい……! MPの減り幅は、マリエーヌの方が大きい!
MPの残量もストマイドの方が大きいし!
……このままでは、マリエーヌのMPの方が先に尽きてしまうぞ!
やはりマリエーヌはHPも削られているな……。
ストマイドの反撃が地味に強いようだ。
 その一方で、ストマイドのHPは満タンだ。
本当に、傷つく度にセルフトランスタイムで身体の時を戻しているんだな……。
これは……圧倒的にストマイドが有利だ!
それにしても、データ的には実力差が結構ありそうなのに、バトルを外から見ているだけだと互角、もしくは神速のマリエーヌが押しているように見えるんだよな。
マリエーヌはMPを犠牲にして新技を使い、ストマイドと充分に戦える身体能力を得ているわけか……。

(ミルフィーヌさん……)

 俺は小声で分析結果を端的に伝えた。
伝え終わるのと同時に、ミルフィーヌが小さく頷いた。
そして真剣な表情で考え始めた。

「マリエーヌが不利だな……。あの時空魔法をどうにかしなくては……しかし……」

 セルフトランスタイムの対処に悩んでいるんだな。
……ん? さらに早口で何かブツブツと言い始めたぞ。
さっきまでの口調とは様子が異なる。
なんだ? いわゆる詠唱だろうか? 詠唱っぽいぞ。 
詠唱は、いつだか魔法使いの村でデーモンが黒い炎を放ったときにしていたな。
魔法を使うときに長々と詠唱するところはなかなか見ない。
何をする気だろうか……?
 あ、ストマイドが喋り始めるぞ。

「どうした、マリエーヌ? 疲れて身体が動かないのか? ミルフィーヌ……加勢するつもりか? ムダだと思うけどなぁ……。俺の魔力はまだまだ残っている」

 ストマイド……ミルフィーヌの動きにも注目しているようだな。
2対1になるというのに余裕そうだ。
不敵の笑みを浮かべている。 
ミルフィーヌが呟いていた通り、奴の反則的な時空魔法をどうにかしなくては……。

「マリエーヌ……少し休んでいろ!」

 あ! ミルフィーヌが前進した……!
マリエーヌに話しかけながらも、未だに何やら詠唱らしきことをしているので、何かを狙っているのは間違いない。

「ファイアボール、サンダーボール! ウィンドボール……!」

 おっ……!?
ミルフィーヌが攻撃魔法を唱えたぞ!
炎、雷、風の玉が各々5個ずつぐらい、ストマイドに向けて放たれた!
随分と初歩的な魔法ではあるが、直径3メートルほどの大きさがある。
炎は激しく燃え、雷は唸りを上げ、風は激しく渦巻いており、触れたら大ダメージを受けそうだ。
ミルフィーヌの行動を見て、マリエーヌがいったん後退した。
彼女が素直に引くのは珍しい印象だ。
……本当にけっこう疲れているのかも。

「そんな低級な魔法……! 効かんぞっ!」

 放たれた魔法は、それぞれ不規則に変化しながら高速で敵に向かって行く……!
ストマイドが迫り来る魔法を避けながら、ときに腕や足を使って弾いて対処する。
す、すごいな……。

「ふんっ……! 甘いな……!」

 ストマイドがほくそ笑む。
しかし、後方にいる俺の位置からは、攻撃魔法の陰に隠れてミルフィーヌが接近しているのが見えていた。
攻撃魔法をかわしたのも束の間、体勢を低くしたミルフィーヌが掌底を腹部にヒットさせる!

「……ぐうっ!?」

 あ、ストマイドが苦しんでいる……!
ミルフィーヌの接近に気づいておらず、腹に力を入れるのが間に合わなかったんだな!
その直後、マリエーヌの大声が響き渡る。

「どおりゃあああっ……!!」

 いつの間にかマリエーヌが前進していた!
スピードが桁違いだなっ!!
もう動きがぜんぜん見えないが、マリエーヌは飛び膝蹴りを放ったようだ!
攻撃がヒットした後は、マリエーヌの動きが遅くなるので何をしたのかぐらいは分かる。
飛んだ高さ的に、膝蹴りは顔面にヒットしたんじゃないか!?

「ぐははああぁっ……!?」

 ストマイドが後方に吹っ飛んでいる!
マリエーヌが再び踏み込もうとして前傾姿勢になったが、その場に転んだ。

「……痛っ!」

 マリエーヌが痛がっている。
痛がりながらも、焦って起き上がろうとしているぞ。
すぐにミルフィーヌが話しかける。

「少しだけ休んでろ……! ハイペース過ぎて体に負担が掛かっているぞ!」

 確かに、マリエーヌは焦っている。
メンタルを攻撃されたため、精神を乱されてペースを考えられなくなっているのかもしれない。
まぁ、いつも彼女はこういう戦闘スタイルな感じもするが……。
 それにしても、ミルフィーヌ……まだブツブツ言っているな。
マリエーヌと会話をしつつ謎の詠唱もしているので、未だに何かを狙っているようだ。
さっきの攻撃魔法は関係ないよな。
あの手の魔法を放つのに、長々とした詠唱は必要ないはずだ。
何がしたいのだろうか……?
……あ、ストマイドがこちらに歩いてきたぞ。

「攻撃魔法と打撃か……。ふん……良いコンビネーションだが、まだまだ青い……」

 げっ!?
またノーダメージの状態か!
セルフトランスタイムを唱えたな……!

「ちっ……! 膝は完璧に入ったのに、気を失わないわねっ! 腐ってもサンビュルーリカの教員ってことね……」

 転んだマリエーヌが起き上がろうとしながら悔しがっている。
確かに、マリエーヌの渾身の飛び膝蹴りを受けて気を失わないほど強いんだよな。
気を失っていたら、セルフトランスタイムは使えないはずだ。
 ……ん?
ミルフィーヌが一歩前に出たぞ!?
なんだなんだ!?

「マリエーヌ……離れろ! 召喚!! 天界の使者よ! 攻撃してくれっ……!!」

 ミルフィーヌが叫んだ!
ミルフィーヌ……いきなり何を言っているんだ!?
ん? なになに!? 彼女の前に白いもやがかかったぞ!
靄の中から姿を現したのは、まるで女神のような姿をした美女だ!
金のロングヘアーに白い肌、露出度の高い白色の羽衣を身に付けている。
右手には木製の杖を持っているな。

「なっ!? ミルフィーヌ……お前、こんな高度な召喚魔法を!?」

 ストマイドが驚いている。
これは召喚魔法なんだな……!
ミルフィーヌは、ずっとブツブツ言っていたけど、召喚するための詠唱だったんだな!
 現れた美女は、手に持つ杖を振り上げた。

「ぐぅっ!?」

 ……なぁっ!? あらゆる方向から雷が落ち、ストマイドにヒットしたぞっ!!
す、凄まじい雷撃だっ!!

「ぐあああああぁっー!!?」

 うおおおっ!?
雷が十数回は直撃したぞ……!
や、やべぇ……『天界の使者』って言っていたか!? 何それ!?
それにしても、こんなすごい魔法を使えたのか……!
マリエーヌの混合魔法より凄そうだぞっ!!
 ……あ、ミルフィーヌがしゃがみ込んだ。
かなりの魔力を消費したんだろうな。
 おお……白い靄と雷撃によって生じた煙が消えていくぞ。
使者のお姉さんはすでに消えている。 
……ストマイドはどうなった?

「こ、これしき……」

 ストマイドを倒せていない……!!
体からは煙が上がっていてボロボロだが……彼は立ったままだ!

「マリエーヌ! 今だっ! 時空魔法を使われる前に叩け!」

「もちろんっ!」

 起き上がったマリエーヌがすぐに姿を消す。

「……遅いっ!」

 ス、ストマイドが回復してしまった……!
回復するのと同時に、奴は右ストレートを放ったぞ!?
ストマイドの目の前にマリエーヌの姿が現れ、そのまま地面に叩きつけられた……!!

「動きが鈍ってきているなぁ……マリエーヌ!」

 カウンターの一発を顔面にもらってしまったようだ!
マリエーヌが仰向けに倒れている……。
ストマイドはダメージがなくなっているぞ。
 ちょっと待て……セルフトランスタイムが発動するまでの時間は、ほぼノータイムじゃないか!
魔法を放つ前に魔力を溜めている素振りがなかったぞ!
今まで俺が見てきた魔法と違って、魔法名を口に出す必要すらないのか!?
魔女学校の教員レベルとなると、規格外なんだな……。 
 それにしても、マリエーヌが動かない。
ストマイドの真ん前で倒れているので心配だ。
もしかして……意識を失ってしまったのか……?
あのスピードでカウンターをもらってしまったから、衝撃が大きかったのだろう。
ミルフィーヌは未だにその場にしゃがみ込んでいるな。
厳しい表情をしているぞ……。
う、動けないのか!?
確かに、さっきの召喚魔法はめちゃめちゃ大技っぽかったからな。
力を使い果たしてしまったのかもしれない。
自動回復の特性があるので、時間が経つのを待つしかないか……。
 や、やばい……ピンチじゃないか!
動けるのは……俺だけになってしまった!
この勝負……俺にかかってる!?
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