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第4章『理想郷の王冠』と『理想郷の宝石』
『理想郷の王冠』
しおりを挟む「はあ………………………」
またまた自室にて。
セオドアは大きな溜息をつきながら趣味の刺繍をしていた。アミィールへのプレゼントである。ハンカチなら皇女様でもお使いになるだろう。そう思って始めたのだが、心持ちは重い。
理由はひとつ。今日、初めて講師と会う日だからだ。アミィール様との甘く蕩ける日々で忘れていたけれど、俺は立派な皇配として勉強をしなければならないのだ。
剣技、武術、魔法、座学、公務、ダンス、礼儀…………………多少自分の父であるセシルに鍛えられてきたけれど、サクリファイス大帝国で通用するとは限らない。ましてや剣技等は不得手である。
加えて、当然のようにそれを指導する講師はお強いのだろう。アミィール様が直々に選び抜かれた講師達はきっと普通じゃない。
そう考えると憂鬱過ぎる。…………でも、そんな事を言ってもられないのは事実で。
アミィール様を愛するということは、それも覚悟の上なのだ。震えてばかりはいられない。レイが今アミィール様とその講師を呼んできている間に心を落ち着かせねば……………
そこまで考えたところで、コンコン、とノック音が部屋に響いた。俺は慌てて立ち上がり、臨戦態勢?をとる。
「ど、どうぞ!」
「失礼致します」
「セオ様!」
そう言うと、レイは扉に控え、アミィール様が小走りで腕に絡みついてきた。グハッ………今日も美しい…………ヘイリー達のように力任せな乱暴な絡み付きではなく、優しく、本当に大事に抱き締めてくれるのも、もうほんと、好き。だけど。
「………アミィール様、人前です」
「わかっていますわ。けれど、セオ様はわたくしの婚約者であると周知して頂くのも大切なことなのです。
そう思うでしょう?____ガロ」
アミィール様はそう言って扉を見た。
ガロ……………?その名前、どこかで____!
俺は、目を見開いた。
扉から現れた銀髪のベリーベリーショートヘア、ほどよく筋肉を感じさせる身体。それでいて美少女だと言われても不思議ではないくらい綺麗な顔、そして____金と赤の、オッドアイの瞳。
知ってる。
俺は、このキャラを知っている。
『理想郷の宝石』の乙女ゲーム版である『理想郷の王冠』の_____"人狼側近"・ガロだ。
セオドアは唾を飲み込んだ。
* * *
『理想郷の王冠』____それは、ギャルゲー『理想郷の宝石』の発売と同時にスマートフォンアプリとして発信された乙女ゲームだ。乙女ゲームもやっていた俺は、大好きな世界観の乙女版なんだ、と心を踊らせてやった。
『理想郷の王冠』は『理想郷の宝石』と違って殆ど情報_国名や深い設定_がなかった。ただ、イケメンと恋愛する為にイベントに課金して、可愛いドレスを身に纒い、スチルを集めるという…………なんとも今時な乙女ゲームでファンには『キャラはとてもかっこいいしストーリーもいいけどなんか物足りない』とやはりネットで叩かれていた。
ストーリーはこうだ。
ある国の王女として異世界転生で生まれたヒロインは前世の記憶を思い出し、人狼という人外の側近、隣国の王様、ミステリアスで特殊な幽霊、太陽を司る太陽神、ヒロインの先祖、…………他にも10人実装されると予告されていたヒーロー達と様々な苦難やヒーローの過去を乗り越えるのを支え、結婚をしハッピーエンドするという代物だった。
その人狼側近キャラが____目の前にいる、ガロなのだ。
「………………?セオ様?」
「あっ…………!」
呼ばれて、我に返った。アミィール様は首をかしげてから、ガロに言う。
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