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第12章 様々な愛の形
魔剣は古き友を想ふ
しおりを挟む「くあ~、今日もいい天気だねえ」
ダーインスレイヴはいつもの庭園の大きな木の上で欠伸をしながらのんびりとそう言った。
………………この世界が変わって20年、いや、もう21年になる。アルティアの父親であるガーランドと当時の第1皇太子で次期龍神の契約者のサイファーとの"約束"をちゃんと果たせた俺は、今ではこうして平和な日々を生きている。
サイファーが今の平和な世の中を見たら泣いて喜ぶだろう。そりゃあ、未だにサクリファイス皇族は手に剣を持っている。けれどそれは自ら起こしたものではなく、ほかの国々や、そこに住む国民を守る為だ。ラフェエルとアルティアは人間が全員もれなく嫌いなはずなのに、それでもその人間の為に尽力している。
やはり俺が『皇帝になれ』と言ったのは間違いじゃなかった。事実、ラフェエルは元々優秀な人間だったから今では各国がラフェエルを敬い、そしてラフェエルもそれに答えて……………大きな争いが起きていることは無い。
人間というのは愚かで、それでも裏で悪事を働いている。奴隷売買や子供虐待、飢饉や小競り合い、盗人…………未だにそれは衰えを見せることがない。それを粛清するのが今の主な仕事である。
アルティアは…………まあ、アルティアだよな。ガーランドに自由に育てられ、ガーランドの愛を受け、………ガーランドをその手で殺して。最初は父親を殺した自分に落ち込むかと思ったが、『落ち込んだらガーランドはゆっくり眠れないでしょ』なんて笑って言ってガーランドが願っていた自由を謳歌している。これを聞いたらガーランドだって『俺の娘は可愛いだろう!凄いだろう!』なんて言うのだろうな。
2人とも、きっとその2人が結ばれて、子供を産んで、その子供が心優しい男と結婚したなんて聞いたら号泣ものだな。
そこまで考えて、ふ、と頬が緩む。
_____俺がサイファーと出会ったこと、ガーランドと旅に出たこと、2人が辛い道を選んだこと、それに納得できなくて死に、魔剣として生を与えられたこと。
それは全て幸せなものとは言えなかったけれど、それでも後悔はない。全部なるようになって。でもなるようになるだけではなく、俺が手を取り導いた者達が新しい世界を作って彩らせている。
それが全てだろう?
…………とはいえ、どうせ俺は魔剣で幽霊で友たちとの約束を果たしたから離れる、なんてかっこいいことはできず、この城に住み着いて、偶に力を貸している。
約束を叶えることができた上、自分らしく自由に生きられるのはこんなにも嬉しいことなのだな。
サイファー、ガーランド。
そっちはどんな世界だ?2人で笑い合っていると信じている。俺はこの命が尽きるまで、お前らの宝を見守っていてやる。それが終わったら酒でも飲んで、俺の話を聞いておくれ。
「いた!ダーインスレイヴ様!」
「……………?」
そんなことを考えていたら、下から声がした。
見ると_____その宝が生み出した子供の旦那、セオドア・ライド・オーファン…………いや、セオドア・リヴ・ライド・サクリファイスだ。ここに来ることはそう珍しいことでは無いが、俺に用があるのは珍しい。
というか、俺のことをいつ何時でも呼び出すことができるピアスを与えたというのに使わないとは……………なんというか、難儀な性格の気がする。
そんなことを思いながら、降りる前にセオドアの心を覗いてみる。
『フラン様とどうして付き合わないのか、好きだと言わないのか知りたい。俺は結ばれて欲しいし、いくら…………だとはいえ幸せになってもいいだろ、俺だって…………なのに、…………と結婚できたし、不可能では…………』
「………………」
このとおり、ところどころ虫食い状態の心の声が聞こえる。セオドアはいつも吃るけれど心は雄弁だ。いつになったら俺が心を読めるのを理解できるのだか…………
そんなことを思いながら、木から降りた。
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