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第18章 新しい家族と新しい生命
体調が優れない皇女
しおりを挟む本当に最悪ですわ。
アミィールは心の中でも毒づく。
隣には可哀想なくらい縮こまってしまった愛おしい御方。目の前には___厚顔無恥丸出しの父親。
わたくしはセオドア様と2人で馬車に乗りヴァリアース大国に向かいたかった。
結婚式前に挨拶に行った時は母親がついてきて、今回は父親がついてくる。
これがどれだけ恥ずかしい事か分かりますか?わたくしのセオドア様に寵愛を向けて、皇帝という地位でありながら国を放ってこうしてわたくし達の甘い時間を邪魔するのです。腹立たしい。
わたくしは父親が嫌いなわけではありません。けれども、せっかくのセオドア様との馬車の旅を邪魔するなんて無粋だとお思いになりませんか?
腹が立っているせいか胸がムカムカする。ご飯も喉を通らない程なのです。そして、少しだけ熱っぽい気がします。
こういう時は。
「セオ様」
「?なんだい?」
アミィールは隣に座るセオドアを呼ぶ。セオドアは顔を少し青くしながらも、アミィールには優しい笑みを浮かべている。………こんなに顔を青くして…………うんち皇帝は本当に最低ですわ。
うんち皇帝など放って、わたくしはセオドア様に甘えてみましょう。
「あの、…………もしよろしければ、その、…………お膝をお借りしてもよろしいですか?
少し気分が悪くて………」
「!?それは大丈夫なのかい!?………よく見たら顔色が悪いじゃないか!」
わたくしの言葉に、セオドア様は緑の瞳を大きく見開いて、わたくしの頬に触れる。温かい体温にじんわりと胸が温かくなる。
「大丈夫ですわ。………いえ、やはり大丈夫ではないので………はしたないですが、お膝を貸して頂けませんか………?」
「勿論だ、おいで、アミィ」
セオドア様はそう言ってわたくしの頭を優しく押して、膝枕をしてくれた。わたくしも馬車の椅子に横たわり、その幸せを享受する。………いくら可愛らしい御方でも、身体付きは男の人で。少し硬い太ももがほんのすこし胸を高鳴らせる。
セオドア様と出会うまでは………というか、セオドア様以外の男の身体にはまるで興味が無いので、こういうのを肌で感じると、落ち着きます。
「はしたないぞ、アミィ。セオも甘やかすな」
「うるさいですわお父様。この馬車はわたくしの馬車です。気に食わないのでしたらお帰りになってくださいまし」
「金を払ったのは私だ。図に乗るな」
「あ、あの、ラフェエル皇帝様、アミィは体調が悪いので…………」
「……………お前はアミィを甘やかしすぎだ。そんなじゃじゃ馬娘など放っておけ」
「それはできません!アミィ………アミィール様は、私の大事な、愛する御方なので」
「セオ様…………」
皇帝相手にも億さずわたくしを愛していると言ってくれたことが嬉しくて、身体のだるさなど、どうでも良くなる。………わたくし、こんなに幸せでいいのでしょうか………いつも、いつも思ってしまいます。
アミィールはそう思いながら、目を閉じた。
* * *
馬車の旅25日目
「すう………………」
「ふ………いつ見ても可愛らしい寝顔だな」
セオドアは膝の上で眠るアミィールを優しく撫でる。…………馬車の旅はラフェエル皇帝が居るため、甘い雰囲気にはならないけれどこうして甘えてくるようになった。レアだった寝顔を毎日のように見ていて、これはこれで幸せである。
長いまつ毛に触れてみたり、寝ているアミィール様に口付けをしてみたり、………話をするのも楽しいけれど、さりげなくいつもの仕返しをするのも楽しいのだ。
「…………可愛くはないだろう」
「……………」
ラフェエル皇帝様の言葉に閉口する。
実の娘ですよ?そうでなくともアミィール様を可愛いと言わない男など居ないだろう。いや、可愛いと言うより美しいと思う人間が多いのだろうが。………アミィール様の『可愛い』を知っていいのは、俺だけだ。
俺以外の男がアミィール様を可愛いと表現したら怒り狂う自信しかない。………独占欲が強いのは、アミィール様だけじゃないのだ。
そんなことを思いながら、ガラス細工を触るように撫でる。髪の毛はやはりサラサラだ。今すぐ顔を埋めたい。
「顔が緩んでいるぞ、セオ」
「幸せですから、これは仕方ないのです」
セオドアはすんなりと恥ずかしがることなくそう言った。
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