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第2章 いつか、あなたに会う日まで

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「私はねぇ、アレ、オルシアナスの小僧が入学してくるまで、最年少記録入学者だったんですよ。
 学院創設以来、最高の魔法士になるだろうと言われまして、魔法判定を受けた後、頭を下げられて入学しました」


「放蕩者の外国人ギュンター・フラウ、後のグーテンダルク伯爵に遊ばれて捨てられた母は、昔流行っていたコーヒーハウスと呼ばれる男性専用社交クラブの女給でした。
 ひとりで私を育ててくれていた母と住んでいたのは、小屋みたいな家で。
 離れるのは辛かったけれど、結構な額の年金を貧しい母に渡せるのが嬉しかったんです」


「魔法学院は学費が無料なのは全員だけれど、成績上位者は家族年金が出る、って知ってます?
 その意味は分かりますか?
 突出して魔力の強い子供は国が囲いこんで、親元には2度と返さない。
 返さない代わりに生涯年金を与えるから、子供は諦めろ、ってこと。
 子供を魔法鑑定に出したくないのは、国に取られるのが嫌だからと言う親もいるらしいけれど、大体は喜んで差し出すんです。
 我が子を死ぬまで国に売るんですよ、名誉と金です」


「母は卒業したら年金は要らないから、家に帰ってきてと泣いてくれたけれど、どこからかギュンターが私のことを聞きつけましてね。
 あっという間に認知してフラウ家の籍に入れられました。
 おかしいでしょう? 私は1度もフラウ家の奴等に会ったことはないんですよ?
 話す言語だって違っていて、それなのに、長男だって……
 正妻が産んだヒルデって娘より年上なのが笑えますよね?」


「それから直ぐに、母の小屋は燃えた、と連絡が来て。
 私の家族年金の受け取りはギュンターに書き替えられていて。
 母の権利譲渡のサインが書類にあったけれど、無理矢理書かせたのは分かります」




「その火事で、お母様は……」

「いつか、こいつらを片付ける時は燃やす、とその時に決めたんです」





 どんどん話が凄惨な様相を帯びてくる予感がして、正直もう聞きたくなかった。
 侯爵と協力した犯罪のひとつひとつを説明してくれなくてもいいから、と言いたいのに。
 ヨエルは何かに取り憑かれた様に話し続けた。



「アレが入ってくるまで、毎日が面白くなくて。
 小遣い稼ぎに悪い大人と仲良くなって、セドリックとも知り合いました。
 兄貴が邪魔だって言うから、作った毒を試しに使ってみる?って言ったら、喜んで。
 まぁ、こっちは臨床データが取れるし、軽い気持ちで売ったんです」


 軽い気持ちで毒を売った。
 試しで毒を飲ませた兄は2ヶ月寝込んで死んだ、と侯爵は喜んで報告したのか。
 狂人と殺人者が相棒になった瞬間だ。



「……その時、貴方はいくつだったんですか」

「12、13かな? 母が死んで、何もかもどうでも良くなってきてました。
 もうねぇ、普通の魔法なんてつまらなくて」

「侯爵のお兄さんの毒殺の前には、父親のギュンター・フラウを侯爵に紹介していますよね?
 次男のシドニーが義妹さんとの婚約中に、10歳で亡くなっていて。
 それまでにフラウ家は結構な額を支援していた、と聞いています」

「あぁ、そっちが先だったかな?
 自分のことなのに、ちゃんと覚えて無いもんですねぇ。
 ギュンターの頭の中をいじくって、ヒルデとシドニーを婚約させて、私の年金を返還させただけですよ。
 婚約者への支援なら調べられても怪しまれないですからね。
 ……そうだな、セドリック以外の他の奴等からの依頼内容も教えましょうか。
 高位貴族ってのは、まともな人間はいませんよ」


 そう言ってわたしを見るので、仕方なく笑顔を作った。
 狂った男に合わせてお愛想笑い、地獄だ。
 早く誰か、この地獄から助け出して欲しい。



「私の話はつまらない?
 じゃあアレの話をしてあげましょうか……あの生意気な小僧のね。
 アレが学院に入ってきたのは途中からでしたよ。
 遅れて入ってきたのに、同じ学年の年上の奴等をあっという間に追い抜かして。
 このまま卒業したら、最年少で王族専属だ、って。
 皆から特別扱いされて、本当に目障りな小僧でした」


「私もねぇ、同じ様に期待されていたのに、どういうわけか卒業しても声が掛からなくて、何故か後進の指導教官をしろ、と学院に残されて。
 まぁ、それも最年少での教官だから名誉ではあったんですけれど」


 ……スピネルは尖った角を持つ8面体の結晶だ。
 学院生の頃から彼は、その性格からあちこちでぶつかって、鋭いトゲで相手を傷付けてきたのだろう。
 瞳の色からだけじゃない、スピネルと呼ばれたのは。
 そんな人間を王族が専属にするわけがない。


「それで主にアレの指導を任されていたんですが。
 天才と呼ばれた私が14でマスターした術を11のアレがモノにしていく、それを間近で見る、って結構きつかったですねぇ」


「アレは難しい性格なのかと思っていたら、案外良くしゃべるヤツで。
 君の話は同じことを何度も聞かされましたよ。
 だってほんの何時間かしか、会ってないんでしょう?
 そんな少ししか会ってない女の話を、繰り返しするわけですよ。
 馬鹿か、と思いましたね。
 これからいくらだって、あっちから群がってくる良い女達を抱けるぞ、と教えても。
 一生ひとりだけと決めているから、ってぬけぬけとほざくんです。
 君、10歳のガキ相手に何をやったんです?
 忘れられないような、よほどいいことしてやったのかな?
 どんなテクニックを使ったのか、私にも教えてくださいよ?」


 冗談にもならない酷い言い草に、ヨエルを睨み付けた。
 返事をするのも穢らわしい。

 そんなわたしの反応を見て、ますます楽しそうなヨエルはわたしの顎を掴んだ。

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