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第6章 お披露目祭り
少し苦い馬車の旅
しおりを挟むサクリファイス大帝国に来て1年が経ち、もう俺とアミィール様は17歳だ。某悪役令嬢溺愛漫画のように何か大きな波乱があった訳でもなく過ぎ、俺たちは現在馬車に乗って俺の実家に向かっている。
行く前はドキドキして眠れなかった。
一年ぶりに両親に会うのも楽しみだが…………丁度一年前、馬車でサクリファイス大帝国に来る時はとんでもなく甘いひと時を過ごしていたから。
1年の時を経て、愛が薄れるどころか増していく一方で、最近では何かとキス以上をしてしまいそうになるから、2人で長時間居たらやばい。色んな意味で。
そう思ってドキドキしていたのだが………………完全な杞憂に終わった。
セオドアはそう思いながらちら、と向かいを見る。
「ねえ~!馬車もっと早く走って~!」
目の前には_____アルティア皇妃様。そしてその隣には超絶不機嫌なアミィール様。
_____今回のお披露目会に、アルティア皇妃様が同行する、と出立前突然言われたのだ。
もちろん驚いた。ラフェエル皇帝やアミィール様など怒り狂っていた。が、アルティア様はそれを全く聞かず、『なんかあったら転移魔法で帰ってくるから~ラフェーとも一日に1回は会うから~』とそれはもう子供のように駄々を捏ねたのだ。
「………………お母様、わたくしたちは遊びに来たのではありません。
騒ぐのでしたら城に帰ってください」
「あら、さっき帰ったわ」
「ではご自分の幻獣で行けばよろしいのでは?」
「セオドアくんのお家わからないもの」
「……………では大人しく城に居てください」
「いやよ、私だってセオドアくんのお母さんになるのよ?ちゃんと挨拶しなきゃ。うちの娘がどうも~つって。
ねえ、セオドアくん」
「セオ様、皇妃だからと言いたいことを我慢する必要はございません。はっきり来るなとおっしゃってくださいまし」
「う………………」
セオドアはびく、と身体を震わせる。
…………………この通り、皇妃様とアミィール様に挟まれて甘いひとときどころではありません。
セオドアは萎縮しつつも言葉を紡ぐ。
「私の両親は挨拶などしなくても「それでは礼儀に欠けるわ」………お、お気持ちは嬉しいです。両親は喜び「このような恥ずかしい皇妃を連れていくなんて迷惑ですよね」………………あう」
それはもう絶妙に合いの手をいれられる。何を言っても非難の目が向けられるし、詰んでる………………息が合いすぎてもはや仲良しである。
俺としては……………アルティア皇妃様のお気持ちは嬉しいし、アミィール様との甘いひとときも過ごしたかった。
やっぱり俺、我儘になってるな……………
アミィールとアルティアがバチバチと火花を散らしている中、セオドアは一人自己嫌悪に陥ってたのだった。
* * *
「んん……………」
やっとお母様のマークが外れた。
けれど、その時にはセオドア様はすやすやと寝てしまっていた。
本当に最悪である。……………せっかくの馬車の旅だというのに、あまりセオドア様とお話をしたり、甘いキスをしたり出来ないのですもの。
アミィールははあ、と溜息を着きながら膝に眠る_わたくしが勝手に頭を膝に乗せた_セオドア様を見る。
17歳を迎えたセオドア様は、一年前よりも体つきが逞しくなった気がする。毎日ガロを初めとする兵士や、"治癒血"の発現によって協力的になったお父様が側近のリーブにも剣術の相手をさせている。
今では一般的に習得が難しいと言われている3つの属性の魔法剣も使えるようになった。
サクリファイス大帝国は腕の立つ人間ばかりだから、そんな中で一年みっちり修行を重ねていれば体つきも変わるというもの。
でも、御心も変わられた。悪い意味ではなく、一年前までは萎縮しながら敬語を使っていたけれど、今はだいぶ慣れてきたし、内向的だった性格も少し積極的になった。
好きな人が変わっていく姿を傍で見られるのは、とても幸せなことである。
群青色の髪、長いまつ毛の下にはエメラルドのような純度の高い緑の瞳、男らしくなっていく顔つき、お優しい心………………
早く、早く結婚したい。
日に日に強くなる気持ちをどれだけ抑えているか、この方は分かっているのかしら?
「____セオ様、愛してます」
アミィールは、寝ているセオドアに口付けをした。
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