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△初恋の君
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「どうなっている!?ちゃんと調べたのか?」
私は従者を叱り飛ばした。
と、言うのも愛しいプリエラの行方が判らなくなったのだ。
ちょっとした悪戯だったし、困って泣いたあと、私が向かえに行きお互いの距離を深める筈だった。どこで何が違ったのか。
ガルティネ公爵家からプリエラが数日戻らない事から私に問い合わせが来た。茶会の相手は私だったのだから当然と言えば当然だが、騒ぎになっても困ると私はプリエラがいる貴族牢に向かった。
しかし、そこにいる筈のプリエラはいなかった。
お仕置きだと1週間ほど顔を見せない事が周囲からの距離と孤独、疎外感を感じ、より依存してくると聞いて律儀に放っておいた私が悪いのだろうか。
護衛の兵は途中で待っていた兵にプリエラの身柄を預けたと言う。
「私達も突然の事だったので驚きましたが、その兵はプリエラ様が牢にという事は知っていたので殿下が手配をされたのかと思っておりましたが‥‥違うのですか?」
彼らがプリエラの身柄を引き渡した兵は該当者がいなかった。
白昼堂々と行われた誘拐劇。
プリエラを攫った兵はどうして茶会の事を知っていたのか。偶然かも知れないが偶然なのであれば悔やんでも悔やみきれない。父上にこの事が見つかる前に何とかプリエラの身柄を保護しなくてはならない。
「騒ぎになれば殿下も困るでしょう。私達も内々に兵を出し調べます」
プリエラの父、ガルティネ公爵の申し出がありがたいと思った私が愚かだった。
もっと早く騎士団なども動かして調べるべきだったのだ。
父上に叱られようがプリエラが居なくなる事に比べれば些細なものだ。
私は愚かな行為を隠すために、間違った選択をしてしまったのだ。
私の名前はジョルジュ・ボンヌ。18歳。
ボンヌ王国の国王唯一の子で、王太子に立太子しもう4年になる。
私には婚約者がいる。ガルティネ公爵家のプリエラだ。
私が6歳、プリエラが4歳の時に王命に近い状態で婚約者になった。
「プリエラ・ガルティネで御座います。お見知りおきくださいませ」
少しだけふらつきながらもカーテシーをする少女に私は胸がトクンと高鳴った。
プリエラは私の後をちょこちょことカルガモの子のようについて回る。
意地悪をすると、目にいっぱい涙を溜めながらも懸命に堪える姿はとても可愛らしかった。
妹のように思っていたが、王子教育も終わり王太子教育になった15歳で私は躓いた。それまで難なくこなせていた内容が格段に難しくなり理解をする前に次に進んでいく。
追いつくだけでも必死な中、プリエラは2歳年下であるのにカリキュラムが進んでいった。
そして、同じ頃プリエラの体つきが妙に艶めかしくなった。幼児体形だった体は胸も膨らみを見せ始め、腰回りもくびれて時折首筋にも色気を感じるようになった。
成熟した大人の色気ではなく、あどけなさも残りながらゆっくりと熟れていく果実のような肢体。そして今まで気にした事もなかったが、甘い香りがするようになった。
香水をつけ始めたのかと思ったが、従妹のフローネのようなキツイ香りではなくフッと鼻腔を擽るような香り。聞いてみれば香水の類はまだつけて居ないと言った。
私だけに始まった教育もあった。世継ぎを残すための教育である。
そこで女性の体を座学ではあったが学んだ。
「ねぇ、ジョー…」
4歳年上の従妹フローネは物心ついた時から側にいる。
女性なのだが、私には姉のようなものでフローネには何の気持ちもなかった。
しかし、年上というのは色々と知らない事を学んでいて、私はフローネから酒の楽しみも、葉巻も教えてもらった。そして性も指導してやると言ってきたがそれは断った。精通をした後は朝起きた後に子種が漏れている事もあった。
知ってしまえばおそらく嵌ってしまうと自分を抑制した。
姉として接していた期間も従者からは【距離が近い】と指摘はされていた。
しかし、フローネは私の【先生】でもあった。
父や母、従者。特にプリエラに話せなくてもフローネには相談出来た事があった。
私はフローネに【プリエラへの思慕】を相談していたのだ。
「国王と王妃に愛は要らないって言うけど、それは嘘よ。ジョーのお父様もお母様も周囲の反対を押し切って結婚したんだもの」
「でもプリエラは私の事はあまり興味がないみたいだ」
「じゃぁ試してみる?女はね、嫉妬する事で自分の方を見て欲しくて自分磨きをするのよ。今まで以上に私と親密な感じに見せたら嫉妬すると思うわ」
「するかな…嫉妬なんて。フローネの事を愛妾になんて言い出しちゃったんだよ?」
「するわよ!しない女なんかいないわ。特にジョーは王太子。その身分だけでも垂涎ものよ?少々冷たくしたって何の問題もないわ。あと、茶会なんかに前乗りするなんてガッついてると思われるわね。やめたほうが良いわ」
丁度その頃、プリエラの体が幼児体形から変わりだした事もあって、私は勘違いをしてしまったのだ。嫉妬心から体だけでもと磨きをかけていると言うフローネの言葉を信じてしまった。
以前から距離が近いと言われていた私とフローネはどんどんエスカレートしてしまった。プリエラがその姿を見て眉を顰めるのも、視線を逸らすのも嫉妬だと思ったのだ。
皆に咎められた時は【父上は良くて何故自分は咎められる】と言えば誰も何も言わなくなった。
父上も言っていたのだ。何でも話し合える異性は見つけるのが難しいと。
私はその点フローネには感謝していたのだ。
茶会も少し前に行くようにしていたが、遅れるのは常識がないと言われるが時間丁度であればいいと私は時間まで扉の影に身を潜めて待つようになった。
しかし、王太子教育がまだ終わらないうちにプリエラは王太子妃教育を終えてしまった。登城する回数が激減したプリセラに会えない時間だけ思いが募っていく。
フローネはそんな私に言ったのだ。
「長く会えない後に会えた時って最高よね」
間違いではなかった。茶会の菓子は何が良いだろうと考えたり、たわいもない会話をしたくて敢えて簡単に終わるような議題を考えたり。夜会の前などはプリエラにドレスを贈りたくて堪らなかった。しかしプリエラはドレスも宝飾品も民の税金だからと受け取ってくれなかった。
なのに、夜会には誰に買ってもらったのか違うドレスばかりを着てくる。
「ジョーに妬いてもらいたいのよ。ね?プリエラの本心を知りたくない?」
「本心?どうやって。直接聞いても教えてはくれないよ」
「直接聞くわけないでしょう?お仕置きで何処かに閉じ込めるのよ。そうね…1カ月になると騒ぎにもなるから1週間から10日くらいかな」
「そんなっ!可哀想だよ」
「閉じ込めると言っても貴族牢よ。あそこは滅多に誰も使わないし寝台も家具もあるから大丈夫よ。プリエラの好きな本だってあるし退屈しないと思うわ」
「そんな事をして本当に嫌われたら死にたくなるよ」
「大丈夫だって。あれは君の気を引きたかったからだとか言って抱きしめてやればコロッと落ちるわよ。ほら、幼子が迷子になって親を探す時は大泣きでしょう?好きなおもちゃも放り投げるくらい。でも親が来ると一目散に駆け寄るでしょう?あれよ!」
フローネの言葉に私は乗ってしまった。
知らなかったんだ。プリエラのドレスはリメイクをした着回しだった事も、宝飾品もドレスが違えば見え方も違うって事を。
そしてプリエラの父、ガルティネ公爵は後妻を娶っていてまだ2年ほどなのに、プリエラと3つしか違わない異母妹もいて、公爵家の使用人はきちんと仕事はしてもプリエラの父、ガルティネ公爵が兄を隣国に留学をさせて引き離し、公爵家の私財を食いつぶしていた事も。
そんな事が露見しては困るプリエラの父、ガルティネ公爵がまともに捜索などする筈がないと言う事にも私は気が付かなかった。
プリエラを最後に見てもう1カ月になろうとしている。
何度も探して、ここにいるはずがないのだが、どこかに抜け道でもあるのではと私は貴族牢の壁を叩く。それが無駄な事だと判っていても私は叩かずにはいられなかった。
私は従者を叱り飛ばした。
と、言うのも愛しいプリエラの行方が判らなくなったのだ。
ちょっとした悪戯だったし、困って泣いたあと、私が向かえに行きお互いの距離を深める筈だった。どこで何が違ったのか。
ガルティネ公爵家からプリエラが数日戻らない事から私に問い合わせが来た。茶会の相手は私だったのだから当然と言えば当然だが、騒ぎになっても困ると私はプリエラがいる貴族牢に向かった。
しかし、そこにいる筈のプリエラはいなかった。
お仕置きだと1週間ほど顔を見せない事が周囲からの距離と孤独、疎外感を感じ、より依存してくると聞いて律儀に放っておいた私が悪いのだろうか。
護衛の兵は途中で待っていた兵にプリエラの身柄を預けたと言う。
「私達も突然の事だったので驚きましたが、その兵はプリエラ様が牢にという事は知っていたので殿下が手配をされたのかと思っておりましたが‥‥違うのですか?」
彼らがプリエラの身柄を引き渡した兵は該当者がいなかった。
白昼堂々と行われた誘拐劇。
プリエラを攫った兵はどうして茶会の事を知っていたのか。偶然かも知れないが偶然なのであれば悔やんでも悔やみきれない。父上にこの事が見つかる前に何とかプリエラの身柄を保護しなくてはならない。
「騒ぎになれば殿下も困るでしょう。私達も内々に兵を出し調べます」
プリエラの父、ガルティネ公爵の申し出がありがたいと思った私が愚かだった。
もっと早く騎士団なども動かして調べるべきだったのだ。
父上に叱られようがプリエラが居なくなる事に比べれば些細なものだ。
私は愚かな行為を隠すために、間違った選択をしてしまったのだ。
私の名前はジョルジュ・ボンヌ。18歳。
ボンヌ王国の国王唯一の子で、王太子に立太子しもう4年になる。
私には婚約者がいる。ガルティネ公爵家のプリエラだ。
私が6歳、プリエラが4歳の時に王命に近い状態で婚約者になった。
「プリエラ・ガルティネで御座います。お見知りおきくださいませ」
少しだけふらつきながらもカーテシーをする少女に私は胸がトクンと高鳴った。
プリエラは私の後をちょこちょことカルガモの子のようについて回る。
意地悪をすると、目にいっぱい涙を溜めながらも懸命に堪える姿はとても可愛らしかった。
妹のように思っていたが、王子教育も終わり王太子教育になった15歳で私は躓いた。それまで難なくこなせていた内容が格段に難しくなり理解をする前に次に進んでいく。
追いつくだけでも必死な中、プリエラは2歳年下であるのにカリキュラムが進んでいった。
そして、同じ頃プリエラの体つきが妙に艶めかしくなった。幼児体形だった体は胸も膨らみを見せ始め、腰回りもくびれて時折首筋にも色気を感じるようになった。
成熟した大人の色気ではなく、あどけなさも残りながらゆっくりと熟れていく果実のような肢体。そして今まで気にした事もなかったが、甘い香りがするようになった。
香水をつけ始めたのかと思ったが、従妹のフローネのようなキツイ香りではなくフッと鼻腔を擽るような香り。聞いてみれば香水の類はまだつけて居ないと言った。
私だけに始まった教育もあった。世継ぎを残すための教育である。
そこで女性の体を座学ではあったが学んだ。
「ねぇ、ジョー…」
4歳年上の従妹フローネは物心ついた時から側にいる。
女性なのだが、私には姉のようなものでフローネには何の気持ちもなかった。
しかし、年上というのは色々と知らない事を学んでいて、私はフローネから酒の楽しみも、葉巻も教えてもらった。そして性も指導してやると言ってきたがそれは断った。精通をした後は朝起きた後に子種が漏れている事もあった。
知ってしまえばおそらく嵌ってしまうと自分を抑制した。
姉として接していた期間も従者からは【距離が近い】と指摘はされていた。
しかし、フローネは私の【先生】でもあった。
父や母、従者。特にプリエラに話せなくてもフローネには相談出来た事があった。
私はフローネに【プリエラへの思慕】を相談していたのだ。
「国王と王妃に愛は要らないって言うけど、それは嘘よ。ジョーのお父様もお母様も周囲の反対を押し切って結婚したんだもの」
「でもプリエラは私の事はあまり興味がないみたいだ」
「じゃぁ試してみる?女はね、嫉妬する事で自分の方を見て欲しくて自分磨きをするのよ。今まで以上に私と親密な感じに見せたら嫉妬すると思うわ」
「するかな…嫉妬なんて。フローネの事を愛妾になんて言い出しちゃったんだよ?」
「するわよ!しない女なんかいないわ。特にジョーは王太子。その身分だけでも垂涎ものよ?少々冷たくしたって何の問題もないわ。あと、茶会なんかに前乗りするなんてガッついてると思われるわね。やめたほうが良いわ」
丁度その頃、プリエラの体が幼児体形から変わりだした事もあって、私は勘違いをしてしまったのだ。嫉妬心から体だけでもと磨きをかけていると言うフローネの言葉を信じてしまった。
以前から距離が近いと言われていた私とフローネはどんどんエスカレートしてしまった。プリエラがその姿を見て眉を顰めるのも、視線を逸らすのも嫉妬だと思ったのだ。
皆に咎められた時は【父上は良くて何故自分は咎められる】と言えば誰も何も言わなくなった。
父上も言っていたのだ。何でも話し合える異性は見つけるのが難しいと。
私はその点フローネには感謝していたのだ。
茶会も少し前に行くようにしていたが、遅れるのは常識がないと言われるが時間丁度であればいいと私は時間まで扉の影に身を潜めて待つようになった。
しかし、王太子教育がまだ終わらないうちにプリエラは王太子妃教育を終えてしまった。登城する回数が激減したプリセラに会えない時間だけ思いが募っていく。
フローネはそんな私に言ったのだ。
「長く会えない後に会えた時って最高よね」
間違いではなかった。茶会の菓子は何が良いだろうと考えたり、たわいもない会話をしたくて敢えて簡単に終わるような議題を考えたり。夜会の前などはプリエラにドレスを贈りたくて堪らなかった。しかしプリエラはドレスも宝飾品も民の税金だからと受け取ってくれなかった。
なのに、夜会には誰に買ってもらったのか違うドレスばかりを着てくる。
「ジョーに妬いてもらいたいのよ。ね?プリエラの本心を知りたくない?」
「本心?どうやって。直接聞いても教えてはくれないよ」
「直接聞くわけないでしょう?お仕置きで何処かに閉じ込めるのよ。そうね…1カ月になると騒ぎにもなるから1週間から10日くらいかな」
「そんなっ!可哀想だよ」
「閉じ込めると言っても貴族牢よ。あそこは滅多に誰も使わないし寝台も家具もあるから大丈夫よ。プリエラの好きな本だってあるし退屈しないと思うわ」
「そんな事をして本当に嫌われたら死にたくなるよ」
「大丈夫だって。あれは君の気を引きたかったからだとか言って抱きしめてやればコロッと落ちるわよ。ほら、幼子が迷子になって親を探す時は大泣きでしょう?好きなおもちゃも放り投げるくらい。でも親が来ると一目散に駆け寄るでしょう?あれよ!」
フローネの言葉に私は乗ってしまった。
知らなかったんだ。プリエラのドレスはリメイクをした着回しだった事も、宝飾品もドレスが違えば見え方も違うって事を。
そしてプリエラの父、ガルティネ公爵は後妻を娶っていてまだ2年ほどなのに、プリエラと3つしか違わない異母妹もいて、公爵家の使用人はきちんと仕事はしてもプリエラの父、ガルティネ公爵が兄を隣国に留学をさせて引き離し、公爵家の私財を食いつぶしていた事も。
そんな事が露見しては困るプリエラの父、ガルティネ公爵がまともに捜索などする筈がないと言う事にも私は気が付かなかった。
プリエラを最後に見てもう1カ月になろうとしている。
何度も探して、ここにいるはずがないのだが、どこかに抜け道でもあるのではと私は貴族牢の壁を叩く。それが無駄な事だと判っていても私は叩かずにはいられなかった。
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