成長チートになったので、生産職も極めます!

雪華慧太

文字の大きさ
81 / 254
連載

236、死への前奏曲

しおりを挟む
「……来るぜ」

 ライアンは、この領域の支配者を見つめながら大槍を構えた。
 静かに広がったクイーンの翼。
 その瞬間、広間の空間自体が振動するような感覚をエイジは感じた。

 ギィイイイイイイイイイ!!

 それと合わせるように、数十体のパラサイトアントが一斉に鳴き声を上げる。
 その声は明らかに殺意に満ちていた。
 アンジェはそれを見て身構える。

「エリク!」

「まだです、アンジェ」

 一方で、オリビアは冷静な瞳でクイーンの巨大な羽を見つめていた。
 大気の振動はそこから作り出されている。
 人の耳には届かないほどの高い音。
 その超音波が群れを支配しているのだ。
 リザードドラゴンの背に張り付いている寄生生物たちは、宿主に大量の分泌液を注入し始める。
 それによって、小型のドラゴンたちの目が真紅に染まっていくのが見えた。

「宿主に理性を失わせるほどの分泌液を注入しているわ。あれはもうただの殺戮マシーンよ」

 ライアンが大槍を握りしめた。

「おい、あいつら俺たちを殺す気満々だぜ。そろそろいいんじゃねえか? エリク先輩」

「待ちなさいライアン。もう少しです」

 宿主たちの瞳から完全に理性が消えていく。
 だが、まだ動く気配はない。
 その時、大気の振動がやんだ。
 女王の羽の動きが止まったのだ。
 そして、次の瞬間──!
 先程よりもさらに大気が激しく振動する。
 今までクイーンの羽が奏でていたものが死へのプレリュードだとしたら、これはまさに殺戮を命じる組曲と言えるだろう。
 エリクが叫んだ。

「今です! ライアンとオリビアは右、エイジとアンジェは左へ回り込んでください!!」

 疾走する四つの人影。
 左右の先陣を切ったのは、アンジェとオリビアだ。
 ライアンとエイジもその後に続く。
 殺戮マシーンと化したリザードドラゴンたちも、一斉に動き始める。
 クイーンが羽音で命じたからだろう。

『侵入者を皆殺しにせよ』、と。

 エイジたちは走りながら先程の小さな筒を手に握り、その先にあるピンのようなものを抜いた。
 その筒の表面には魔法陣が描かれている。
 ピンを抜いた瞬間に筒の表面に描かれているそれは、光り始めた。

「気を付けて! 魔方陣が光を放ったら、三秒後には発動するわよ!」

 オリビアが走りながらそう叫ぶと、それを群れの頭上に向かって投げる。

「言われなくても、分かってるわよ!」
 
 ほぼ同時に、アンジェも反対方向からそれを魔物の集団の上に放り投げた。
 エイジとライアンもそれに続く。
 まるで魔物の群れを四方から囲むようにして、それを投げ込んだ四人。
 手りゅう弾のように投げ込まれたその四つの筒は、空中で閃光を放つ。
 爆発するように弾けると、筒の中から霧のような蒸気が辺りにまき散らされる。
 その光景を見てリアナが言った。

「あれが……」

「ええ、クイーンが放つ特殊なフェロモンを凝縮して封入した魔具を群れの上空で破裂させたんです。霧状になって彼らの頭の上に降り注ぐようにね。もちろん別のクイーンの分泌物ですが、それに意味があるんです」

 エリスが、群れの様子の異変を見て取った。

「見て! あれを!!」

 凄まじい咆哮がいたるところから上がった。
 隣の魔物の首に喰らいつくリザードドラゴンの姿が、そこら中に見て取れる。
 エリクは頷く。

「パラサイトアントは一つの群れに二匹の女王の存在を許さない。万が一にも他の女王が誕生した時は、その抹殺が群れの最優先事項になるんですよ」

 シェリルはそれを見つめながら同意する。

「宿主に寄生するパラサイトアントはみんなメスにゃ。連中は別の女王の匂いがするメスを、絶対に許さにゃいにゃ!」

「女王の羽音は殺戮を命じている。ですが、そのターゲットは私たちより優先順位の高い存在に切り替わったわけです。絶対的な支配を誇る彼女としてみたら、許しがたいことでしょうね」

 目の前で次々に同士討ちをする魔物の姿。
 殺戮マシーンと化したことが、寧ろ仇になったと言えるだろう。
 あっという間に群れは自らの手で殲滅されていく。
 そして僅かに生き残った数体の魔物を、巨大な赤い尾が横薙ぎに吹き飛ばした。

 ギィイイイイイイイイイイイ!!

 巨大な女王蟻がそう咆哮すると同時に、その宿主である真紅のドラゴンはエリクに向かって突進した。
しおりを挟む
感想 665

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。