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君を愛することは無い
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「当初の予定よりだいぶ遅くなったわね」
馬車に揺られながら彼女はつぶやいた。
シンシア・ヴィオーラ公爵。3年前に父親から爵位を継いだ女公爵で夫共にヴィオーラ公爵領を治めている。
貴族学園を首席で卒業した頭脳と優秀な公爵であった父親からその知識と手腕のすべてを伝授された彼女は、まだ20歳と若くはあるもののすでにその有能さをささやかれ始めていた。
そんな彼女が馬車に揺られて向かうのはヴィオーラ侯爵家。
その名の通りヴィオーラ公爵家から数代前に分かれた家であり次期当主候補のレイモンド・ヴィオーラとシンシアは親戚関係であった。
シンシアとレイモンドは幼い時に遊んだことがあるのだが、レイモンドの方は覚えていない。といってもシンシアの方も記憶は少しおぼろげになっているのだが。
「昔はあんなに小さかったのに…あと数年もすれば侯爵だなんて…ふふ」
かつてのレイモンドの姿を思い出しながら穏やかに笑うシンシアの瞳は久しぶりにある親戚への家族愛に満ちている。
公爵である彼女が今回ヴィオーラ侯爵家に向かう理由。
それはレイモンド・ヴィオーラが侯爵家を継ぐための最終指導とテストのためである。
これはヴィオーラ家独自の風習で、ヴィオーラ公爵家に連なる者が爵位を継ぐときに当主たる公爵が直接指導とテストを行うといったものでシンシアは今回が初仕事であった。
「到着いたしました」
「ええ」
従者の呼びかけに短く答えると、護衛の手を借りながら馬車を降りた。
彼女を一緒に来たメイドや従者たちは手筈通り滞在予定の別邸に向かっていく。
侯爵家内であるためそこまで警戒する必要はなく、シンシアは最も信頼する女護衛騎士を一人連れてレイモンドに会いに行くことにしたのだが、まさかこれが勘違いの元になるとはこの時の彼女は知りもしなかった。
「レイモンド様シンシア様がいらっしゃいました!」
「…ああ」
年配のメイドの呼びかけに不機嫌に答えるレイモンド。
子供の時以来に会う親戚に対する態度としてはどこか変である。
そんなレイモンドの様子に首を傾げつつ、シンシアのことも知っている年配のメイドは彼女を笑顔で室内で案内した。
部屋に入ったシンシアは幼い時の面影を残すレイモンドになつかしさを感じながら、口を開こうとしたのだが。
「おひさ…」
「勘違いしないでほしいが、僕は君を愛するつもりはない!」
「…は?」
身内の前で気が緩んでいたとはいえ淑女らしからぬ声を出してしまうシンシア。
だが、レイモンドは構わず続ける。
「シンシア・サンフラワー伯爵令嬢!これはただの政略結婚だ!お前のような老け顔令嬢と誰が好んで結婚などするものか!わかったらさっさと別邸に行け!!」
そういって無理やりシンシア達を室内から追い出したレイモンド。
やってやったぞと顔に書いてあるような彼だったが、彼以外のメイドや従者はみなあまりの事態に放心していた。
バタンと閉められたドアの前でシンシアはつぶやく。
「…まさかあの子婚約者のレンシア・サンフラワー伯爵令嬢とわたくしを間違えた…?」
いや、それ以前になんといったか
「君を愛するつもりはない…?老け顔令嬢…?次期侯爵が言っていい台詞ではないわぁ…これは教育が…必要な用ねぇ…」
額に青筋を立てながら悪魔のごとき表情をする主に対して護衛騎士の女性は無言を貫く以外に何もできなかった。
馬車に揺られながら彼女はつぶやいた。
シンシア・ヴィオーラ公爵。3年前に父親から爵位を継いだ女公爵で夫共にヴィオーラ公爵領を治めている。
貴族学園を首席で卒業した頭脳と優秀な公爵であった父親からその知識と手腕のすべてを伝授された彼女は、まだ20歳と若くはあるもののすでにその有能さをささやかれ始めていた。
そんな彼女が馬車に揺られて向かうのはヴィオーラ侯爵家。
その名の通りヴィオーラ公爵家から数代前に分かれた家であり次期当主候補のレイモンド・ヴィオーラとシンシアは親戚関係であった。
シンシアとレイモンドは幼い時に遊んだことがあるのだが、レイモンドの方は覚えていない。といってもシンシアの方も記憶は少しおぼろげになっているのだが。
「昔はあんなに小さかったのに…あと数年もすれば侯爵だなんて…ふふ」
かつてのレイモンドの姿を思い出しながら穏やかに笑うシンシアの瞳は久しぶりにある親戚への家族愛に満ちている。
公爵である彼女が今回ヴィオーラ侯爵家に向かう理由。
それはレイモンド・ヴィオーラが侯爵家を継ぐための最終指導とテストのためである。
これはヴィオーラ家独自の風習で、ヴィオーラ公爵家に連なる者が爵位を継ぐときに当主たる公爵が直接指導とテストを行うといったものでシンシアは今回が初仕事であった。
「到着いたしました」
「ええ」
従者の呼びかけに短く答えると、護衛の手を借りながら馬車を降りた。
彼女を一緒に来たメイドや従者たちは手筈通り滞在予定の別邸に向かっていく。
侯爵家内であるためそこまで警戒する必要はなく、シンシアは最も信頼する女護衛騎士を一人連れてレイモンドに会いに行くことにしたのだが、まさかこれが勘違いの元になるとはこの時の彼女は知りもしなかった。
「レイモンド様シンシア様がいらっしゃいました!」
「…ああ」
年配のメイドの呼びかけに不機嫌に答えるレイモンド。
子供の時以来に会う親戚に対する態度としてはどこか変である。
そんなレイモンドの様子に首を傾げつつ、シンシアのことも知っている年配のメイドは彼女を笑顔で室内で案内した。
部屋に入ったシンシアは幼い時の面影を残すレイモンドになつかしさを感じながら、口を開こうとしたのだが。
「おひさ…」
「勘違いしないでほしいが、僕は君を愛するつもりはない!」
「…は?」
身内の前で気が緩んでいたとはいえ淑女らしからぬ声を出してしまうシンシア。
だが、レイモンドは構わず続ける。
「シンシア・サンフラワー伯爵令嬢!これはただの政略結婚だ!お前のような老け顔令嬢と誰が好んで結婚などするものか!わかったらさっさと別邸に行け!!」
そういって無理やりシンシア達を室内から追い出したレイモンド。
やってやったぞと顔に書いてあるような彼だったが、彼以外のメイドや従者はみなあまりの事態に放心していた。
バタンと閉められたドアの前でシンシアはつぶやく。
「…まさかあの子婚約者のレンシア・サンフラワー伯爵令嬢とわたくしを間違えた…?」
いや、それ以前になんといったか
「君を愛するつもりはない…?老け顔令嬢…?次期侯爵が言っていい台詞ではないわぁ…これは教育が…必要な用ねぇ…」
額に青筋を立てながら悪魔のごとき表情をする主に対して護衛騎士の女性は無言を貫く以外に何もできなかった。
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