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伯爵は宴もたけなわ
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伯爵家に引きこもってもうそろそろ2週間。
肉などの生ものを届けてくれる業者が久しぶりに訪れた。
情報に飢えていた伯爵は、一介の平民である納品に来た男を
丁寧にもてなす。
「あっあの・・オイラこんな綺麗なお城のような場所は初めてて‥」
汚しては大変だとドアノブも触れず、ソファにも座るのを
躊躇する男を伯爵は気にするなと肩を叩き、座らせる。
「い、いけません。オイラのズボンは汚れていますし
何より・・数日水浴びもしておらんのです」
「気にするな!なんなら湯あみの用意もするし着替えも構えよう。
誰か!話が終わったらこの方を湯あみさせるから準備をしてくれ!」
「ヒエっ‥ご、ご勘弁くだせぇまし」
「気にするな。儂とて幼少の頃は、こんな小洒落た家ではなく
小ぶりで雨漏りのするあばら家のような家だったのだ。
何も気にする事はない。寛いでくれ」
最初は恐縮する男だったが、ワインを勧められ饒舌になる。
そこに青果を納品に来た農夫や、
薪を納品にきた男も加わって宴会が始まる。
真っ赤な顔でお互い肩を組んで流行歌を歌い始める父を
呆れた表情で見る使用人たち。
シャロンも夫人も苦笑いで父を見る。
「そんなに貧乏だったのですか?」
シャロンの何気ない問いに夫人は笑う。
「貧乏も貧乏よ。お爺さまは質実剛健な方でしたもの。
贅沢は敵だと言ってね。柔らかいパンなんて食べた事がバレたら
数週間水にパンを浸されたとか。これで柔らかいだろうって」
「まぁ!厳しいお爺さまでしたのね」
「貴女が生まれる少し前に亡くなってしまわれたけれど
節約に節約をされてたおかげで、飢饉の時にはその財を使って
うちの領民は飢死せずに済んだほどよ。
だけど余ったお金でこの屋敷を建てたら今度はお婆様がお怒りよ。
財は領民の為に使うものだと」
「まぁ、お婆様までですの」
「えぇ。お婆様は引き継いだ夫人用の遺産を残されていて
その遺産で今度は領民を流行病から救えたのよ。
その時に、薬をドレーユ侯爵家の領民にも分けた事で
婚約話が持ち上がったのよ。
なのに第三王子とのお話が来てしまって‥‥
貴女とは年の差が15もあるし、貴女はその時お付き合いし…」
夫人はそこで口を閉ざす。
当時シャロンが付き合っていたのは他ならないシリウスである。
「お母様、お気になさらないで」
「あぁ、ごめんなさい。可愛いわたくしの娘‥‥」
夫人はシャロンを抱きしめる。
シャロンは母の温もりを感じる。
「お母様、色々あってわたくしは逃げてしまったの」
「そっ、そんな逃げただのと!」
「いいえ。逃げなのです。あと少しだけシリウスを待てれば…」
ーーシリウスは死ななくても良かったのにーー
そう考えるとシャロンは大粒の涙を流す。
詳しい事はなにも判らないシャロンには自分の目で見て
触れたことが全てなのである。
シリウスは今、どうなっているのだろう
自分が見舞いに行かない事でもう…屍になっているのではと
思うと涙が止まらない。
こんなにもシリウスの事を愛していたのだと改めて思う。
母と抱き合っていると、家令が客が来たと告げる。
母と少し離れてハンカチで涙をぬぐう。
「お客様?どうしましょう。お父様は‥‥」
宴もたけなわな父を扉越しの声でおしはかる。
「お客様はお嬢様にです。ドレーユ侯爵様のお使いの方です」
「まぁ。どうしましょう」
涙の跡がついていないかシャロンは思わず頬を撫でる。
夫人はシャロンの顔をまじまじと見つめる。
「うん。大丈夫。いつものシャロンだわ」
その言葉に家令の後をついて使者を迎えた。
肉などの生ものを届けてくれる業者が久しぶりに訪れた。
情報に飢えていた伯爵は、一介の平民である納品に来た男を
丁寧にもてなす。
「あっあの・・オイラこんな綺麗なお城のような場所は初めてて‥」
汚しては大変だとドアノブも触れず、ソファにも座るのを
躊躇する男を伯爵は気にするなと肩を叩き、座らせる。
「い、いけません。オイラのズボンは汚れていますし
何より・・数日水浴びもしておらんのです」
「気にするな!なんなら湯あみの用意もするし着替えも構えよう。
誰か!話が終わったらこの方を湯あみさせるから準備をしてくれ!」
「ヒエっ‥ご、ご勘弁くだせぇまし」
「気にするな。儂とて幼少の頃は、こんな小洒落た家ではなく
小ぶりで雨漏りのするあばら家のような家だったのだ。
何も気にする事はない。寛いでくれ」
最初は恐縮する男だったが、ワインを勧められ饒舌になる。
そこに青果を納品に来た農夫や、
薪を納品にきた男も加わって宴会が始まる。
真っ赤な顔でお互い肩を組んで流行歌を歌い始める父を
呆れた表情で見る使用人たち。
シャロンも夫人も苦笑いで父を見る。
「そんなに貧乏だったのですか?」
シャロンの何気ない問いに夫人は笑う。
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贅沢は敵だと言ってね。柔らかいパンなんて食べた事がバレたら
数週間水にパンを浸されたとか。これで柔らかいだろうって」
「まぁ!厳しいお爺さまでしたのね」
「貴女が生まれる少し前に亡くなってしまわれたけれど
節約に節約をされてたおかげで、飢饉の時にはその財を使って
うちの領民は飢死せずに済んだほどよ。
だけど余ったお金でこの屋敷を建てたら今度はお婆様がお怒りよ。
財は領民の為に使うものだと」
「まぁ、お婆様までですの」
「えぇ。お婆様は引き継いだ夫人用の遺産を残されていて
その遺産で今度は領民を流行病から救えたのよ。
その時に、薬をドレーユ侯爵家の領民にも分けた事で
婚約話が持ち上がったのよ。
なのに第三王子とのお話が来てしまって‥‥
貴女とは年の差が15もあるし、貴女はその時お付き合いし…」
夫人はそこで口を閉ざす。
当時シャロンが付き合っていたのは他ならないシリウスである。
「お母様、お気になさらないで」
「あぁ、ごめんなさい。可愛いわたくしの娘‥‥」
夫人はシャロンを抱きしめる。
シャロンは母の温もりを感じる。
「お母様、色々あってわたくしは逃げてしまったの」
「そっ、そんな逃げただのと!」
「いいえ。逃げなのです。あと少しだけシリウスを待てれば…」
ーーシリウスは死ななくても良かったのにーー
そう考えるとシャロンは大粒の涙を流す。
詳しい事はなにも判らないシャロンには自分の目で見て
触れたことが全てなのである。
シリウスは今、どうなっているのだろう
自分が見舞いに行かない事でもう…屍になっているのではと
思うと涙が止まらない。
こんなにもシリウスの事を愛していたのだと改めて思う。
母と抱き合っていると、家令が客が来たと告げる。
母と少し離れてハンカチで涙をぬぐう。
「お客様?どうしましょう。お父様は‥‥」
宴もたけなわな父を扉越しの声でおしはかる。
「お客様はお嬢様にです。ドレーユ侯爵様のお使いの方です」
「まぁ。どうしましょう」
涙の跡がついていないかシャロンは思わず頬を撫でる。
夫人はシャロンの顔をまじまじと見つめる。
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その言葉に家令の後をついて使者を迎えた。
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