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第13章 主人公と擬似育児

主人公は優しくない

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 「ん、ふ…………………」



 セオドア様はわたくしの言葉を聞かず、廊下なのに唇を重ねてきた。いつも、公共の場では恥ずかしがってしないのに………………



 何度も何度も、慈しむように啄まれる。涙でぐちゃぐちゃになった自分の顔を見られたくなくて、目をぎゅっと閉じた。




 アミィール様の顔は涙に濡れていた。唇に少し血の味がする。………アミィール様はなにか怒ると、なにか我慢すると直ぐに唇を噛むんだ。……………こんなことまで、俺は知っている。




 ヨウを養子にいれたいほど可愛がるのはわかる。
 俺もヨウのことは好きだ。

 けど。



 それでも____俺達の間に生まれた子供の方が、どうしても気が行くだろう。それは、良くないと思ったんだ。



 みんなは俺を『良い奴』、『優しい奴』と表現するけれど。『良い奴』でも『優しい奴』でもない。


 俺は、アミィール様との御子しかきっと心の底から愛せない。孤児院の子供達は大好きだけど、大好きの種類が違うから。



 俺は_____何にも縛られることなく、自由に自分の子供を愛したいんだ。




 そこまで考えて、セオドアは唇を離した。目を強く瞑っているアミィールの涙を舌で舐めとる。ぴく、と揺れる身体さえも愛おしい。



 「____アミィ、アミィはどう思う?」



 「…………わたくしの心は…………いつだってセオ様と同じが、いいです。

 申し訳ございません、わたくしは……自分のことばかり考えていました……皇女、失格ですね」



 「そんなことないさ。………俺は、ヨウを大事にしていた貴方にも愛おしさを感じていたのだから」


 セオドアはそう言ってちゅ、と目元にキスをした。アミィールはそれを受けてから、やっと笑った。けれどもそれは…………とても意地悪な顔で。



 「____セオ様は、わたくしとの子がそんなに欲しいのですか?」


 「え」



 唐突の問いにセオドアは目を見開く。そして、意味を理解してかあ、と紅くなる。男前モードはアミィールの意地悪な顔の前では効果を無くすのだ。



 「いや、その、いずれ、ほしい、というか、俺が………1人前に、なってから…………」



 もごもごと吃る耳まで赤いセオドアに、アミィールはくすくすと笑って、抱き締めながら耳元で甘い声を出した。


 「セオ様、…………一週間ぶりの子種、わたくしの子袋に余すこと無く注いでくださいまし」



 「~ッ!」


 アミィールの一言に、理性が完全崩壊したセオドアは、顔を赤らめながらもアミィールを抱き抱え、部屋の扉を閉めて_____朝まで、アミィールの部屋から出てこなかった。





 *  *  *



 次の日。


 「じゃあね、ヨウくん!」


 「…………しっかり護衛しろ、保母」


 「はい、1週間、この子を預かっていただき感謝致します」



 玉座の間にて、保母がヨウを抱えて頭を下げた。その場には皇帝夫婦は勿論、アミィールとセオドアの姿もあった。

 セオドアは保母に抱えられたヨウの頬に触れる。



 「ヨウ、また孤児院で会おうね」 


 「あぶー!」


 ヨウはにぱ、と破顔する。やっぱり可愛い。………のだが。


 「ッ……………」



 後ろで、啜り泣く声が聞こえる。見なくてもわかる。アミィール様だ。………アミィール様は、朝一で皇帝夫婦に謝り、ちゃんとヨウを返すと言った。けれども、やはり気持ちの整理は出来ていなかったようだ。


 また会える。けれど、ちゃんとアミィール様のお口から『またね』と言って欲しくて。



 「アミィ、こちらへ」


 「…………はい」



 セオドアが優しく微笑みながら手を差し出すと、アミィールは泣きながらもその手を取って、ヨウに近づく。ヨウはそれを見るなり、手を横に振って口を動かした。


 「ば、ばい」


 「…………!い、いま、ばいばい………って!」



 アミィールはそれを聞くなり目を見開く。セオドアはたどたどしいヨウの言葉にくす、と小さく笑ってからアミィールに言う。



 「アミィも、ばいばいしようね」



 「っ、ヨウ様、また会いましょうね」

 「………!」




 アミィールはそう言って、おでこにキスを落とした。………いかんいかん、赤ん坊にまで嫉妬するな俺。これは挨拶だから!相手は赤ん坊だから!…………でも、後でキスして上書きしよう…………



 そんなことを思っているセオドアを放って、保母とヨウは玉座の間を後にしたのだった。









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