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♡奪われたキス
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狭い寝台。なんとか横向きにならと試しましたが無理で御座いました。
元々がマクシム様が仰向けで寝ればはみ出ているのですから2人は無理で御座います。このような場合、「俺はソファで寝るから」と恋愛歌劇では観た事があるのですが、如何せん。
椅子が寝台なのですから意味が御座いません。
テーブルでわたくしが猫のように丸まって…とも考えたのですがそのテーブルも傾いている上にグラグラしておりまして支える脚が折れそうでございます。
「かなり朽ちてんな‥‥シロアリの餌になったかな」
――貧乏なのに虫を飼う余裕はどこから?――
マクシム様は10日ほど湯あみ、いえ水浴びはされていないとの事ですが、わたくしも似たようなもの。あの茶会の日から牢の中で1週間。幌馬車で12日。それから更に3日。3週間は湯あみをしておりません。
ミントの葉で歯磨きをしていたくらいでございましょうか。
疲れもあったのか、「ままよ!」っとわたくしが上になりその日は就寝致しました。
目覚めたのは、トントンと何かを叩く音で御座います。
何の音だろうと起き上がり気が付きました。わたくし…ドレスを着ておりません!
下着のシュミーズとカルソンだけで寝台を独り占めしておりました。
脱がせてくれたのはマクシム様だと思いますが、お兄様が隣国の女性達が着用していると送ってくださっていたシュミーズとカルソンを着ていて良かったです。
ですが、脱いだドレスが何処にも見当たりません。
下着姿なので家の外に出るのは恥ずかしいのですが、よくよく考えればマクシム様は家の中でも腰布1枚で御座います。どのみち、ドレスがないと困りますが、ドレスを着る時はどうしたら良いのでしょう?
考えるよりもと、寝台を出て僅か7歩。玄関を開けるとマクシム様が木の板を使って何かを作っております。木の板と申しましても平らではなく、竈にくべる薪の倍の長さの木を斧で板状にしているため厚さもまばら。
「マクシム様、おはようございます」
「おぅ!起きたか。もうちょっと待ってろ」
人が1人しゃがんで入れるほどの木の箱を作られると、突然小屋、いえ家屋の壁に穴をあけ始めます。
「何をなさっているのです?!」
「壁に穴をあけてるけど?」
――それは見ればわかります!何故かと言う事です!――
マクシム様の行動はよく判りません。壁の穴におそらくはどこからか拾ってきた折れた剣を差し込み、先程の木の箱にもその剣の反対側を取り付けられました。
「よっし。行くか」
「どこかにお出かけですの?」
「水を汲みに行くついでに流れるようにしようかと思ってな。すまないけど竈に火を入れといてくれ」
「えっ…あの!」
マクシム様は大きな水瓶を2つ背中に背負うと小走りで山に入って行ってしまいました。それは良いのですが困りました。竈に火を入れるにはどうすれば良いのでしょう。
そう言えば昨晩、竈の前にしゃがみこんで何かをしておりました。
公爵家の暖炉ですと火かき棒があるのですが、見当たりません。
何かをカチカチとしていた気がするのですが、お姿を視界に入れてはならぬとした事が裏目に出たようです。
しゃがみ込んで手を打ってみます。パンパン!!
――音が違いますわ――
部屋を見回しますが、唯一の食器である茶器は使われておりませんでしたので却下。
竈を手で叩いてみますがこれも音が違います。
外から薪を持ってきて竈を叩いてみますが、これも音が違います。
――あの音はいったい何?――
悩みに悩んで薪で竈の中をツンツンとしてみますが、灰があるだけで他には何もないようです。そこで、わたくしは「ふぅ~」っと息を吹きかけたのです。
すると、竈の中でなにか小さく赤くなったものが見えました。
しかし、何度も息を吹きかけますが、灰が舞い上がり小さな赤い何かが見えなくなってしまいます。
――近くで息を吹けばいいのかも?――
そう思ったわたくしは、竈の中に頭を入れようしたのですが…。
「なにやってんだ!!」
大声でマクシム様がわたくしを呼び、そして何故か抱きしめたのです。
ギュウギュウと抱きしめられて大変に苦しいのですが、マクシム様の力は緩みません。
「ここが嫌なのはわかる。朝のキスだって不可抗力だったんだ。起きたら君の顔が目の前にあって触れてしまっただけだ。嫌だったのは判った。謝るから!死のうなんてするな!」
いえいえいえ。お待ちくださいませ?わたくし、竈に火をと色々やっていただけで御座いますが、「キス」とは何でございましょう?全く身に覚えが御座いません。
「あの…マクシム様…」
「判ってる。好きでもない男と一緒なんだから気持ちはわかる。だが命を無駄にすることはやめてくれ。あんなものは事故だ。事故なんだ!」
「お待ちくださいませ。その…キスとはいったい…」
「朝、目が覚めて君をどかそうとした時に唇が触れた」
「ハッ!!!」
わたくし、知らない間にキスをしていたので御座いますね。
ですが、思ったよりも衝撃は少ない気がします。それよりも…
「あ、あの…キスの件は判りました。謝罪を受け入れます。それでですね…申し訳ございません。竈に火をと頼まれたのですが、どうしてよいか判らず未だに…こちらこそ申し訳ございません」
「え…自死しようとしてたんじゃないって事か?」
「そんな事しません!する理由も御座いません。わたくしは竈に――」
「する理由がないって…フギュッ‥‥そ、それは…」
どうされたのでしょう?急に口元を抑えて、顔を背けてしまわれました。
状況を見て、わたくし己の失敗を理解致しました。息を吹きかけ過ぎて灰が舞っているのです。きっと苦しいのですね。わたくしも何度か咳き込んでしまいましたし。
「マクシム様、息を――(ブチュっ♡!)」
――にゃにをされるのです!!どうして口付けを?!――
「責任を取るよ。キスだけだと言っても女性にとっては大切な貞操だ。奪ってしまった以上、この先必ず幸せにする。何か欲しいものはあるか?」
――御不浄――
思わず本音が出そうになりましたが、マクシム様は律儀な方のようです。
キスをしていたというのは少々ショックではございますが、水を汲むのに濡れたのでしょう。前髪を全て後ろに流しているマクシム様。御髭は御座いますが…まさかの美丈夫?
いえ、いけません。切れ長の黒い瞳だったからといってキュンしてはいけません。
それよりも、下着姿のわたくしと、腰布一枚のマクシム様。
この状態を誰かに見られる方が余程に問題だと思うのです。
わたくしの薪を持っている手をそっと外側から包み込み、うっとりとわたくしをみるマクシム様。なにか要素があったのでしょうか。
いえいえ、それよりも。
「あの…竈にまだ火が…」
「俺がやるから、水瓶の水を木の箱へ移してくれないか」
「承知致しましたわ」
何故かわたくしの髪をひと房手に取るとキスを落とされます。
「薪は小さな木のトゲがある。手を痛めてはいけないからもう薪は触ってはダメだ」
――それは竈の火起こし戦力外通告でございますの?――
しかし、他にも戦力外通告はございました。
水瓶、持ち上がらないどころかピクリとも致しません。
「おーい!水はいれたかぁ?」
「はぁい!今すぐっ…うっ…うっ…ぐぬぅぅ!!」
結局全く動かなかった水瓶。マクシム様が来て下さり軽々と木の箱の中に入っていきます。
「わたくし…竈の火も、水瓶から水を移すのも…何も出来ませんでした。申し訳ございません」
「いいんだよ」
「ところで、この木の箱は何で御座いましょう?」
調理をするには大きすぎますし、何より小屋、いえ家屋の外なのです。
いったいこれは…
「湯あみしたいんだろ?」
「これは…まさか…湯船?わたくしの為に…」
「俺が街に行くのは半年後だからな。その間、滝壺はきついだろ」
あと5日で迎えが来るとは言えませんでした。わたくしは卑怯者でございます。
水で整えて丁度の温度になると下着姿のままで御座いましたがマクシム様が抱えて木の箱に入れて下さり、叔父様が持ってきてくださったという洗髪剤で髪を洗ってくださいました。
が‥‥。
木の箱から出た後、わたくしは何を着れば良いのでしょう?
元々がマクシム様が仰向けで寝ればはみ出ているのですから2人は無理で御座います。このような場合、「俺はソファで寝るから」と恋愛歌劇では観た事があるのですが、如何せん。
椅子が寝台なのですから意味が御座いません。
テーブルでわたくしが猫のように丸まって…とも考えたのですがそのテーブルも傾いている上にグラグラしておりまして支える脚が折れそうでございます。
「かなり朽ちてんな‥‥シロアリの餌になったかな」
――貧乏なのに虫を飼う余裕はどこから?――
マクシム様は10日ほど湯あみ、いえ水浴びはされていないとの事ですが、わたくしも似たようなもの。あの茶会の日から牢の中で1週間。幌馬車で12日。それから更に3日。3週間は湯あみをしておりません。
ミントの葉で歯磨きをしていたくらいでございましょうか。
疲れもあったのか、「ままよ!」っとわたくしが上になりその日は就寝致しました。
目覚めたのは、トントンと何かを叩く音で御座います。
何の音だろうと起き上がり気が付きました。わたくし…ドレスを着ておりません!
下着のシュミーズとカルソンだけで寝台を独り占めしておりました。
脱がせてくれたのはマクシム様だと思いますが、お兄様が隣国の女性達が着用していると送ってくださっていたシュミーズとカルソンを着ていて良かったです。
ですが、脱いだドレスが何処にも見当たりません。
下着姿なので家の外に出るのは恥ずかしいのですが、よくよく考えればマクシム様は家の中でも腰布1枚で御座います。どのみち、ドレスがないと困りますが、ドレスを着る時はどうしたら良いのでしょう?
考えるよりもと、寝台を出て僅か7歩。玄関を開けるとマクシム様が木の板を使って何かを作っております。木の板と申しましても平らではなく、竈にくべる薪の倍の長さの木を斧で板状にしているため厚さもまばら。
「マクシム様、おはようございます」
「おぅ!起きたか。もうちょっと待ってろ」
人が1人しゃがんで入れるほどの木の箱を作られると、突然小屋、いえ家屋の壁に穴をあけ始めます。
「何をなさっているのです?!」
「壁に穴をあけてるけど?」
――それは見ればわかります!何故かと言う事です!――
マクシム様の行動はよく判りません。壁の穴におそらくはどこからか拾ってきた折れた剣を差し込み、先程の木の箱にもその剣の反対側を取り付けられました。
「よっし。行くか」
「どこかにお出かけですの?」
「水を汲みに行くついでに流れるようにしようかと思ってな。すまないけど竈に火を入れといてくれ」
「えっ…あの!」
マクシム様は大きな水瓶を2つ背中に背負うと小走りで山に入って行ってしまいました。それは良いのですが困りました。竈に火を入れるにはどうすれば良いのでしょう。
そう言えば昨晩、竈の前にしゃがみこんで何かをしておりました。
公爵家の暖炉ですと火かき棒があるのですが、見当たりません。
何かをカチカチとしていた気がするのですが、お姿を視界に入れてはならぬとした事が裏目に出たようです。
しゃがみ込んで手を打ってみます。パンパン!!
――音が違いますわ――
部屋を見回しますが、唯一の食器である茶器は使われておりませんでしたので却下。
竈を手で叩いてみますがこれも音が違います。
外から薪を持ってきて竈を叩いてみますが、これも音が違います。
――あの音はいったい何?――
悩みに悩んで薪で竈の中をツンツンとしてみますが、灰があるだけで他には何もないようです。そこで、わたくしは「ふぅ~」っと息を吹きかけたのです。
すると、竈の中でなにか小さく赤くなったものが見えました。
しかし、何度も息を吹きかけますが、灰が舞い上がり小さな赤い何かが見えなくなってしまいます。
――近くで息を吹けばいいのかも?――
そう思ったわたくしは、竈の中に頭を入れようしたのですが…。
「なにやってんだ!!」
大声でマクシム様がわたくしを呼び、そして何故か抱きしめたのです。
ギュウギュウと抱きしめられて大変に苦しいのですが、マクシム様の力は緩みません。
「ここが嫌なのはわかる。朝のキスだって不可抗力だったんだ。起きたら君の顔が目の前にあって触れてしまっただけだ。嫌だったのは判った。謝るから!死のうなんてするな!」
いえいえいえ。お待ちくださいませ?わたくし、竈に火をと色々やっていただけで御座いますが、「キス」とは何でございましょう?全く身に覚えが御座いません。
「あの…マクシム様…」
「判ってる。好きでもない男と一緒なんだから気持ちはわかる。だが命を無駄にすることはやめてくれ。あんなものは事故だ。事故なんだ!」
「お待ちくださいませ。その…キスとはいったい…」
「朝、目が覚めて君をどかそうとした時に唇が触れた」
「ハッ!!!」
わたくし、知らない間にキスをしていたので御座いますね。
ですが、思ったよりも衝撃は少ない気がします。それよりも…
「あ、あの…キスの件は判りました。謝罪を受け入れます。それでですね…申し訳ございません。竈に火をと頼まれたのですが、どうしてよいか判らず未だに…こちらこそ申し訳ございません」
「え…自死しようとしてたんじゃないって事か?」
「そんな事しません!する理由も御座いません。わたくしは竈に――」
「する理由がないって…フギュッ‥‥そ、それは…」
どうされたのでしょう?急に口元を抑えて、顔を背けてしまわれました。
状況を見て、わたくし己の失敗を理解致しました。息を吹きかけ過ぎて灰が舞っているのです。きっと苦しいのですね。わたくしも何度か咳き込んでしまいましたし。
「マクシム様、息を――(ブチュっ♡!)」
――にゃにをされるのです!!どうして口付けを?!――
「責任を取るよ。キスだけだと言っても女性にとっては大切な貞操だ。奪ってしまった以上、この先必ず幸せにする。何か欲しいものはあるか?」
――御不浄――
思わず本音が出そうになりましたが、マクシム様は律儀な方のようです。
キスをしていたというのは少々ショックではございますが、水を汲むのに濡れたのでしょう。前髪を全て後ろに流しているマクシム様。御髭は御座いますが…まさかの美丈夫?
いえ、いけません。切れ長の黒い瞳だったからといってキュンしてはいけません。
それよりも、下着姿のわたくしと、腰布一枚のマクシム様。
この状態を誰かに見られる方が余程に問題だと思うのです。
わたくしの薪を持っている手をそっと外側から包み込み、うっとりとわたくしをみるマクシム様。なにか要素があったのでしょうか。
いえいえ、それよりも。
「あの…竈にまだ火が…」
「俺がやるから、水瓶の水を木の箱へ移してくれないか」
「承知致しましたわ」
何故かわたくしの髪をひと房手に取るとキスを落とされます。
「薪は小さな木のトゲがある。手を痛めてはいけないからもう薪は触ってはダメだ」
――それは竈の火起こし戦力外通告でございますの?――
しかし、他にも戦力外通告はございました。
水瓶、持ち上がらないどころかピクリとも致しません。
「おーい!水はいれたかぁ?」
「はぁい!今すぐっ…うっ…うっ…ぐぬぅぅ!!」
結局全く動かなかった水瓶。マクシム様が来て下さり軽々と木の箱の中に入っていきます。
「わたくし…竈の火も、水瓶から水を移すのも…何も出来ませんでした。申し訳ございません」
「いいんだよ」
「ところで、この木の箱は何で御座いましょう?」
調理をするには大きすぎますし、何より小屋、いえ家屋の外なのです。
いったいこれは…
「湯あみしたいんだろ?」
「これは…まさか…湯船?わたくしの為に…」
「俺が街に行くのは半年後だからな。その間、滝壺はきついだろ」
あと5日で迎えが来るとは言えませんでした。わたくしは卑怯者でございます。
水で整えて丁度の温度になると下着姿のままで御座いましたがマクシム様が抱えて木の箱に入れて下さり、叔父様が持ってきてくださったという洗髪剤で髪を洗ってくださいました。
が‥‥。
木の箱から出た後、わたくしは何を着れば良いのでしょう?
応援ありがとうございます!
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