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第15章 主人公と兄
貴方を救う唯一の方法は
しおりを挟む「セオドア」
「ッ…………ぐず、………はい」
未だに泣いているものの、比較的落ち着いてきたセオドアにラフェエルは声をかけた。その顔には___ほんの少し憂いを含んでいる。その顔で、セオドアに言葉を投げかけた。
「____私達家族はアルティアの言った通り手を穢している。このユートピア黎明期を乗り越えるまで粛清はやめない。アミィールもきっとそう思っている。これからも殺し続けるだろう。
それを踏まえて考えろ。
お前は___どうしたい?」
「…………?」
どうしたい?という質問の意図が分からず、アルティア皇妃様の腕の中で覚束無い思考を巡らせる。何度考えても分からない俺に、ラフェエル皇帝は低い声で言った。
「…………アルティアの言う通り、お前の手を穢したくない。お前がいくら泣き喚こうが、戦場には出さない。
____その現実を受け止められないのなら、アミィールと離れろ」
「なっ………!」
アミィール、という言葉にセオドアは過敏に反応した。離れろ?何を言われている?
「…………お前の身は責任持って保護する。アミィールにも私から説得しよう。幸い子も出来ていない。
離れるなら今しかない。…………引き返せなくなる前に、問おう。
お前は____どうする?」
そこまで言われて、やっと理解した。
ラフェエル皇帝様は俺達を無理に引き離そうとしているのではなく、俺の意思を聞いているんだ、と。
この現実を知って、アミィール様と離れるかどうかを考えろ、と。
そして____ここで答えを出せ、と。
……………確かに、俺はショックを受けた。
アミィール様の『穢れている』の意味を初めて理解して、悲しみに溺れた。アミィール様の強い覚悟に、俺は自ら足を突っ込んだ。そんな俺に優しく教えてくれ、あまつさえ『お前の好きな道を選べ』と言ってくれている事に震えている。
無力な自分に嫌気がさし、アミィール様の力にもなれないと実感した。
___だけど。
離れるべきなのだろう。
アミィール様は頑固だから、自分が行くと決めた道はいくら俺が止めたって突き進む。2年間見ていればわかる。どんな辛い選択でも迷わずそれを選ぶんだ。
____だけど。
俺はそれを止める力をも欠如している。このままでは負担になる。アミィール様のように冷徹な考え方もできない。
____だけど。
冷静に考えている思考に『だけど』が付き纏う。…………その理由も、俺はちゃんと分かっている。
だから。
セオドアはそこまで考えて、やっとアルティアから離れた。そして、ラフェエルの前まで歩み寄った。そして、真っ直ぐ見据えて、力強く言った。
「_____俺は、アミィール様に俺の子を孕ませます」
「___!」
セオドアの言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。けれど、セオドアの言葉は止まらなかった。
「俺は………全部聞いた上でやっぱり、アミィール様に人殺しをして欲しくないです。もっと言うなら、ラフェエル皇帝にもアルティア皇妃にも、ガロにも、リーブにも………ユートピア全土に住む国民にも。
ですが、それは今はまだ叶わないと仰いました。それは俺も理解しました。
ならば。
俺は____せめて最愛の人だけでも、剣を握らせないようにしたい。
アミィール様の固い決意を変えるためには…………孕ませるしかない。子供を持てば、いくらアミィール様…………アミィでも無理はなさらないでしょう。 ラフェエル皇帝もアルティア皇妃だって、必死に止められますでしょう。
私はサクリファイス大帝国皇族の一員です。…………引き返す事などしません。
アミィール様を___心の底から愛しているので」
セオドアは堂々と言い切った。
…………俺の少ない脳みそで考えた、唯一の方法。アミィール様に剣を握らせない方法は…………これしかないんだ。
2人の結婚生活は楽しい。ずっとしていたい。子供を作るのは遠い夢だと思っていた。こういう目的で子供を持つのは間違っているかもしれない。
けれど。
____アミィール様を無力な俺が守る唯一の方法は、これしかないから。
セオドアは全員を見た。未だに驚いている全員の前で大きく息を吸って、言葉を吐き出した。
「なので、御子ができたら!アミィール様にもう『任務』などさせないようにご協力ください!」
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