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第8章 セクサロイド

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「助けてくれないなら、何故あれこれ聞くんです?」

 僕は少し腹立たしくなって言った。

「リスクを把握しておく必要はあるし、きみの支えになりたい」

「介入できないと言ったじゃないですか」

「介入はできない。しかし、きみが少しでも心穏やかに過ごせるように力になりたいんだ」

「と、いうと?」

「話を聞いたり──」

 僕が明らかに落胆してみせたので、彼は辛抱強そうな表情をして身を乗り出した。

「薬を処方することもできる。辛い気持ちを軽くしたり、夜ぐっすり眠れるようにしたり、痛みを抑える薬もある」

「痛みを抑える薬?」

 それは僕の興味を引いた。

「そうだ、たとえば火傷が痛くて眠れない夜、鎮痛剤と睡眠導入剤を飲めば眠れるようになる。そうすれば、きみの生活の質は改善するだろう?」

「対処療法ですね」

「姑息的手段だが……これでも、きみたちの福祉の向上のために努力してるんだよ。少しずつだけど前進はしている。十年前は十六歳未満どころか、毛も生えていない子供に苦痛を伴うプレイが行われているのを知っていても何もできなかった。あの頃よりは良くなっている」

「なんだか、すごくおかしな話だ」

 そういった僕の顔には薄笑いが浮かんでいたと思う。

「人間にやったら人権侵害になることや、倫理や法律の問題で人間にはできないことをするために僕たちは作られた。僕たちを作り出したシステムの中枢がセンターだ。そのセンターの人が、僕たちの福祉の向上のために努力しているだなんて」

「人類は一枚岩ではない。日本の人口だけで六千五百万人もいるんだ。その中には奉仕者制度に疑問を持つ者もいる」 

 彼はミネラルウォーターを一口飲むと、話をつづけた。

「センターの現場で働く人々の多くは、働き始める前からきみたちのことや制度に関心を持っていて、良い方向に変えたいと考えている。そうじゃなければ、わざわざここで働こうとは思わないだろう」

 そのときまで僕は、仕事を選べる人間が、センターやその関連機関で働く意味を考えたことはなかった。
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