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大好きだよ、だからさよならと言ったんだ
22話
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あれから八年の時が過ぎた。
征弥は別れた後、更なる快進撃を見せ、あっという間に頂点に登り詰めた。
別れて正解だったのだと、輝く征弥を見て結人は思った。そして結人もがむしゃらに仕事に邁進した。征弥との唯一の繋がりであるAceを何としてでも征弥に相応しいトップグループにしたいという思いに取り憑かれたように仕事をした。
別れて半年ほどは殆ど口も利かず、目を合わせることもなかった。だが、暫く時が過ぎてからは、仕事のことでは連絡事項を伝え合うくらいには出来るようになったし、更にもう少し過ぎてからは、仕事の相談は出来るようになっていった。征弥もAceに対しては大切な想いがあったのだと思う。本当に困ったときの相談は征弥にするのが一番いい答えが貰えた。
そして、Aceは名実共にNO.1のアイドルグループにのしあがった。最初は征弥の人気に頼るところが多かったが、今では他のメンバーも立派に成長した。未だ征弥中心のグループであることは否めないが、征弥に相応しいグループとなった。
結人は唯一の宝物と引き換えに征弥と作り上げたAceを殊更大切に思っていた。
映画は終わってエンドロールが流れ始めた。
『Masaya Kitahara』の文字が嬉しくて、嬉しくて、同時に寂しくもあった。
とうとう征弥は夢を叶えるのだ。そのために手を離したのだから、結人は嬉しくて嬉しくて仕方がないはずなのに、物理的にも傍にいられなくなるのだと、本当にもう他人同士になってしまうのだと思うと、いつもはきつく心に巻いてある包帯にじわり、と血が滲むのを感じた。
わかりきっていたことだが、こんなにもまだ征弥のことが好きなのだと、結人は途方に暮れるような思いだった。
きっとさすがに離れたら忘れられる。あんな凄い男に恋をしてしまって、今更他の誰かを好きになれるなんて思えないけれど。
「結ちゃん、大丈夫なの?」
Aceの冠番組の一つであるバラエティ番組。結人と尚の二人のコーナーの収録の休憩時間に、唐突に尚が切り出した。
「何が?」
何のことかなんて予想はついていたけれど、何て言ったらいいか分からず結人はパイプ椅子に座ったまま、立っている尚を見上げてにそう聞き返した。
「征弥がアメリカ行っちゃうことだよ。結ちゃんもう知ってるんだろ?」
「大丈夫も何も俺達仲悪かったから、せいせいするよ」
そう言って結人は笑って見せた。
「そうじゃなくて!」
「征弥が抜けたらグループとして不安ってこと?尚。自信ないのか?正直征弥が抜けるのは痛いけど、俺達もそろそろ四人でも大丈夫……」
結人が続けると、温厚な尚が焦れたように大きな声を出した。
「ばかっ!そうじゃないよ!結ちゃん、本当にいいの?好きなんじゃないの?」
余りに大きな声にスタッフ達が振り返り、尚も自分の口をそっと抑えた。小さくごめん、と言った尚に
「俺、好きなやつなんていねぇもん」
結人も唇を尖らせ小さく呟いた。
「僕にそんな子供みたいな嘘吐いたって無駄だよ。知らなかったとでも思う?」
いつもの尚の口調とは違う、厳しい声で言われて思わず顔を上げる。
「誰から聞いて……」
「誰からも聞いてないけど!わかるよ。二人が愛し合ってたのに、突然おかしくなって
二人とも仕事ばっかりになって。大人に別れさせられたなんて傍にいたら誰だってわかる」
「………でももう何年も前にも終わったことだ。あいつその間に何人の女と噂になったんだよ。あいつに取ったら俺とのことなんて、若気の至り以外の何ものでもないだろ」
いつもはこの業界で苦労してきたせいか、若く見えるその容姿と違い、年齢よりずっと上に感じる結人の内面。だが征弥のこととなると途端に年相応かそれ以下まで若返ってしまう。それに対して尚は子供を諭すように言う。
「ドラマや映画の宣伝のための噂も多いし、征弥が本気だった人なんて結ちゃん以外誰も居ないって結ちゃんが一番知ってるんじゃないの?」
「……そんなの、知らない……」
「結ちゃん」
母親が子供を注意するときのような声に結人は何だか泣きそうになった。
「今までは時間が何とかしてくれるかもしれないと思ってきたけれど、征弥行っちゃうんだよ。もう見てらんないよ。アメリカ行っちゃったら、もう同じグループの仲間じゃなくなるんだよ?結ちゃんそれで本当にいいの?」
結人は自分の指先を見ながら言った。
「いいんだ……これで漸く終わりに出来る」
「結ちゃん!」
尚の瞳からぽろぽろと涙が零れた。
「ばか、何でお前が泣くんだよ」
苦笑して結人は近くのテーブルに無造作に放られていたボックススティッシュから一枚引き抜き尚の頬を拭ってやる。
「結ちゃんがそんな顔してるのに泣かないからだろっ」
涙を我慢することに慣れすぎてしまって、涙なんか出なくなってしまった。
「結ちゃん、失くしてから気付いたって遅いんだよ……」
尚の言葉に、もう失くしちゃったんだから無理なんだ、と言えばもっと尚を泣かせてしまいそうで言えなかった。
征弥は別れた後、更なる快進撃を見せ、あっという間に頂点に登り詰めた。
別れて正解だったのだと、輝く征弥を見て結人は思った。そして結人もがむしゃらに仕事に邁進した。征弥との唯一の繋がりであるAceを何としてでも征弥に相応しいトップグループにしたいという思いに取り憑かれたように仕事をした。
別れて半年ほどは殆ど口も利かず、目を合わせることもなかった。だが、暫く時が過ぎてからは、仕事のことでは連絡事項を伝え合うくらいには出来るようになったし、更にもう少し過ぎてからは、仕事の相談は出来るようになっていった。征弥もAceに対しては大切な想いがあったのだと思う。本当に困ったときの相談は征弥にするのが一番いい答えが貰えた。
そして、Aceは名実共にNO.1のアイドルグループにのしあがった。最初は征弥の人気に頼るところが多かったが、今では他のメンバーも立派に成長した。未だ征弥中心のグループであることは否めないが、征弥に相応しいグループとなった。
結人は唯一の宝物と引き換えに征弥と作り上げたAceを殊更大切に思っていた。
映画は終わってエンドロールが流れ始めた。
『Masaya Kitahara』の文字が嬉しくて、嬉しくて、同時に寂しくもあった。
とうとう征弥は夢を叶えるのだ。そのために手を離したのだから、結人は嬉しくて嬉しくて仕方がないはずなのに、物理的にも傍にいられなくなるのだと、本当にもう他人同士になってしまうのだと思うと、いつもはきつく心に巻いてある包帯にじわり、と血が滲むのを感じた。
わかりきっていたことだが、こんなにもまだ征弥のことが好きなのだと、結人は途方に暮れるような思いだった。
きっとさすがに離れたら忘れられる。あんな凄い男に恋をしてしまって、今更他の誰かを好きになれるなんて思えないけれど。
「結ちゃん、大丈夫なの?」
Aceの冠番組の一つであるバラエティ番組。結人と尚の二人のコーナーの収録の休憩時間に、唐突に尚が切り出した。
「何が?」
何のことかなんて予想はついていたけれど、何て言ったらいいか分からず結人はパイプ椅子に座ったまま、立っている尚を見上げてにそう聞き返した。
「征弥がアメリカ行っちゃうことだよ。結ちゃんもう知ってるんだろ?」
「大丈夫も何も俺達仲悪かったから、せいせいするよ」
そう言って結人は笑って見せた。
「そうじゃなくて!」
「征弥が抜けたらグループとして不安ってこと?尚。自信ないのか?正直征弥が抜けるのは痛いけど、俺達もそろそろ四人でも大丈夫……」
結人が続けると、温厚な尚が焦れたように大きな声を出した。
「ばかっ!そうじゃないよ!結ちゃん、本当にいいの?好きなんじゃないの?」
余りに大きな声にスタッフ達が振り返り、尚も自分の口をそっと抑えた。小さくごめん、と言った尚に
「俺、好きなやつなんていねぇもん」
結人も唇を尖らせ小さく呟いた。
「僕にそんな子供みたいな嘘吐いたって無駄だよ。知らなかったとでも思う?」
いつもの尚の口調とは違う、厳しい声で言われて思わず顔を上げる。
「誰から聞いて……」
「誰からも聞いてないけど!わかるよ。二人が愛し合ってたのに、突然おかしくなって
二人とも仕事ばっかりになって。大人に別れさせられたなんて傍にいたら誰だってわかる」
「………でももう何年も前にも終わったことだ。あいつその間に何人の女と噂になったんだよ。あいつに取ったら俺とのことなんて、若気の至り以外の何ものでもないだろ」
いつもはこの業界で苦労してきたせいか、若く見えるその容姿と違い、年齢よりずっと上に感じる結人の内面。だが征弥のこととなると途端に年相応かそれ以下まで若返ってしまう。それに対して尚は子供を諭すように言う。
「ドラマや映画の宣伝のための噂も多いし、征弥が本気だった人なんて結ちゃん以外誰も居ないって結ちゃんが一番知ってるんじゃないの?」
「……そんなの、知らない……」
「結ちゃん」
母親が子供を注意するときのような声に結人は何だか泣きそうになった。
「今までは時間が何とかしてくれるかもしれないと思ってきたけれど、征弥行っちゃうんだよ。もう見てらんないよ。アメリカ行っちゃったら、もう同じグループの仲間じゃなくなるんだよ?結ちゃんそれで本当にいいの?」
結人は自分の指先を見ながら言った。
「いいんだ……これで漸く終わりに出来る」
「結ちゃん!」
尚の瞳からぽろぽろと涙が零れた。
「ばか、何でお前が泣くんだよ」
苦笑して結人は近くのテーブルに無造作に放られていたボックススティッシュから一枚引き抜き尚の頬を拭ってやる。
「結ちゃんがそんな顔してるのに泣かないからだろっ」
涙を我慢することに慣れすぎてしまって、涙なんか出なくなってしまった。
「結ちゃん、失くしてから気付いたって遅いんだよ……」
尚の言葉に、もう失くしちゃったんだから無理なんだ、と言えばもっと尚を泣かせてしまいそうで言えなかった。
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