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15:マジョリー①

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この回はマジョリーの視点です

☆~☆

わたくしの家、キングル伯爵家は家族も使用人も非常に仲が良く、いつも笑い声が絶えない家でした。お母様が亡くなった事は正直あまり記憶にないのです。
朧気にお父様が神殿の祭壇近くで声をあげて泣いていたような気がするくらいでした。

兄のトレッドが実は従兄で、妹のエルローザとは母親が違う事をきちんと認識をしたのは7歳の時でした。ですがそれを聞いても何も変わらない。それがキングル伯爵家だったのです。

トレッドお兄様は勉強が好きで、わたくしにいつも優しく教えてくれますし、わたくしやエルローザが悪戯でお父様やお継母様の大事にしている花瓶を割ったり、ガラスを割ってしまっても一緒に叱られてくれました。

エルローザはわたくしと同じ髪色なので同じ髪型にしないと愚図るのです。最初に発した言葉も「ねえた(姉たん)」でした。いつも一緒でお揃いの服を着て、おやつも半分こ。とても可愛い妹でした。

お父様もお継母様も兄姉妹の誰を優遇する事もなく、沢山愛してくださいました。

なにも変わらない毎日がある日一変したのです。


全身が燃えているのではないか。
数日高熱を出し、息も苦しかった夜にわたくしは「光」を浴びました。

ヒリヒリとした喉の痛みも和らぎ、冷たい空気を吸い込んだ途端に眠る事が出来たのです。

流感にり患し、お父様やお継母様、トレッドお兄様とローザと離れて別邸に1人。頭から布を被った侍女1人だけが1日に4、5回薬湯を飲ませてくれる。その時だけ「生きてる」事を感じたのです。

キングル伯爵家でも30人以上がり患し、12名の使用人が命を落としました。
お継母様は自分が看病をすると言ってくれたのですが、皆が止めたのです。

「光」を浴びてからは回復に向かい、わたくしは2週間ほどで治癒となりました。


1人隔離をされていた別邸から屋敷に戻った日。まるで誰かのお葬式のようでした。
第二王子アレックス殿下との婚約を告げる使者が屋敷に来て告げて行ったのです。それだけではなくわたくしが国王陛下から「救世主」と認定をされたと聞かされました。

「本当にわたくしなのですか?」

わたくしは嫌で嫌で堪りませんでした。
第二王子アレックス殿下は友人の令嬢達の間でも評判は芳しく無かったのです。

無表情で何を考えているか判らない少年だったアレックス殿下は子女の集まる茶会でも浮いた存在でしたし、わたくしとの顔合わせも何の興味もないようで、一言もお声がけをしてくださいません。

「この婚約は上手く行かない」父はそう言って何度も国王陛下に見直しを要求しました。その頃からです。決して大きくはない伯爵領に野盗が出没し始め、田畑を荒らし、焼き払って橋まで落としました。間も無く収穫を迎える筈だった大麦は全滅。キングル伯爵家は窮地に立たされたのです。

「警備隊を出す」「復興に人も物資も金も出す」「新しい橋を架ける」事を国王陛下は父に提案をしたと言います。たった1年でそこまで傾くような経営かと言えば異なりますが、領民全てに翌年までの生活を保障すれば莫大な金額となります。その上、落とされた橋は1つ2つではなく領民は「陸の孤島」にいる状態。

何故か橋を架けるのに声を掛けても人も物資も集まらなかったのです。
キングル伯爵家は王家に頼るしかありませんでした。

国王陛下の提案を飲み、婚約者となる事を承諾すると野盗の被害はピタリと収まり、王家の支援で新しい橋もかかりました。


しかし、学院に入るまでの間は王宮に登城しアレックス殿下と机を並べて教育を受けねばなりません。

「無能で愚鈍、何故お前のような者が選ばれたのか。父上も耄碌されたものだ」

王宮に王子妃教育のため登城し、共に学ぶ第二王子アレックス様は事有る毎にわたくしを罵るのです。朝早くから夜遅くまで続く教育も辛かったのですが、「発現のきっかけを探している」とアレックス殿下に乗じて王宮の使用人からも講師からも毎日「人である事を否定」され続けるのが苦痛でした。

ある日、わたくしは「もう嫌だ」と父に泣きついたのです。

父はすぐさま国王陛下に抗議をして婚約も解消するための話し合いをしてくれました。

ですが、今度はキングル伯爵家に不審火が続いたり、お継母様やトレッドお兄様の乗った馬車が出先で襲撃をされたりするようになったのです。

「私の婚約者で良かったな?家族だから護衛があって命拾いしたのだ」

アレックス殿下はわたくしに耳打ちをされたのです。
その時の怪我でトレッドお兄様は騎士になる夢を諦めるしかありませんでした。利き腕の腱を斬られそれまでのように剣を振るう事は出来なくなったからです。

「救世主とは厄介なものだ。護衛がいなければ家族もどうなる事か」

アレックス殿下の言葉は遠回しに「家族を人質」にしていると言わんばかり。

「そのような事…父に伝えて婚約は解――」
「出来ると思うか?証拠もないのに。教育が遅れていると講師も父上に報告をしている。ただ教育から逃げたいだけの戯言だと、周りは一笑に付すだろう」

「お父様は信じてくださいます」
「ならやってみると良い。選ばせてやってもいいぞ?護衛は救世主の家族だからではなく、私の婚約者だから付けられている事を忘れるなよ?」

王宮の使用人にわたくしの味方は一人もいません。講師ですら救世主の重要性を説きながら王家に付くか、伯爵家に付くかを天秤にかけるのです。


――どうしたら婚約は解消出来るんだろう――

発現をすれば味方が出来、証言をしてくれる者が出てくるのではないか。そう考えました。発現をすれば家族はこんな呪縛から解き放たれるのに。そう思うのにわたくしは何を試しても発現をしませんでした。


16歳となり学院に通うも、学院内にもわたくしの味方は一人もいませんでした。兄のトレッドとは入れ違いとなるため、それまでの王宮の教育が学院に場を変えただけ。辛い日々は変わりませんでした。

17歳。2年間通う学院で一筋の光が見えた気がしました。
アレックス殿下がレード公爵家のミッシェル様と懇意にされ始めたのです。

「発現もしていないのに、謀ってまで殿下のお側にいたいとは何と卑しいのかしら」
「謀ってなどいません。お側にいたいと望んだ事もありません」
「まぁ!なんて事。国王陛下の結ばれたご縁に異を唱えるとは」

ミッシェル様は公爵令嬢。爵位の差は埋められません。
わたくしの周りからは人が消え、話しかける者すらいなくなりました。

アレックス殿下とミッシェル様の仲は深まるばかりでこの頃は毎週のように父が憤慨し国王陛下に婚約解消を求めますが聞き入れられる事はなかったのです。
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