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♡買取店を探して
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「痛たたた…ヒュッ!!」
滑り落ちてしまい、身の丈ほどの草の上から聞こえる兵士の声に身を更に伏せた時、目の前の細長い葉に小指ほどの毛虫と目が合ったような気がして叫びそうになりましたが息を飲み込む事で堪えました。
16年間生きて来て、厳しい講師の方には何度も背や太ももの後ろなど鞭で打たれました。打たれる恐怖に足が竦む事もありましたが、目の前の毛虫が2匹、3匹と増えてくる恐怖に比べれば教育中の鞭など知れたもので御座います。兵士が土手を降りてくることがないよう、毛虫が葉に穴を作っていくのを見ながら祈りました。
人の気配がしなくなった頃、土手を這いあがりましたがドレスは泥だらけ。
髪もグシャグシャでございます。
牢にいる間は湯あみも出来ませんでしたので、体も汗でベトベトですし継母ほどは使用しておりませんが香水の香りと混じり酷い悪臭です。
もしかすると継母はこの匂いを隠すために更に香水を使用していたのでしょうか。
そんな事を考えながら街を歩きます。今まで来た事はありませんでしたが平民の皆さんがごく一般に利用する商店街があるようで、貴族街にあるものと違っているのは店先にも多くの品が並べられております。
わたくしはその中の不思議な野菜や果物のようなものが並べられている1軒の店に立ち寄りました。看板には魚や肉の絵がある店はありましたが、わたくしが今まで食卓で見てきた食材と並んでいる品が違っており、唯一見た事のあるバナナがこの店にあったのです。
「あら?お姉さんどしたの?酷く汚れちゃってまぁ…」
わたくしを見た年配の女性は建物の奥に一度戻ると、水で濡らした布を貸してくださいました。ですが受け取ったまでは良かったのですが、わたくしは自分で自分の顔を拭いた事も御座いませんし、侍女が使っていたのは湯で濡らした布でしたので水となるとどうしていいか判らなかったのです。
「顔、拭きな。泥で折角の可愛い顔が台無しだよ」
「ありがとうございます。あの…どうやって?」
「は?」
困った顔をされておられます。わたくしも困っております。
しかし、市井の方は牢の女性のように親切でございました。拭き方を教えて下さるだけでなく、なんなら桶で直接手や顔の洗い方まで指南してくださるのです。
「水とは、こんなに冷たいのですね。ですが折角雨で溜った水を使ってしまいました。申し訳ございません」
「ぶっ!!何言ってんのさ。水は井戸から汲み上げるんだよ」
「井戸?」
親切な女性は、紐の付いた桶を穴の中に放り込み、別の紐を両腕を交互に動かし引っ張り上げます。したらば!なんと桶に水が入っていたのです。
――雨が地の底からも降っているのでしょうか――
公爵家でも家庭教師は居りましたし、王子妃教育、王太子妃教育も修了致しましたが、学ぶ事は歴史、語学、算術、マナーに所作、そしてダンス。
わたくしは、水を汲む事も、自分の事すら自分で出来ない赤子以下の知識だと思い知らされました。
「お腹空いてるだろ?売り物のリンゴだけど食べるかい?」
手渡される赤くて丸い物体をわたくしはまた、どうする事も出来ません。
切り分けて頂き、弧になった赤い部分がある事を除けばやっとそれがリンゴだと判ったのです。
リンゴが木に実る事は学びましたが、こんな形や色をしていた事すら知らなかったのです。種と芯も食べるものが居ると言われ、これまたリンゴに種と芯がある事も知ったのです。
今まで食卓に並んでいた、いえ、スープなどに入っていたり、メインの脇に添えられていたジャガイモやニンジン、玉ねぎやカボチャなどの本当の形にわたくしは、もう驚きも通り越してしまったのです。
「親切な方から品物をお金と言うものに交換くださるお店があると聞いたのです。どちらにあるかご存じありませんか?」
女性はバナナの皮の剥き方を教えてくださりながら、新しいバナナを1本差し出すと店の場所を教えてくださいました。お兄様か叔母様に連絡を取らねばなりませんが、ここには手紙を書くにも紙もペンもないのです。
「ごめんね。字なんか書けないし読めないから持ってないんだよ」
文字の読み書きが出来ることが普通ではない事も衝撃で御座いました。
牢に入ってから今日まででわたくしの価値観は殆ど全てが覆ったのです。
兎に角、お金を作り便箋を買って、手紙を出さねばなりません。
聞けば手紙は配達をしてくれる受付所があると言います。わたくしは便箋などもそこで売っているし代筆や、受け取った手紙を読んで聞かせてくれるとも聞き、手持ちの品を売るべく女性に礼を言い、買取店に向かったのです。
教えられた場所に向かい、目印になる看板を探しながら歩いていると男性に声をかけられました。なんでもわたくしが女性と話をしているのを聞いて、店まで連れて行ってくださると言うのです。
わたくしは何にも知らなかったのです。
歩きながら髪飾りやブローチを交換してもらおうと思っていると男性に話してしまったのです。言われるがままに隣を歩き、時に後ろになりながら、はぐれない様に懸命について行くと男性は細い路地に入ったのです。
また草むらに滑り落ちて毛虫がいたら!?
そう思ったわたくしは一瞬足を止めてしまいました。
「どうしたんだ?こっちだ。早くおいで」
男性の後ろ、距離はありますが数人の男性がこちらをみてニヤニヤしながら立ち上がります。あの兵士たちにも似た淫靡な笑いにわたくしの本能が「逃げろ」と訴えました。
もしかすると買取店はこの先に本当にあるのかも知れません。ですが薄暗く嫌な感じがしたのです。
「あの…やはり…自分で探します」
「何言ってんだ?高く買ってくれる所に連れてってやろうとしてんのに」
「いえ、大丈夫ですわ。ここからは1人で――――きゃっ!」
腕を掴まれ、口を塞がれ、男性に引き寄せられてしまったわたくしの元に男達が集まって参ります。狭い路地が幸いして、わたくしを掴んでいる男が栓となっておりますが聞こえてくる言葉に背筋が凍りつきました。
「いくらで売れるかな?」
「いいとこのお嬢様だ。箱入り娘ってやつだぜ。隣国で奴隷商に売るのも悪かねぇな」
「うぅぅ~!!ウグゥッ!」
このままでは隣国の奴隷商に売られてしまう!そう考えたわたくしは、ガブリと口を塞いでいた男の親指の付け根あたりに噛みつきました。
「痛って!!何しやがるッこの小娘が!」
わたくしは手に持っていた紙とバナナをその男の顔に思い切り当てると、バナナが口の中に深く入った男が手を離しました。今しか逃げられないと思い、路地の入口すぐだった事も幸いして通りに走ったのです。
どこか隠れる場所は‥‥
探していたわたくしの目の前に大きな幌馬車が見えました。
「出発するよー!乗るヤツはもういないかー!」
幌馬車の後部の幌は上がっていて、そこに楽しそうに会話をする親子や大きな荷を背から降ろし積み込んでもらっている女性が目に入りました。
安易だとは思います。ですが、怖い男性よりも女性や子供のほうが安心だと思ったのです。
わたくしは髪飾りを引き抜き、案内をしている男性に手渡しました。
「この髪飾りしかないのですが、乗せてくださいませ」
そういうと、男性は頷いて指で馬車に乗り込むステップを指されます。
幌馬車に乗り込んだわたくしは、這うようにして一番奥に身を潜めました。
滑り落ちてしまい、身の丈ほどの草の上から聞こえる兵士の声に身を更に伏せた時、目の前の細長い葉に小指ほどの毛虫と目が合ったような気がして叫びそうになりましたが息を飲み込む事で堪えました。
16年間生きて来て、厳しい講師の方には何度も背や太ももの後ろなど鞭で打たれました。打たれる恐怖に足が竦む事もありましたが、目の前の毛虫が2匹、3匹と増えてくる恐怖に比べれば教育中の鞭など知れたもので御座います。兵士が土手を降りてくることがないよう、毛虫が葉に穴を作っていくのを見ながら祈りました。
人の気配がしなくなった頃、土手を這いあがりましたがドレスは泥だらけ。
髪もグシャグシャでございます。
牢にいる間は湯あみも出来ませんでしたので、体も汗でベトベトですし継母ほどは使用しておりませんが香水の香りと混じり酷い悪臭です。
もしかすると継母はこの匂いを隠すために更に香水を使用していたのでしょうか。
そんな事を考えながら街を歩きます。今まで来た事はありませんでしたが平民の皆さんがごく一般に利用する商店街があるようで、貴族街にあるものと違っているのは店先にも多くの品が並べられております。
わたくしはその中の不思議な野菜や果物のようなものが並べられている1軒の店に立ち寄りました。看板には魚や肉の絵がある店はありましたが、わたくしが今まで食卓で見てきた食材と並んでいる品が違っており、唯一見た事のあるバナナがこの店にあったのです。
「あら?お姉さんどしたの?酷く汚れちゃってまぁ…」
わたくしを見た年配の女性は建物の奥に一度戻ると、水で濡らした布を貸してくださいました。ですが受け取ったまでは良かったのですが、わたくしは自分で自分の顔を拭いた事も御座いませんし、侍女が使っていたのは湯で濡らした布でしたので水となるとどうしていいか判らなかったのです。
「顔、拭きな。泥で折角の可愛い顔が台無しだよ」
「ありがとうございます。あの…どうやって?」
「は?」
困った顔をされておられます。わたくしも困っております。
しかし、市井の方は牢の女性のように親切でございました。拭き方を教えて下さるだけでなく、なんなら桶で直接手や顔の洗い方まで指南してくださるのです。
「水とは、こんなに冷たいのですね。ですが折角雨で溜った水を使ってしまいました。申し訳ございません」
「ぶっ!!何言ってんのさ。水は井戸から汲み上げるんだよ」
「井戸?」
親切な女性は、紐の付いた桶を穴の中に放り込み、別の紐を両腕を交互に動かし引っ張り上げます。したらば!なんと桶に水が入っていたのです。
――雨が地の底からも降っているのでしょうか――
公爵家でも家庭教師は居りましたし、王子妃教育、王太子妃教育も修了致しましたが、学ぶ事は歴史、語学、算術、マナーに所作、そしてダンス。
わたくしは、水を汲む事も、自分の事すら自分で出来ない赤子以下の知識だと思い知らされました。
「お腹空いてるだろ?売り物のリンゴだけど食べるかい?」
手渡される赤くて丸い物体をわたくしはまた、どうする事も出来ません。
切り分けて頂き、弧になった赤い部分がある事を除けばやっとそれがリンゴだと判ったのです。
リンゴが木に実る事は学びましたが、こんな形や色をしていた事すら知らなかったのです。種と芯も食べるものが居ると言われ、これまたリンゴに種と芯がある事も知ったのです。
今まで食卓に並んでいた、いえ、スープなどに入っていたり、メインの脇に添えられていたジャガイモやニンジン、玉ねぎやカボチャなどの本当の形にわたくしは、もう驚きも通り越してしまったのです。
「親切な方から品物をお金と言うものに交換くださるお店があると聞いたのです。どちらにあるかご存じありませんか?」
女性はバナナの皮の剥き方を教えてくださりながら、新しいバナナを1本差し出すと店の場所を教えてくださいました。お兄様か叔母様に連絡を取らねばなりませんが、ここには手紙を書くにも紙もペンもないのです。
「ごめんね。字なんか書けないし読めないから持ってないんだよ」
文字の読み書きが出来ることが普通ではない事も衝撃で御座いました。
牢に入ってから今日まででわたくしの価値観は殆ど全てが覆ったのです。
兎に角、お金を作り便箋を買って、手紙を出さねばなりません。
聞けば手紙は配達をしてくれる受付所があると言います。わたくしは便箋などもそこで売っているし代筆や、受け取った手紙を読んで聞かせてくれるとも聞き、手持ちの品を売るべく女性に礼を言い、買取店に向かったのです。
教えられた場所に向かい、目印になる看板を探しながら歩いていると男性に声をかけられました。なんでもわたくしが女性と話をしているのを聞いて、店まで連れて行ってくださると言うのです。
わたくしは何にも知らなかったのです。
歩きながら髪飾りやブローチを交換してもらおうと思っていると男性に話してしまったのです。言われるがままに隣を歩き、時に後ろになりながら、はぐれない様に懸命について行くと男性は細い路地に入ったのです。
また草むらに滑り落ちて毛虫がいたら!?
そう思ったわたくしは一瞬足を止めてしまいました。
「どうしたんだ?こっちだ。早くおいで」
男性の後ろ、距離はありますが数人の男性がこちらをみてニヤニヤしながら立ち上がります。あの兵士たちにも似た淫靡な笑いにわたくしの本能が「逃げろ」と訴えました。
もしかすると買取店はこの先に本当にあるのかも知れません。ですが薄暗く嫌な感じがしたのです。
「あの…やはり…自分で探します」
「何言ってんだ?高く買ってくれる所に連れてってやろうとしてんのに」
「いえ、大丈夫ですわ。ここからは1人で――――きゃっ!」
腕を掴まれ、口を塞がれ、男性に引き寄せられてしまったわたくしの元に男達が集まって参ります。狭い路地が幸いして、わたくしを掴んでいる男が栓となっておりますが聞こえてくる言葉に背筋が凍りつきました。
「いくらで売れるかな?」
「いいとこのお嬢様だ。箱入り娘ってやつだぜ。隣国で奴隷商に売るのも悪かねぇな」
「うぅぅ~!!ウグゥッ!」
このままでは隣国の奴隷商に売られてしまう!そう考えたわたくしは、ガブリと口を塞いでいた男の親指の付け根あたりに噛みつきました。
「痛って!!何しやがるッこの小娘が!」
わたくしは手に持っていた紙とバナナをその男の顔に思い切り当てると、バナナが口の中に深く入った男が手を離しました。今しか逃げられないと思い、路地の入口すぐだった事も幸いして通りに走ったのです。
どこか隠れる場所は‥‥
探していたわたくしの目の前に大きな幌馬車が見えました。
「出発するよー!乗るヤツはもういないかー!」
幌馬車の後部の幌は上がっていて、そこに楽しそうに会話をする親子や大きな荷を背から降ろし積み込んでもらっている女性が目に入りました。
安易だとは思います。ですが、怖い男性よりも女性や子供のほうが安心だと思ったのです。
わたくしは髪飾りを引き抜き、案内をしている男性に手渡しました。
「この髪飾りしかないのですが、乗せてくださいませ」
そういうと、男性は頷いて指で馬車に乗り込むステップを指されます。
幌馬車に乗り込んだわたくしは、這うようにして一番奥に身を潜めました。
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