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第1章 今日、あなたにさようならを言う

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 辛い話はグダグダ経過説明せずに、肝心なところだけ聞かせればいい。
 それに、とにかく時間に余裕はない。
 朝王都を出て6時間、奴等はクレストンに14時半着の列車に乗ってくるだろう。

 モニカだけを迎えに行くのなら、いつものくたびれた馬車でもいいけれど、エドワーズ侯爵ご一家もお越しになるのだ。
 最新型ではなくても、車でお迎えに行って貰わなくては。
 それを見たモニカの出端を挫いて欲しい。


「モニカはひとりで帰ると連絡してると思うけれど、本当は婚約者とその方のご両親と一緒に、4人で帰るから」

「モニカお嬢様がご婚約、と仰せになりましたか?」

「婚約者は2年前、ウチに避暑に来ていたハイパー先輩。
 ふたりは昨夜婚約したの」

「……ハイパー様のご両親がお見えになると言うことは、エドワーズ侯爵ご夫妻がノックスヒルへ?
 モニカお嬢様からは、何も伺ってはおりませんが」

「モニカはウチの両親が、自分から奪った伯爵位には相応しくないのでは、と閣下に思わせたいのよ。
 その為にもわざと知らせないで、驚くお父様が恥をかく姿をお見せしたいのでしょう。
 ……もしもモニカが法的に訴えることを視野に入れているなら、閣下のお力を借りるでしょうね」

「……」


 サプライズで驚かせたかったから、と言い訳すると思われるモニカの魂胆を隠す謂れはないので、さっさとクリフォードに教えた。 
 それを聞いたクリフォードは無言だった。
 彼は今、受話器を握り締めて、どんな表情をしているのだろうか。


 わたしは今の情報が、クリフォードの中に浸透していく時間を計ってから、続けた。


「わたしの両親が恥をかかなくてすむように、お願い出来るかしら?
 全ては貴方に、かかっているの」

「かしこまりました。
 お任せくださいませ」


 短い通話だったがこれで大丈夫、クリフォードがお任せください、と言ったのだ。

 わたしがいちいち言わなくても、彼は完璧に対処する。
 これからノックスヒルの使用人一同を総動員して、侯爵ご夫妻をお迎えする準備に取りかかるだろう。


 侯爵閣下に相応しい最高級のおもてなし、で。


 ◇◇◇


 お任せください、と言ってくれたクリフォードに、明日の夜また電話するから、と電話を切った。
 母と共に、前伯爵の負債返済のために倹約第一に励む彼は、長距離電話を短時間で終わらせようと、わたしへの報告内容を事前に書き出して、それを電話口で読み上げるのではないだろうか。


 クリフォードからモニカの思惑を聞かされた両親の傷心を思うと胸が痛む。
 酷なようだが、両親にも弟にも、あの人達を迎え撃つ心の準備をしてもらわないと、一方的にやられてしまう。


 わたしも今すぐにでもクレイトンに帰りたかった。
 そしてかわいがっていた姪の本当の気持ちを初めて知って、落ち込んでいるであろう両親の傍に寄り添いたかったが、来月には前期末試験があり、それが終わると新年までクリスマス休暇になるので、それまで帰郷するのは我慢する。


 その頃にはパピーのことも、落ち着いているだろう。
 背中の傷が消えて、心の傷が癒えて(フィリップスさんの様子からはこのての傷はなかなか癒えないのは想像がついたが)、元気になったら。
 警察に連れていって……

 でも、もし嫌だと泣いて、わたしと離れたくないとすがってくれるなら……
 クレイトンへ連れていこうか。

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