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二章 旅立ちの日

51.観光に行こう

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 四対の猫の手の中にしっかりと握られた金属球。
 とても気色の悪い絵面だった。

『気色悪いとは心外ニャ! これが今すべき最善の手じゃったのじゃ! 手だけに!』
「うるさいわ! 上手い事言ってないで早く引っ込めろ! 誰かに見られたらどうするんだ!」
「ニャオウ(ぬぅ、細かい奴じゃのう』

 チャロは不貞腐れたような表情を浮かべ、余計に生やした手をしまった。

『猫の手を借りたい時はいつでも気軽に言うがよいぞ? いくらでも貸してやるからのぅ』
「はいはい……分かりましたよ。その時は是非よろしくお願いします」
『うむ、よき心掛けじゃて』
「これからは外で不用意に今みたいな事はしないでね」
『手を生やす事か?』
「手もそうだし、目も尻尾も! 他にも出来る事あるんだろうけど、外では普通の猫として振る舞って下さいって事だよ」
『ふむ……まぁお主がそう言うニャら仕方あるまいて』

 ふんす、と鼻を鳴らしたチャロは大きな伸びを一度して、とてとてと先を歩き出した。
 僕もそれを追うように、余計に出した金属球と糸を消して歩き出した。



   ■



 雄大なシュティレ大河の河川敷を歩いてしばらくしての事。
 チャロを拾った場所よりも、さらに下流の方へと踏み込んだ。
 シュティレ大河の分岐点まで後一キロ、と表示された看板が目に入った。
 
「結構歩いたな」
『そうさな。何じゃ、疲れたのか?』
「疲れてない、とは言えないけど体力的にはまだまだ余裕かな」

 僕が読んだ事のある観光本には、最下流域とも呼べるこの場所の事は書いていなかった。
 しかしながら、なぜ書かれていないのかは、町並みを見れば一目で分かった。
 観光本には上流域と、僕が宿を取っている中流域の話題しかなかった。
 どうやらテルルの街、最下流域の辺りは貧困層の人々が住む領域のようだった。
 道を照らす街頭は、まばらにしか設置されておらず、路面の舗装もしてあったりしてなかったりと、中途半端な状態。
 舗装がしてある所も、至る所にひび割れが起きていて、雑草が生い茂っている。
 
「あんた旅の人かい? こんな所に何の用だ」
「え?」

 あばら屋が目立つ住宅街を歩いていると、路地裏から声をかけられた。
 声をかけてきたのは、お世辞にも綺麗とは言えない衣服に身を包んだ無精髭の男。

「こんにちは、特に目的があるわけじゃないのですが……」
「そうかい。ならこんな所さっさと出るこった。今ここらは色々あって殺気立ってる。知らない顔の奴がいたら襲われちまうぜ?」
「色々……襲われたしまうのですか?」
「そうさ、この俺みたいな奴になぁ!」
「うわっ!」

 男は突然僕の顔目掛けて砂を投げつけ、そのまま体当たりをしてきた。

「な、何するんですか!」

 体当たりをモロにくらい、男と一緒に地面へ倒れる僕。
 
「持ってるもん全部よこしな! もちろんテメェの命もだ!」
「くっ!」

 男は僕の上に馬乗りになり、手に持ったナイフを僕の胸に向けて微塵の躊躇も無く振り下ろした。
 だが男のナイフはガチィン! という硬質な音と共に弾きとんだ。
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