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第7章 主人公と皇女の結婚式前
皇女の勘違い
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夜、広く長い廊下を歩くアミィールは上機嫌だった。彼女がご機嫌になる理由はただ一つ、最愛の婚約者・セオドアに会えるからだ。
婚約者_____それも、あと5日で終わる。そしてわたくしたちは夫婦となれる。
最近、ずっと忙しかった。結婚準備や執務に明け暮れて、セオドア様とは朝と夜以外殆ど会えなかった。
けど。
…………正式な夫婦となったら、朝起きたら隣にセオドア様が居て、夜寝る時には隣にセオドア様が居る毎日に変わるのだ。そう思ったら嬉しくてたまらない。それだけではなく毎日毎日仕事終わりに自分の部屋ではなくセオドア様との甘い部屋に帰る、という日常に変わる。
こんなに心が弾むことが他にありましょうか?
____でも、この婚約者特有の『愛する人と会えないもどかしさ』も感じることは無くなるのだろうか。
そう考えれば寂しい気がしないでもない。だから、早足になる気持ちを抑えて、ゆっくり歩いたりもする。
「……………ふふ、贅沢な悩み」
アミィールは1人そう呟く。その声は幸せを噛み締めるような声である。
そんなことを考えていたら、愛しい人の部屋の前に着いた。わたくしは今1度大きな深呼吸をして、扉をノックする。
ノックをすると『どうぞ』と言う声が。…………?今日はなんだか、不思議な声ね。
『どうぞ』という声で、セオドア様の一日がいいものだったり、悪いものだったり、楽しいことがあった、嬉しいことがあった、大変だった……………様々なことがわかるのですが、今日はわかりません。
そんなことを思いながら『失礼致します』と言って中に入ると____セオドア様が、手を後ろにしてモジモジしながら扉の前に立っていた。
「……………あ、アミィ、今日もお疲れ様」
「お疲れ様です、セオ様」
そう言って互いの頬にキスをする。いつもの疲れが吹き飛ぶキス。けれど、今日のキスはほんの少しぎこちない。……………これは、尋問の必要がありますね。
そう思ったアミィールは、ずい、とセオドアの顔に自分の顔を近づけ、両頬を優しく両手で包む。
けれども、今日は驚いていない。目線は下を向いている。
「セオ様、どうしたのですか?……………わたくしを、見てくれないのですか?」
「そ、そうじゃない、そうじゃなくて…………ええと…………」
セオドアの顔が徐々に紅くなる。まるで、青いりんごが赤くなっていくように、ゆっくり、でも確実に。
何かを仰ろうとしているのはわかる。けれど、なにを仰るのでしょうか…………まさか、婚約を破棄したいなど……………
ありえない、それは分かっていても、不安になった。…………マリッジブルーというものかしら?
いつもの冷静さはどこへやら、アミィールは独りよがりな考えで、暗くなる。
一方、セオドアはしばらくもごもごしつつもアミィールの顔が暗いことに気づき、言葉を飲み込んで、聞いてみた。
「?アミィ、どうしたんだい?」
「………………セオ様は、わたくしと結婚、したくないのですか?」
「え」
予想外の言葉に思わず声が出る。
は?なぜそんなことを?
呆然とするセオドアをよそに、とうとうアミィールは涙を滲ませ、言葉を紡ぐ。
「わたくしの、龍の姿を見たから…………ッ、もう、結婚、したくありませんか…………?セオ様、真剣で、言いづらそう…………やはり、わたくしは……………」
「………………ッ!」
とうとう泣き出してしまったアミィール様。勿論そんなことはない。寧ろ龍の姿も美しいと思っている。……………俺が意気地無しで、もじもじとしていたから、アミィール様を不安にさせてしまった……………?
「そ、そうじゃない!」
セオドアは扉の前に立っていた執事のレイに"ある物"を渡し、慌てて抱き寄せた。
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