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第5章 主人公の隠された能力
主人公チート能力『治癒の血』
しおりを挟む俺は、チート能力がない。
それはゲームの設定上決まっていること。
……………なのに。
俺は、自分の腕の血を見る。先程、ケーキを切ろうとしたら指先を切ってしまったのだ。結構深くて腕まで滴っている。それを心配してくれたアルティア皇妃様は駆け寄ってくれた。
けれど、急に膝が折れて、胸を抑えて倒れたのだ。場が慌ただしくなって、皇帝に言われたとおり机をどかそうとしたらその血が落ちて……………アルティア皇妃の身体が光った。
で、あっさり起き上がったのだ。
そして。
「……………ねえ、セオドアくん、ゲームノセッテイハコンナノウリョクアルノ?」
アルティア皇妃様は日本語で聞いてきた。俺は首を振る。そんな能力があるなんて、知らない。
そう応えると、アルティア皇妃はふむ、と考えてから太腿から小さな剣を取り出し……………手首を切った。
「!」
「アル!?」
アルティア皇妃様の手首から血が流れる。しかもかなり深い。しかし、痛がる素振りも見せずに、俺に差し出してきた。
「セオドアくん、ここに血を落としてみて?」
「ッ…………え、………はい」
俺は血が苦手だ。直視できない。でも、皇妃様の命令を逆らえない。恐る恐る手首に血の滴る腕を近づけ、1滴落とした。
すると、再び緑の光を放って____傷が。
「傷が……………なくなった………?」
「……………うん。やっぱりそうだ」
アルティア皇妃様はどこか納得したように頷いた。ラフェエル皇帝様が聞く。
「………………どういうことだ?」
「____この子、凄い力の持ち主よ。
この子の血は、"癒しの力"が凝縮してる。それも、身体を治すなんて生温いものじゃない。強力な治癒魔力を含んでいる………………この様子なら、死人でも生き返るわ」
「………………は?」
何を言われているのかわからない。
だって、俺はなんの特徴もない主人公なのに。
そんな力____あるわけ、ない。
「そんなの、嘘です、だって、私…………」
言葉を紡ぐが、アルティア皇妃様はいつになく真剣な顔で首を振る。
「……………私は元龍神の後継者よ。人間じゃない、大きな力を持つ龍神。そんな私の傷が癒す………ううん、なくなったの。
さっきだって、代償__膨大な魔力による身体の衰えが、弱まった。
こんなの、人間が当たったら、死人は命さえも取り戻す」
「____!」
言葉を失う。
いや、何を言えばいいのか分からないのだ。だって、そんな力、大きすぎる。平凡な俺にはあまりにも………………
呆然とするセオドアを他所に、ラフェエルは大声を上げた。
「リーブ!今すぐにエリアス、クリスティド、ダーインスレイヴ、フラン、ガロに伝え、それを口外させるな!」
「ハッ!」
「アル、お前は休んでろ。しっかり休んでから妖精神達に聞いてみろ」
「ううん。もう体も大丈夫だし、今すぐ聞くわ」
「わかった。…………無理はするな。
小僧!」
「はい!」
突然呼ばれて、大きな返事をする。怒られるか?と思ったが、予想外の反応だった。
「アルを___妃を救ってくれて、感謝する」
「ええ!?」
ラフェエル皇帝が頭を下げたのだ。皇帝が!頭を!この凡人に!
もう訳が分からない。何がどうなっているのかわからなくて頭が痛い。しかし、皇帝様は待ってくれない。
「アルの言う通りならば………………お前は、戦争の材料になりうる。
そして、アルの"代償"を____アミィールに受け継がれているであろう"代償"も、抑圧できる。
今までの仕打ちはいくらでも頭を下げよう。
だから_____アミィールと夫婦になってくれ」
「……………!」
初めて、お許しが出た。
代償とか戦争とかわからない。自分の血の事もわからない。けど。
なんでもよかった。
アミィール様と結婚出来る、お許しを貰える。
それだけで______俺は、嬉しかったんだ。
セオドアは、跪く。
胸に手を当てて、ラフェエルを見た。
「_____改めまして、セオドア・ライド・オーファンです。
謹んで、お受け致します」
俺は、愛する人と共にいれるんだ。
それがとても、嬉しかった。
____この時の俺は、やっぱり分かっていなかったんだ。
この力を持つ意味を_____。
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