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マラニョンの実
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雨が続くと狩りも出来ず、川の水も増水をするため魚も獲れない。
木の実も食べられる草花も採りには行けなくなるためある程度の保存食は必要だと教えてもらった2人は河原で拾ってきた平たい石でエンドウなどの豆類をすり潰し、蓄えていく。
このところ下腹に膨らみがでて、手を当てていると赤子の動きが感じられる。
フレデリックは我が子のようにエンジェリーナの腹に手を当てて小さい動きを感じ、時折耳をあてて音を聞く。
エンジェリーナは嬉しいと思いつつもやはりフレデリックに対しての申し訳なさを感じる。
腹が大きくなればなるほど、赤子の動きが感じられれば感じるほど申し訳なさが募る
トントン、ゴリゴリと不定期なリズムで豆を潰しているフレデリックに残る傷痕を見るたびに更に申し訳ないと感じるのである。
「エンジェ。名前を考えたんだ」
「名前?」
「あぁ、俺は女の子だと思うんだ。だから…シャルローゼはどうかな」
「男の子ならどうするの?」
「男はだめだ」
ふいにエンジェリーナはその言葉に父を思い出した。妃として女児を生め、男児はお家騒動の元になると言い切った父親。フレデリックも同じ考えなのだろうかと少し体が震える。
「どうして‥‥男の子はだめなの」
もしも父と同じだったら、同じ考えだったらどうしようかと恐る恐る問うてみた。
「だって男だと‥‥ほら‥‥エンジェを取られる」
「まぁ‥‥フフフ‥‥フフフッ」
そうだったのかと思うと笑いがこみ上げてくる。
2人で笑っているところにミズリーが慌てた様子で入ってきた。
「どうしたんです?」
「逃げなさい!早く!」
「逃げるって…まさか…」
フレデリックもエンジェリーナも思い浮かべる人物は1人である。
おそらく見つかればフレデリックは殺されてしまうとエンジェリーナが考えるようにフレデリックもまたエンジェリーナが不遇な扱いを余儀なくされると考えた。
バタンと扉が開く。しかしそこに立っていたのはアレフェットであった。
途端に肩の力が抜けるエンジェリーナを支えながらフレデリックが名前を呼んだ。
ミズリーは知り合いだったのかと聞く。
「ミズリーさん、兄ですの。わたくしの兄のアレフェットですわ」
「え?お兄さん?なんだぁ、でもいいの?駆け落ちでしょう?」
しかしアレフェットは目の前のエンジェリーナの体に思考が追いつかない。
2人を見守ろうとは思ってはいたが、こんなに早くフレデリックが本懐を遂げているとは思わなかったのだ。
そして妊娠しているとは考えていなかったので、用意した馬車の揺れ具合はどうだったかと考えた。
「に、妊娠しているのか」
その言葉に直ぐには返事が出来ない2人をミズリーがフォローを入れる。
ミズリーもジェフも2人は駆け落ちをしてきたと思いこんでいるのである。
「お兄さん、叱らないでやって。2人ともとても愛し合ってると思うわ」
「それは判るんだが…」
「なら尚の事、祝福してあげてよ。ねっ?」
居た堪れなくなったフレデリックは立ったままのアレフェットの腕を掴む。
エンジェリーナも兄の元に駆け寄る。
「フレデリック…お前‥」
「違うの!お兄様、お腹の子は…」
「俺の子だ!すまないアレフェット」
エンジェリーナの言葉に被せるよう声をあげるフレデリックにアレフェットは悟る。
同時にどうしたものかと思案をする。ほぼ100%、いや間違いなく腹の子は第三王子殿下の髪と瞳の色を持って生まれてくるだろう。それが王族特有の証であるからだ。
その子を隠し通す事は出来ない。屋敷の中に閉じ込めてはおけないからだ。
侯爵家の使用人に箝口令を敷いても隠し通せるものではない。
思案するアレフェットだが、ハっとした。考えるよりもここを離れなければならないのである。
「すまない。申し訳ないがここは危険だ。すぐに出る。準備をしてくれ」
「危険とはどういう事ですの?」
「殿下、いや隣国の兵がくる。停戦の取引にお前たちを使うためにだ」
「なんだって?どうしてここが…」
「俺が知っているくらいだ。グズグズするな。荷物を出せ。早く!」
ミズリーは3人が言っている意味が今一つ判らない。だがアレフェットはミズリーにもここから出ろと言う。
「私達も?どうして?」
「理由は後で説明をします。兎に角時間がない」
アレフェットは有無を言わさぬ勢いでミズリーにも準備を急げと言った。
そこにジェフが何事かとやって来る。だがアレフェットには説明をする時間がないのだ。
本当にグズグズしていれば隣国の兵は来てしまう。もしやもすると帰り道の馬車までの間に遭遇する可能性もあるのだ。
「私達は行きません。ここに骨を埋めると決めているのです」
ジェフとミズリーの瞳の力は強かった。宰相候補として幾多もの交渉をこなしているアレフェットは知っている。この瞳の強さを持つ者を説き伏せるのは至難の業である事を。
フレデリックがとエンジェリーナに荷造りをさせている間、アレフェットはせめてと本当の事を伝える。
エンジェリーナは第三王子妃である事、フレデリックはその護衛である事。
そして2人はそれでも思いあっているという事。
大変に驚く2人だが、ミズリーは急ぎ家に戻ると小さな袋を手に戻ってくる。
エンジェリーナに手渡し、ハグをする。
「あなた達2人の幸せを祈っているわ」
「ミズリーさん、ジェフさん。ありがとう」
「いいか。決して無理をするな。エンジェもフレディもだ」
「はい…半年の間ありがとうございました」
別れを告げ何度もジェフとミズリーを振りつつ歩みを進める。
険しい山道を登るのは半年経っていてもエンジェリーナには初めてである。
フレデリックは荷を背に回すとエンジェリーナを抱きかかえしっかりとした足取りで登っていく。
馬車に乗り、揺れるからと兄の前で膝の上に座らされるのは苦行でもあるが兄も見ない振りをする。
途中で甲冑を身に纏った兵を乗せた荷馬車とすれ違う。思わず緊張が走ったが止められる事もなく馬車は進んだ。
ミズリーから手渡された袋を開けるとマラニョンの実だった。実が付くと直ぐに鳥に食べられてしまう実で量が採れないのが難点だと笑っていたミズリーとジェフ。
2人に何事も無いようにと祈るフレデリックとエンジェリーナだった。
※来るときに乗ってきた馬は、手綱も何もない馬でしたので早々に逃げてしまっています。<(_ _)>
木の実も食べられる草花も採りには行けなくなるためある程度の保存食は必要だと教えてもらった2人は河原で拾ってきた平たい石でエンドウなどの豆類をすり潰し、蓄えていく。
このところ下腹に膨らみがでて、手を当てていると赤子の動きが感じられる。
フレデリックは我が子のようにエンジェリーナの腹に手を当てて小さい動きを感じ、時折耳をあてて音を聞く。
エンジェリーナは嬉しいと思いつつもやはりフレデリックに対しての申し訳なさを感じる。
腹が大きくなればなるほど、赤子の動きが感じられれば感じるほど申し訳なさが募る
トントン、ゴリゴリと不定期なリズムで豆を潰しているフレデリックに残る傷痕を見るたびに更に申し訳ないと感じるのである。
「エンジェ。名前を考えたんだ」
「名前?」
「あぁ、俺は女の子だと思うんだ。だから…シャルローゼはどうかな」
「男の子ならどうするの?」
「男はだめだ」
ふいにエンジェリーナはその言葉に父を思い出した。妃として女児を生め、男児はお家騒動の元になると言い切った父親。フレデリックも同じ考えなのだろうかと少し体が震える。
「どうして‥‥男の子はだめなの」
もしも父と同じだったら、同じ考えだったらどうしようかと恐る恐る問うてみた。
「だって男だと‥‥ほら‥‥エンジェを取られる」
「まぁ‥‥フフフ‥‥フフフッ」
そうだったのかと思うと笑いがこみ上げてくる。
2人で笑っているところにミズリーが慌てた様子で入ってきた。
「どうしたんです?」
「逃げなさい!早く!」
「逃げるって…まさか…」
フレデリックもエンジェリーナも思い浮かべる人物は1人である。
おそらく見つかればフレデリックは殺されてしまうとエンジェリーナが考えるようにフレデリックもまたエンジェリーナが不遇な扱いを余儀なくされると考えた。
バタンと扉が開く。しかしそこに立っていたのはアレフェットであった。
途端に肩の力が抜けるエンジェリーナを支えながらフレデリックが名前を呼んだ。
ミズリーは知り合いだったのかと聞く。
「ミズリーさん、兄ですの。わたくしの兄のアレフェットですわ」
「え?お兄さん?なんだぁ、でもいいの?駆け落ちでしょう?」
しかしアレフェットは目の前のエンジェリーナの体に思考が追いつかない。
2人を見守ろうとは思ってはいたが、こんなに早くフレデリックが本懐を遂げているとは思わなかったのだ。
そして妊娠しているとは考えていなかったので、用意した馬車の揺れ具合はどうだったかと考えた。
「に、妊娠しているのか」
その言葉に直ぐには返事が出来ない2人をミズリーがフォローを入れる。
ミズリーもジェフも2人は駆け落ちをしてきたと思いこんでいるのである。
「お兄さん、叱らないでやって。2人ともとても愛し合ってると思うわ」
「それは判るんだが…」
「なら尚の事、祝福してあげてよ。ねっ?」
居た堪れなくなったフレデリックは立ったままのアレフェットの腕を掴む。
エンジェリーナも兄の元に駆け寄る。
「フレデリック…お前‥」
「違うの!お兄様、お腹の子は…」
「俺の子だ!すまないアレフェット」
エンジェリーナの言葉に被せるよう声をあげるフレデリックにアレフェットは悟る。
同時にどうしたものかと思案をする。ほぼ100%、いや間違いなく腹の子は第三王子殿下の髪と瞳の色を持って生まれてくるだろう。それが王族特有の証であるからだ。
その子を隠し通す事は出来ない。屋敷の中に閉じ込めてはおけないからだ。
侯爵家の使用人に箝口令を敷いても隠し通せるものではない。
思案するアレフェットだが、ハっとした。考えるよりもここを離れなければならないのである。
「すまない。申し訳ないがここは危険だ。すぐに出る。準備をしてくれ」
「危険とはどういう事ですの?」
「殿下、いや隣国の兵がくる。停戦の取引にお前たちを使うためにだ」
「なんだって?どうしてここが…」
「俺が知っているくらいだ。グズグズするな。荷物を出せ。早く!」
ミズリーは3人が言っている意味が今一つ判らない。だがアレフェットはミズリーにもここから出ろと言う。
「私達も?どうして?」
「理由は後で説明をします。兎に角時間がない」
アレフェットは有無を言わさぬ勢いでミズリーにも準備を急げと言った。
そこにジェフが何事かとやって来る。だがアレフェットには説明をする時間がないのだ。
本当にグズグズしていれば隣国の兵は来てしまう。もしやもすると帰り道の馬車までの間に遭遇する可能性もあるのだ。
「私達は行きません。ここに骨を埋めると決めているのです」
ジェフとミズリーの瞳の力は強かった。宰相候補として幾多もの交渉をこなしているアレフェットは知っている。この瞳の強さを持つ者を説き伏せるのは至難の業である事を。
フレデリックがとエンジェリーナに荷造りをさせている間、アレフェットはせめてと本当の事を伝える。
エンジェリーナは第三王子妃である事、フレデリックはその護衛である事。
そして2人はそれでも思いあっているという事。
大変に驚く2人だが、ミズリーは急ぎ家に戻ると小さな袋を手に戻ってくる。
エンジェリーナに手渡し、ハグをする。
「あなた達2人の幸せを祈っているわ」
「ミズリーさん、ジェフさん。ありがとう」
「いいか。決して無理をするな。エンジェもフレディもだ」
「はい…半年の間ありがとうございました」
別れを告げ何度もジェフとミズリーを振りつつ歩みを進める。
険しい山道を登るのは半年経っていてもエンジェリーナには初めてである。
フレデリックは荷を背に回すとエンジェリーナを抱きかかえしっかりとした足取りで登っていく。
馬車に乗り、揺れるからと兄の前で膝の上に座らされるのは苦行でもあるが兄も見ない振りをする。
途中で甲冑を身に纏った兵を乗せた荷馬車とすれ違う。思わず緊張が走ったが止められる事もなく馬車は進んだ。
ミズリーから手渡された袋を開けるとマラニョンの実だった。実が付くと直ぐに鳥に食べられてしまう実で量が採れないのが難点だと笑っていたミズリーとジェフ。
2人に何事も無いようにと祈るフレデリックとエンジェリーナだった。
※来るときに乗ってきた馬は、手綱も何もない馬でしたので早々に逃げてしまっています。<(_ _)>
応援ありがとうございます!
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