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第35話  はた迷惑な行動は慎んで

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翌朝、ミネルヴァーナとマリーはいつも通りの時間に目が覚める。

クーリン達が来る前に竈の灰を取り、庭に撒いて一部は洗濯の桶に入れる。
竈に火をいれて湯を沸かし、減った分だけ水瓶に井戸から水も汲みあげる。

家屋に残る野菜は僅かしかないので、庭で育っている野菜を千切り簡単な朝食を済ませると公爵家から運ばれてくる野菜を待つ。

「出来れば今日は水洗いまで済ませておきたいわね」
「葉物野菜が多いかなぁ…来週の事を考えたら日持ちする根野菜がいいよね」
「そうね。葉物野菜は日持ちしないもんね」

パンを口の中に放り込んで庭で取れた葉を乾かし煎じた茶で流し込んでいると玄関のドアノックの音がした。

「来たみたい。今日はなにかな~」

マリーが「オッハヨウゴザマース」勢いをつけて玄関扉を開けるが、直ぐに閉じた。

「どうしたの?」
「ちょっとした不審者だった」
「ちょっとした不審者って…まさか」
「まさか、まさかのそのまさか」


ドンドンと今度は手で叩かれる扉に仕方なく開けてみればやはり立っているのは木箱を抱えたシルヴァモンドだった。

「届けに来たよ。何処に置けばいい?あと8箱あるんだが」
「そこでいいです。後の箱は玄関前に置いておいて貰えれば。水洗いなどしますので」
「なら井戸まで運んだ方がいいな」
「構いませんよ。そう言うのはこちらでしますから」
「そこからそこ。気にしないでくれ。あと…そろそろ消耗品も補充が必要だろう?今まで従者に任せきりだったが…君の好みもあるよな。一緒に…買い物に行かないか?実物を見た方がいいだろう?」
「結構です。間に合ってますし、与えられたものに好き嫌いを言うほど図々しくもなれません」


何を思ったか、井戸まで木箱を運んだシルヴァモンドは帰ろうとせず、勝手に木箱から野菜を取り出すと井戸の水を汲みあげてゴシゴシと洗い始めた。

遅れてやってきたマーナイタが「自分がします」と声を掛けても「やらせてくれ」と動きを止めず、変わってもくれない。


「どうしちゃったの??」
「熱でもあるんじゃない?」
「熱があったほうが正常に見えるってどうなんだろう」

洗ってくれるのは有難いのだが、ただ洗えば良いものでもない。善意からしてくれている行動は有難迷惑でもあり「そうじゃないのに」と思っても言い出す事も出来ない。

ミネルヴァーナが買い物には行かないとなると、今度はチョアンを手伝って屋根の雨漏りを補修したり、手の空いたクーリンとマリーが庭に育った野菜の摘心を始めると見様見真似で「ここを千切ればいいのか?」と問い、勝手に千切られても困るので「こっちです。千切り方はこうやって」と方法を教えねばならない。

幾つかの畝で摘心を終えると次にマーナイタと共に翌週売るレシピを考えているミネルヴァーナの元に行き、「なら来週はトマトを多めの方がいいな。品種は何がいい?」とリクエストを要求する。

「トマトにも品種があるなんて知らなかったよ。あ、今日入れているトマトは領地で取れた新しい品種なんだ。酸っぱめなんだが何かに使えるかな?」


照れ気味に話かけてくるのだが、周りは戸惑うばかり。
昼も椅子がないので木箱を持って来て椅子代わりにして5人とテーブルを囲む。

「あの…5人分しか昼食作ってないんですが」

マーナイタは困ってミネルヴァーナに耳打ちした。食事だけではない。
そもそもここにはシルヴァモンドに限らず、誰かを宿泊させる事もないので食器の数も5人分しかない。

1人だけ食事をさせないというのも失礼に当たると、ミネルヴァーナが自分の分をと言えば他の4人が「自分が、自分が」と遠慮せざるを得ない。

「仕方ないわ。今日はベリー系はないし、手で抓むタイプで3つのお皿に盛りましょう」

その日はなんとか凌げたが、シルヴァモンドが帰宅をしたのは夕方の17時。
実に10時間近くの滞在に5人はぐったり。疲れてしまった。

「激務だった販売初日より疲れてるの気のせいかしら」
「気のせいじゃなーい。もうなんていうか…そんなに動いてないのにメッチャ疲れたぁ」
「なんだか狂うんだよねぇ…昼って何食べったっけ?」
「勘弁してくれ~。行為だがなんだか知らねぇけどやり直しは手間なんだよ」
「今日はもう早めに上がらせて…これから孫の世話…できるかしら」


疲労感半端ない5人だったか、それは翌日も、その翌日も続いた。

善意からの行動で他に何を求められている訳でもない。
「迷惑だ」と遠回しに伝えてみても右から左。いや、「気を使わないでくれ」と言われてしまう。

――気はもう使いっ放しなんだよ!!――

有難迷惑を通り越してはた迷惑にしか感じる事が出来ないのは心が狭いせいなのか。
5人は自分の中にいる自分に向かって自問自答を繰り返すが答えが出ない。

「出来れば来る事そのものを遠慮してほしいよね」
「だよね」
「空気読んでないっていうかさ‥読む気、全く無いよね」
「そう言う人って幸せよね。自分の事だけ考えてりゃいいんだもの」

意見の一致を見るが解決には至らない不条理を思わず嘆いてしまいそうにもなってしまう。


2度目の出店となる日の朝は玄関がノックされる事もなくホッと胸を撫でおろしたのに大通り公園に屋台を引いて押して到着した5人は悪夢を見ているのかと目を疑った。

「やあ!掃除しておいたよ」

そこには満面の笑みで早めにテントを畳んだ前の出店主の片付けも手伝ったシルヴァモンドがいたのだった。


やはり5人は固い絆で結ばれていて以心伝心。

「ヤバい…もう疲労感パない」

思いと言葉が重なった。
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