成長チートになったので、生産職も極めます!

雪華慧太

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連載

289、ダークエルフのおまじない

「エイジ、ちょっと待って!」

 節目でもある地下六十階層に足を踏み入れようとするエイジに、アンジェは声をかけた。
 振り返るエイジ。

「どうした? アンジェ」

 エイジ自身も自分の心がはやっていることに気が付き、ハッとした様に足を止める。

「へへっ、いいからちょっと待って、おまじないよ!」

 アンジェはそう言うと腰に提げた短剣を抜く。
 そして宙に何か文字を描くように鮮やかに振るうと、祈りを捧げるようにその柄を両手で握りしめる。
 エイジはその姿を見て──

「それは、ラエサルさんの……」

 アンジェが、ラエサルからプレゼントされたと言うあの短剣だ。
 鞘の切れた革ひもも、ロイとエイジの手によってすっかり直っている。
『紅』に武器を変えたからといっても、彼女にとってはこれは宝物だ。
 肌身離さず持っておきたいのだろう。
 その刀身には、ラエサルが使うナイフと同じ印が入っている。

「ダークエルフに伝わるおまじない。ナイフや杖で、私たちに伝わる印を描いて祈りを捧げるの。お母さんから教わったのよ」

 種族に伝わる風習のようなものなのだろう。
 エイジは冒険者ギルドで、エミリアがしてくれたおまじないを思い出した。
 アンジェは自分を見つめるエイジを見て、少し俯きながら言った。

「……ダークエルフのおまじないなんて嫌?」

 紫色の美しい瞳がエイジを見つめている。
 エイジはその肩に手を置くと笑った。

「そんなわけないだろ。ありがとう、アンジェ!」

 アンジェはパーティの仲間の無事を祈って伝統の儀式をしてくれたのだろう、とエイジは思う。
 そして、それがエイジのはやる心を少し冷静にさせてくれた。
 そのお礼もこもっている。
 それを聞いて、アンジェは嬉しそうに笑った。

「へへ、ラエサルが出かける時もいつもしてあげるんだ! だって迷宮の深層では、何が起きるか分からないもの」

「ああ、そうだな。気を引き締めていこう!」

 パーティメンバーも皆大きく頷いた。
 ライアンが大槍を構えると言う。

「任しとけって、今の俺は無敵だぜ!」

「ふにゃ~、よくいうにゃ。さっきまで一緒に足引っ張ってたにゃ。すぐ調子にのるんにゃから」

 それを聞いて皆顔を見合わせて笑う。
 この辺りの魔物はあらかた討伐したが、次の階層で暫く狩りをすればレベルも十分上がるに違いない。
 そうすれば一度迷宮の外に引き返せばいい。
 皆そう思いながら地下六十階層への階段を下りていく。

 ひんやりとした空気が、先頭を進むエイジの頬に触れて流れていく。
 通路は真っすぐに伸びている。
 パーティはその通路を暫く進んでいった。

「静かね」

 エリスの言葉にエイジは頷いた。

「ああ、確かに」

(変だ……静かすぎる)

 あの泉に入って鋭敏になった感覚が、エイジにそう告げた。
 この階層に入ってから一切魔物の気配を感じないのだ。
 同じように感覚が鋭敏になっているエリスも、何か違和感を感じたのだろう。
 シーフであるアンジェもエリスの言葉に同意した。

「確かに静かね。一体どうしたのかしら?」

 エイジはアンジェの言葉を聞きながら、じっと通路の先を見つめていた。
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