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ねたばらし

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シンシアと出来るだけ顔を合わせたくないレイモンドは視察の後に時間を潰してから帰宅した。


視察そのものは有意義な時間で、担当者の話も大変為になった。


今日得た知識と経験は次期当主としてとても役に立つものであっただろう。


そんな充実した一日であったからこそシンシアと顔を合わせなければならないディナーが憂鬱で仕方がない。


だが、そんなレイモンドの憂鬱な気分は一瞬で吹き飛ぶことになる。



「な…なんだこれは!?」



綺麗に掃除された食堂は相変わらず落ち着いて美しい内装で、テーブルにすでに並べられた食器類も品がある高級品。

レイモンドにとってはいつもと変わらない風景である。を除いて。



「シンシア!なぜ貴様がその席に座っている」


「当然わたくしが座るべき席だからよ。レイ」



すでにテーブルの座席に座っているシンシアが答える。

彼女が当然のように座る場所、それは当主が座るべき場所であった。

この国の貴族のテーブルマナーの一つにというものがある。

ヴィオーラ侯爵家の食堂においては通常の扉より遠く、隠し扉にほど近い一番奥の席がそうなっていた。

現侯爵不在の場合は次期侯爵であるレイモンドが座る席となっている場所でもある。




「その席がどういう意味を持っているのか知らないのか!?そこはこの家で最も重要な人物が座る場所なんだぞ!?」


「わかっているから座っているのよ。だってわたくしはヴィオーラ公爵、ヴィオーラ家を束ねる長ですもの」


「………へ?」


シンシアの言葉を理解できずに固まるレイモンド。



「幼少期に一度会ったことしかないとは言え、サンフラワー伯爵令嬢とわたくしを間違えるなんて愚かにもほどがあるわ」


「へ、え?幼少期に一度…もしかしてシアねえさま…え?公爵ってええええええ!!!」


「いいから落ち着きなさい…まったく…」








ーーーーーーーーーーーーーーー






「申し訳ありませんでした!シア姉さま!!」


頭を深く下げるレイモンド。

ちなみにこの国において腰よりも低く頭を下げる行為は全面的な非を認めるという意味である。

が、シンシアはそんなレイモンドを冷たい目で見ていた。



「それは何に対する謝罪かしら?それとこの場ではヴィオーラ公爵と呼びなさい」

「そ、それはシアね…ゴホン、公爵をあの女と勘違いしてしまったことに対してです」



レイモンドの答えにシンシアの目がスッと細くなる。

次の瞬間いつのまに持っていたのか、扇でレイモンドの頭をスパンと叩いた。

ちなみに鉄扇なのでめちゃくちゃ痛い。



「!?何をなさるのです!」

「頭が悪すぎてわからないと思ったからよ?」

「ひっ…!」



室内の気温が下がったような感覚がレイモンドを襲う。



「サンフラワー伯爵令嬢と結婚していたと勘違いしていた挙句に、僕は君を愛するつもりはない?その言葉がどのような意味を持つかわかっているの!?あとよくも老け顔って言ったわね!?」


「結婚していない…?え?」



ここにきてレイモンドはようやく自分がとんでもない勘違いをしていたことに気がつくのであった。

そんな彼の様子にシンシアは深くため息をついた。
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